1年目の誕生日
朝起きてリビングに行くだけで貰えた「おめでとう!」の言葉。
一人暮らしを始めた今年はない。
もちろん電話はくれるし、友人も祝ってくれる。
しかし自分事のように喜んでくれるあの場面に遭遇することはもう無い。
それが大人になるってことなのか、と寂しさはあまり感じなかった。
誕生日まで残り5時間、バイト中だった私は社員さん達に呼び出されてロッカールームへ。
何かやらかしたのだろうかと冷や汗をかきながらドアを開ける。
「お誕生日おめでとう!」
そんな声に顔を上げると目の前にはHappy birthdayの文字、大きな風船、プレゼント。
声の主達は満面の笑みでこちらを見ていた。
嬉しさよりも先に込み上げてきたのは安心だった。
家を出て無くなったと思った場面が、ここにある。
(社会に出ても、私を祝ってくれる人はいるみたい。だから大丈夫だよ。)
誰に向けるでもない、少し不相応な、そんな言葉が浮かんだ。
3ヶ月という時間は好かれるにはあまりにも短く、嫌われるのには十分だ。
普段から愛想の良い方ではない。
この時だって大きく喜ぶこともできなかった。
そんな私に向けられた、母と変わらない年の社員さん達の見守るような目は、どこか懐かしかった。
帰り道。
友達へLINEを送る。
嬉しい報告を素直にするのは照れ臭さかった。
「しばらくバイトやめられないなぁ笑」
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