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足関節捻挫を予防するために

今回ご紹介する論文

『Risk Factors for Lateral Ankle Sprains and Chronic Ankle Instability』

Eamonn Delahunt, PhD, BSc (Physiotherapy),J Athl Train (2019) 54 (6): 611–616.

『足関節外側捻挫と慢性足関節不安定症の危険因子』という研究論文になります。
まず今回の研究の目的は、足関節捻挫と慢性足関節不安定症の危険因子を先行研究から分析・評価した論文であり、少しだけその予防策にも触れています。
前回の記事では傷害予防の段階についてお話しましたが、その観点も踏まえると、スポーツ現場において今回の研究がどのように取り入れられていくべきかがわかってくると思います。
今回も論文の中身にも触れながら、スポーツ現場の視点でどのように捉えていくべきか考えるきっかけになればと思います。

足関節外側捻挫における内在的な危険因子

年齢
足関節捻挫のIRのピークは、女性では10歳から14歳(1000人年当たり5.4人)、男性では15歳から19歳(1000人年当たり8.9人)であった。
性別
スポーツをする人々の間では、足首の捻挫のIRに性差は認められなかった。
体組成
LASを発症したフットボール選手の平均BMIは、29.32±6.08kg/m2であった。これは、LASを発症しなかった選手の平均BMI(26.70±4.64kg/m2)とは異なっており、関連する効果量は中程度であった。
既往歴
足関節捻挫の既往がある参加者は、その後の捻挫を起こす可能性が2倍高いことを示した。
足関節捻挫のリスクを低減するためにこのような装具を使用することを裏付ける強い証拠があることから、臨床医は足関節装具の推奨を検討すべきである。
筋力
足関節と股関節の筋力が不十分であると、足関節捻挫のリスクを高める可能性がある。
姿勢バランス
LASを発症した選手は、発症していない選手と比較して、Star Excursion Balance Testの前方向のリーチ距離スコア(65.57% ± 7.90% 対 69.72% ± 7.53%; すべてのスコアは脚長に対する割合で正規化)が低くなった。
内在的危険因子(心理的要因)
関節解剖学と心理的要因(例:競争心、モチベーション、リスク認知)は、包括的傷害原因モデルにおいて、傷害の内部または内在的リスク要因として含まれているが、LASと比較して、これらの分野の論文はほとんど発表されていない。
外在的危険因子
LASの割合が最も高いスポーツは、男子バスケットボール(1万AEあたり11.96人)、女子バスケットボール(1万AEあたり9.50人)、女子サッカー(1万AEあたり8.36人)であった。
誘因となる瞬間
足関節外側捻挫は、通常、非荷重から荷重への移行時に発生する。
LASは、矢状面の位置に関係なく、足-足首複合体の急激な内返しと内旋の負荷の結果として発生すると考えられる。

Eamonn Delahunt, PhD, BSc (Physiotherapy),Risk Factors for Lateral Ankle Sprains and Chronic Ankle Instability,J Athl Train (2019) 54 (6): 611–616.

レビュー

私が今回の論文で気になった所としましては、BMIが足関節捻挫の重要なリスクファクターであるという所です。
足関節捻挫を受傷しやすいアメフトの選手の平均BMIの値は29.32±6.08kg/m2で、一方で受傷しなかった選手の平均BMIの値は26.70±4.64kg/m2であったと著者は述べています。

ただ、私はこのBMIと足関節捻挫を結びつけるのには少々無理があるのではないかと感じました。
BMIとは、体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}で求められ、肥満度を表す体格指数です。
基準値としては、18.5未満がやせ、18.5〜25未満が普通、25以上が肥満となっています。
今回の論文の結果では、受傷しやすい平均BMIが29となっているため、肥満傾向の人すなわち体重が重い人は皆、足関節捻挫をしやすくなってしまいます。
もちろん体重が重い方が身体操作が難しくなるため、瞬間的な運動制御ができずに受傷することは想像できますが、BMIではない指標(除脂肪体重、LMI等)で評価することでより詳細な結果が得られたのではないかと感じました。

そのためスポーツ選手の身体を見る時は単に体重という指標だけでなく、何によって重いのかを評価する必要があります。
脂肪が多くて重いのか、筋肉が多くて重いのかは意味が違いますよね。
体組成という項目なのであれば、体脂肪率くらいは示してもらえると違った結果があったのではないかと感じました。

傷害の原因モデルの総括:足関節外側捻挫

以上の結果をまとめたものが下記の図になります。
内在的要因(年齢、性別、既往歴、姿勢バランス、心理的要因等)が複雑に関係し合い、足関節捻挫の危険因子として存在しています。
そこに外在的要因(競技種目)が加わり、さらに足関節捻挫受傷のリスクが高まると述べられています。

そのため予防的介入としては、今回の内在的・外在的要因に対して介入方法を考えていくことが重要であると著者は述べています。

Established intrinsic and extrinsic risk factors for lateral ankle sprain. Abbreviations: BMI, body mass index; NCAA, National Collegiate Athletic Association.

