人の福祉と人以外の動物の福祉の間に生じるジレンマに、ソーシャルワーカーは何をすべきか?(第1回アソ読会報告)

第1回アソ読会 実施日:2020/7/23(木)

アソ読会でやってきたこと、これからやることをこのnoteに書いていこうと思う。さしあたり、いままでにやった7回に関して、その報告を、主催者の私(しーなま)の観点から書いていきたい。

さて、第1回は、会の趣旨や進め方について話をして、参加者の顔合わせをおこなった。そのとき話した会の趣旨や進め方などについては、すでに別のところに書いたので、そちらを見ていただきたい。

参加者は私を含めて5名で、ほかにも当日欠席だが2名の参加希望者がいた。読書会をやるにはちょうどよい人数だと思うし、主なフィールドが人の福祉な人と、人以外の動物関連な人とがバランスよくあつまって、主催者の私としては非常にうれしくおもったことをおぼえている。(一部入れ替わりもあるが、今でも毎回5名前後の参加となっている)

そんなこんなで第1回ははじまり、無事に終わったのだが、そこで参加者の一人から私に質問、というか指摘が一つあった。その指摘とは、「主催者がアソ読会をつうじて目指す研究の方向性が見えないので、教えてほしい」というものだ。たしかに、会の参加者としてはその会がどちらに向かおうとしているのかを知りたいだろうし、私は会をはじめた動機を「自分の大学院卒業後の研究の継続のためだ」と説明していたのだから、この会の方向性は私の研究の方向性とリンクしていることになる。あまりはっきりした研究関心が私にあるわけではなかったが、何とかかんとか説明した。それはきっとこのnoteを見る人にとっても気になることかもしれないので、以下に記しておく。

まず私は、ペットや動物介在が人の健康や発達に効果がある、という研究には関心がない。ペットがその飼い主にとって重要なのは、多くの飼い主にとっては自明で、健康や発達に効果がなくても大切な存在だと思うからだ。それにそういう研究や実践に取り組んでいる人はたくさんいるし、私がやらなくてもよいだろう。

私の関心の対象は、大別して2つある。関心の1つは、人とペットとの関係に伴う社会的諸課題である。特に①社会的困難を抱えた人が福祉的サービスを利用する際にペットの存在が障壁となるケース(入居施設やシェルターにペットを連れていけない問題、ペットを入居施設で受け入れる際の諸課題など)と、②ペットとの関係から生じる困難ゆえに社会的支援を必要としているケース(認知機能の低下などによる非意図的な動物虐待状況、多頭飼育崩壊など)に関心がある。

もう1つの関心の対象は、動物それ自体のためにソーシャルワークは何をすべきか、何をできるかである。私自身は、人にとって動物が大切だから大切にすべきだ、というだけではなく、動物それ自体が大切だから大切にすべきだ、という立場である。ソーシャルワークの対象は人だけである、という自明性を批判し、その理論的意義と、現実的な着地点(というか着手点)を探りたいと思っている。

では、これらの関心対象にどのような態度で取り組むのか。私のスタンスを説明するために、ここで一つのケースを、ある種のジレンマを含んだ例として紹介したい。

高齢で独居の女性 A さんは、猫 B を飼っている。A さんは認知能力が低下し始めており、生活状況は徐々に悪化している。その関係で、 B の健康状態もよくない。すぐに動物病院に連れていって、治療を受けた方がよい。しかし、A さんは以前に、別の猫を動物病院に連れていった後に亡くした経験から、動物病院に B を連れていくことに拒否的である。動物は病院にかかったりするのではなく、病気で死ぬならばそれは自然に任せるべきだ、とも考えている。
この場合に、この女性に関わっているソーシャルワーカー(ケアマネなど)が A さんの意向を尊重すれば、B の福祉は低下し、死んでしまうのも時間の問題である。だからといって、B を強引に助け出せば、(財産権の侵害にあたる法的リスクがあるが、そうでないとしても)ソーシャルワーカーと A さんの関係は破綻する。そうなれば結果として、A さんは福祉サービス全般に対して、拒否的な態度をとるようになり、適切なサービスを受けることができなくなるかもしれない。

このケースにおいて、人(A さん)と人以外の動物(B)の福祉は相反しているこのようなときにソーシャルワーカーはどうすればよいのか。一つには、相反しているものを、相反しないようにする方向が考えられる。たとえば、ソーシャルワーカーが A さんと話をするなどして、Aさんの意向が変われば、A さんと B の両方にとってよい結果に到ることができるかもしれない。まずはそうした方向を探るべきである、というのは多くの人々も同意するところだろう。私もアソ読会をつうじて、そういった人と人以外の動物の双方にとって望ましいソーシャルワークの実現を目指して、それに関する制度や介入方法などについて理解を深めたいと思っている。

だが、常に人の福祉と人以外の動物の福祉の矛盾が止揚されるわけではないだろう。むしろうまくいかない場合が多いかもしれない。となれば、ソーシャルワーカーは、動物関係の組織などと連携する場合にも、その立場を明確にする必要があるように思われる。もちろん、現状としては、人間の福祉を当然優先することになっているだろう。しかし、それはどの程度までそうあるべきで、その倫理的妥当性はどうなっているのか。ソーシャルワーカーは人以外の動物を道徳的客体としてどの程度、どのように尊重すべきか。これは規範的かつ理論的な課題だが、実践的な課題でもある。これも、私がアソ読会をつうじて理解を深め、検討していきたいことである。

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