スプートニクの独白(2)
※今回の時系列は童話画廊以前となります。
「ニック兄、いないのか?」
僕が仕事を終え、自室で休みを取っているときにノックの音が聞こえた。
どうやらシグルドが僕に用があるらしい、僕は快くもう1人の弟を部屋に迎え入れることにする。
「良かった、ニック兄。
さっき、アポロから教わってクッキーを作ったのだが……食べてくれないか?
どうしても、ニック兄に食べて欲しくてな」
シグルドが、僕のためにクッキーを? 僕の味覚が特殊というのは、シグルドも知っているはずだ。
今までの僕はアポロの手料理ぐらいしか、美味しいと感じることがなかった。
だけど、それは昔の話だ。今の僕は徐々に他の人の料理も美味しいと感じるようになった。
僕はシグルドのクッキーを1枚手に取り、試しに口に入れてみる――
――美味しい。僕のためにシグルドが頑張って作ってくれたのだと感じられた。
そのことをシグルドに伝えると、僕の大切な弟は嬉しそうな顔をした。
「本当か、ニック兄! 良かった……俺の料理も美味しいと感じてくれた……!」
心から嬉しかったのか、シグルドの目から結晶の涙が零れていたのを見た。
自分の料理が、僕に受け入れられたことがそれほどに嬉しかったのだと。
シグルド、あの子だって僕の紛れのない大切な弟だ。
そんなシグルドが、兄のためにクッキーを作ってくれたのが本当に嬉しかったんだ。
気がつけば、僕はシグルドのクッキーを全部平らげていた。
「ありがとう、シグルド。
クッキー、本当に美味しかったよ。
また機会があったら、なにか作って欲しいかな?」
「お礼を言うのは俺の方だ。
ニック兄が……俺の兄でいてくれて、ありがとう……!
またいつか、ニック兄に料理を作りたいと思う」
まだ、シグルドが僕たちの家族になってから、さして時間は経ってない。
だけど、シグルドが作ったクッキーの味は、確かに家族の絆を感じさせるものだった。
僕は兄として、あの子を……シグルドを守っていきたいと思っている。
僕たちの家族になってくれてありがとう。大好きだよ、シグルド――
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