スポーツ現場で求められるものとは…

ここまでの今回の論文による研究結果を踏まえて、私の経験や現場での実際について触れていきます。

現実的には青年期・育成年代と呼ばれる現場で傷害予防を積極的に実施できる環境はなかなか無いのが現状です。
一部の予算のある競技やチームはアスレティックトレーナーや医療従事者を雇用し、その役割を担っていますが、それはごく一部です。
前回の記事でお話しした論文からしても、まずスポーツ現場に傷害予防策を落とし込むならば、その環境整備(雇用条件、人員配置等)から考えなければならいというのが真の課題ではないかと感じております。

性別による捻挫の発生率に違いは見られないようですが、男女どちらにせよ予防策は講じなければならないのは当然ですね。

ちなみに私が実際にどちらの選手も指導したことがある中で感じるところでは、男女による傷害予防の取り組み方には違いがあると感じております。

女性競技者の方は、私の指導に対して真摯に自分の弱点に向き合って予防エクササイズなどに取り組んでくれました。
ただ、あまりにも一生懸命なので、疲れてても絶対にどんな時もやらなければ!みたいな感じで、負荷の調整に苦労した記憶があります。

一方男性競技者の方は、予防の必要性を感じて真剣に取り組んでもらうまでに時間を要したり、エクササイズもやったりやらなかったりというのも少なくないですが、ケガが減り、パフォーマンスが向上する感覚が得られると更なる向上心を持って取り組んでくれていた記憶があります。

したがって、男女それぞれで予防策を受け入れてもらうために、指導方法やアプローチを変化させる必要があることがこれまで経験で感じたところです。

足関節捻挫のリスクを低減するために装具は必要?

論文の中にある一文ですが、リスクを低減するために足首に装具を装着することが重要であるということでした。

もちろんアスレティックトレーナーがいないチームにおいて、中高生が効果的にテーピングを巻いてプレーをすることができないため、安定性を高めてくれる足関節装具は必要かと思います。
しかし、プレー面においてはプレーのしにくさというものを感じるかと思います。

私の考えとしては、それだけで足関節捻挫に対する予防を終わらせるのではなく、最終的には装具を外してプレーができるようになるまで介入することが重要ではないかと思っています。

私が以前在籍していたJリーグのトップチームでも数名の選手が毎回の練習で足首にテーピングを施していましたが、足関節捻挫は予防できても、近接関節の痛みや筋肉系の傷害に発展してしまうことが多いような気がしていました。

この感覚的に感じていたことが、後の私の研究テーマにもつながっていくことになりますが、その当時はまぁそりゃそうだろなくらいにしか思っておりませんでした。

筋力という観点からみた足関節捻挫の発症率として、足関節と股関節の筋力不足が足関節捻挫の再発
に関係していると述べられています。

また、特に足関節周囲筋の遠心性筋力(筋に伸張ストレスがかかりながら筋収縮する時の力)と股関節伸展筋力(脚を後ろに引く時の筋力)が筋力低下している場合に発症のリスクが高いと述べられています。

このことから著者は足関節・股関節に対する予防的介入が足関節捻挫の発症率低下に寄与することが期待できるとされています。

これもまた私見ですが、私は主に股関節を中心にコンディショニング(運動療法や手技療法等)を行う事が多いのですが、コンディショニング後に選手たちに聞くと、足関節に触れなくとも足周りの感覚が良くなるというリアクションをいただくことが多いことに気が付きました。
こちらもまた私がこれから研究していく上で重要な背景となっています。
今後研究テーマが定まってきましたらお伝えしたいと思います。

以上が私の経験も踏まえた論文のレビューとなります。

最後に…

足関節外側捻挫の危険因子について述べられた論文をレビューし、私見も含めた実際の現場での実情にも触れました。

その際、現場で感覚的に感じていたことを今後の研究で明らかにしていきながら、違った視点で傷害予防について知見を深めていきたいと思います。

今回も最後まで読んでくださりありがとうございました。

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