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【音楽】師匠の話

オーボエという楽器を始めて21年になる。
最早人生の半分を超えてしまったのだが、その21年前に出会った師匠の話。

師匠との出会いは高校1年生の頃だった。
見学に行った吹奏楽部でオーボエをしたいという旨を告げてすんなり決まったのだが、その時の先輩が当時高校2年生の師匠だった。
当時のObは3年生の先輩1人、2年生の先輩の計2人(どちらも女性で、方向性は若干違うがどちらも美人だった)で、3年生の先輩は僕と同じ進学クラスだったため境遇は近く、快活な印象。
一方師匠の当時の印象は、プロになろうとしていたのだから当然であるが、当時の僕にも分かるくらいに別格で、同級生の先輩方はおろか3年生の先輩方にもあれだけの水準に達するような方はいなかった記憶がある。寡黙で近づき難い印象ではあったが、実際にはそういう事もなく、1歳差だから当然距離も近いし色々と教わった。
今でも楽器はレッスン等行っているし、プライベートレッスンやマスタークラス聴講なども行き、師事した「先生」はそれなりに居るのだが、音楽をする人間としての基礎を確立したのは師匠だった。
基本的に優しい方なのだが、怒った時は怖く、今でも出会うと背筋が伸びる程である。

高校2年生の2月だったと思うが、4月から大阪音大に入られる前に師匠と「次は同じオケの舞台で」という誓いをしたのだが、そこからその決着を付けたかったから楽器を辞めなかったと言っても過言ではない。
大学オケに入った際も「師匠と同じ舞台を再び踏むための修行」と割り切っていたし、それが唯一の心の支えだった。
夏休みで下宿先から帰ってきた際には、大阪音大のキャンパスに連れて行ってくれてレッスンや合わせをしていただいたりもした。木管5重奏も観に行った。師匠を知る後輩の子や一部の方によれば、僕にはやはり師匠の面影があるらしい。

だが師匠はプロ。そう簡単に同じ舞台に立てる機会などない。
自身で楽団を立ち上げた時でさえそう思っていた。
正直に言うと、当初自身が演奏者として参加するつもりはなく、裏方で仕事の差配や折衝で精一杯になると思っていたというのもあるが、聴きに来られる方のみならず演奏者も含めた利害関係者の事を考えた時、自分がやりたいからという願望は利益相反になり得ると思っていた。
レーティングの話にも通じるが、自身より腕前が優れているor演奏したい気持ちが強い人がいれば、自身が身を引くべきだと思っている。それが他の参加者や聴きに来られる方を含めた利害関係者にとってプラスであるからだ。
主催者なのに?と思われるかも知れないが(実際このような考え方をする人には殆ど会った事がない)、この考えは今でもあまり変わっていない。この辺りもどこかで書く事にするが今は省略する。

さて、紆余曲折を経て自身が演奏もすると覚悟を決めた時、直感的に「(師匠との誓いを果たす)時が来たのかな」と感じた。
半ば断られる覚悟で打診した時にあっさり受けてくださった事もさる事ながら初めて師匠がリハーサルに来られた時は夢見心地に近かったし、14年前の誓いを果たせるなんてお互いに思ってはいなかった。
恐らく当時の周りの方々は「あの人、何者!?」と思った事だろう。
唯一の誤算は、その後毎回来ていただけるようになった事。周りの方からはむしろ「今回ものんちゃん(師匠の愛称)出るよね?」とさえ言われた。
ああ、師匠はやっぱ凄いなって思った。
勝負事に僅差や時の運で負けた時ほど悔しく、超然とした差で負けるとむしろ清々しくさえ思うと思うのだが、そのような心境である。

そんなこんなで20年以上経っているものの、若干フランクにはなったが昔も今も師匠と僕の距離感は変わっていない。
高校の同期や先輩方から見たら不思議にさえ思うだろうし、最近になって師匠を知った方から見れば、僕の対応は若干硬すぎるとさえ思うかも知れない。
だが、裏を返せば恐らくお互いの事を知り過ぎるとここまで長くは保たなかったと思う。
実際、殆ど近況や自身の話はお互いにあまりしない。
何なら結婚されたというのも、そのお相手の方に関してもSNSで知ったくらいである。(その少し前に婚約指輪を付けていたし、何となくは知っていたが)
そんな師匠だが、今月頭に演奏会を終えた打ち上げ後、師匠に「しゃはのよく行ってるバー(Bar Rosebank)に行ってみたい」と言われた。
師匠がお酒好きであることは知っていたが、師匠と2人で飲んだ事は1度もない。
言われた事もなかったが、畏れ多すぎて言えないというのもあったし、「先輩後輩」ではなく「師弟」という関係だからというのもある。
その時は気が動転して何とも返事できなかったが、師匠から言われた手前、無碍にできないので今度時間を作って誘ってみようと思う。
「師弟」が「先輩後輩」になる(そして再び「師弟」に戻る)日が1日くらいあっても良いだろう。


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