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【怖い話】 禍話リライト 「高速バスガイド」

高校の同窓会で、かつての恩師に再会する。
高校時代にはタブーだった酒を堂々と飲み、対等な大人として先生と顔を突き合わせて語り合う、懐しくも晴れがましい機会だ。
そんなとき、高校生には教えられなかった秘密を、改めて知ることがある。ミウラさんの場合は、元副担任のホンダ先生から秘密を打ち明けられた。



ことの起こりは、修学旅行の記録ビデオの話題だった。
当時副担任のホンダ先生は、旅行中の撮影係を任されていた。カメラ片手に走り回る姿が印象に残っている。
「そう言えば、ホンダ先生、移動中のバスでもずっとビデオカメラを回してましたよね」
何気なく触れると、先生が苦笑した。
「最初は、なんでバスの中なんて撮るんだろうと思ったんですけど、バス移動も意外に盛り上がってましたよね」
「うん」とホンダ先生がうなずく。「クイズとか、カラオケとかな」
「カラオケ良かったですよね。担任のシバタ先生がスピッツ歌ったりとか。それで、「あー、確かにバス内も撮影した方がよかったなー」って思ったんですよ。でも使われなかったじゃないですか」
記録ビデオには、バス内の光景はいっさい登場しなかった。
「あれ、理由がよくわからなかったんですよね」
当時も理由を聞いて、言葉を濁されたのを覚えている。
「うん」と先生は言い淀む。
「ちょっと事情があってさ。あの時は言えなかったけど、まあ今なら言ってもいいかな」
そう前置きし、ホンダ先生は語りはじめた。
それでも、なかなか本題に入ろうとしない。

「バスガイドさんいただろ?」
「なんて人でしたっけ? 名前おぼえてないけど、結構おもしろい人でしたよね」
「アサクラさん」
問題はそのアサクラさんの映像らしいのだ。
「え、まさか心霊写真とかですか?」
ビデオだから心霊映像と呼んだ方がいいだろうか。
バスガイドさんの後ろにおかしな人影が写るとか。
それなら先生の言いづらそうな様子も理解できる。
「心霊写真と言えるのかな。いまだにどういうことなのかよくわからないんだけど」

ホンダ先生の説明によれば、バス内の映像のほとんどに、アサクラさんの映像が写り込んでいたそうだ。
ミウラさんは首をかしげた。
バス内の記録映像に、バスガイドが写り込むのは当然ではないか。
「確か、バスガイドさんが司会とか観光案内とかしてましたよね」
「うん。司会姿が写ってるならいいんだけどな」
司会進行役なら運転席の横に立っているはずだ。
「映像の隅に、バスの補助席に立ったり座ったりしているアサクラさんが必ず写っていてさ」
「立ったり座ったり?」
司会の合間に、立ったり座ったりすることもあるだろう。
「一回二回じゃなくて、残像が見えるくらいの速度で、上下に動いてるんだよ。カメラを回すと、画面の隅に必ず立ったり座ったり立ったり座ったり立ったり座ったり……」
喋りながら、ホンダ先生の手が、サッサッサッサッサッサッとリズミカルに宙をかく。
「絶対に、そんなことしてなかったはずなんだけどな」
ミウラさんはコクリとうなずく。
そんなことがあればさすがに覚えている。
「それを見てたら、なんだかおかしな気分になってきてさあ」

気になったので、すぐバス会社に問い合わせてみたそうだ。就学旅行中のことで確認したいことがあると理由をつけて、担当者に電話をかけた。
「なんて言われたんですか?」
返ってきたのは、アサクラは旅行後すぐ病気で退職して、こちらでは把握しておりませんという回答だった。
「もうわけわかんないよなあ」そう言ってグラスをあおり、ホンダ先生は一気に酒を飲み干した。


この記事は、怪談ツイキャス「禍話(まがばなし)」で放送された怪談をリライトしたものです。

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/578187838

2019/11/16放送分「THE禍話 第17夜」18:39-

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