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[小説]白い壁1

「一月一日、午前一時十一分十一秒に真っ白い壁に体をぴったりくっつけてると・・・
異次元空間に吸い込まれるんだって」
 なんて美奈と話したのが去年の十一月だった。
 美奈はちょっと怖そうな・不安そうな顔をして聞いてたっけ。あたしが、
 「・・・行ってみたいと思う?」
って訊いたら、
 「亜紀と一緒だったら・・・行ってみてもいいかな」
って答えた。
 「あはは。・・・うん、そうだね。あたしも美奈と一緒なら。」
 あたしたちはすごく仲がよかった。特に美奈は、なんでか知らないけど
あたしの傍から離れようとしなかったし、あたしもなんとなく自分をいつも頼ってきてる美奈が
かわいかったんだ。
 それは高校二年の冬の・・・たあいない話のはずだったのに。

 「ごめん。ちょっと遅れた」
 一月一日、一時五分過ぎ。あたしは白い息をはずませて約束の場所に駆けつけた。
 「怖かったよぉ、ここ誰もいないんだもん」
 美奈は肩をすくませて手袋した両手をにぎりしめながらあたしに言った。
 そこは、乾いたばかりの真っ白いペンキがしらじら街灯に照らされてる町外れ。
 人家も周りにはない。「199○年オープン!」と大きく書かれた看板が目の前に立っている。
 ここは雑居ビルになる予定らしい。
 ・・・ま・偶然あたしがこのビルを見つけたときは、そんなこと問題じゃなくてただただ「白い壁」が
目に飛び込んできただけだったんだけど。

 そう。あたしたちは、「あの」話を実際にやってみることにしたんだ。
 勿論そんなのデマだ、って思ってる。99.99パーセントウソ。
 でも・・・実際やってみたらちょっとどきどきするじゃない?あとで笑い話になったとしても、ね。
 「お母さんに、おこられなかった?」
 「うん。クラスの仲いい友達と初詣に行くから、って言った」
 美奈の家は夜の外出に結構厳しい家だ。この計画を実行するために、
彼女は両親をあの手この手で説得したに違いない。特に今回は、年が明けたばかりだし・・・。
 渋い顔されて当然だろう。
 うちみたいに、両親共働きの家なんて、あたしがいつ遊びに行こうと全然関係ないんだけどね。

 「寒いね。。。」
 美奈は胸の前で腕を組んで、落ち着かなさそうに足踏みした。
 ほんの数ブロック離れた神社は、お参りに来る参拝客で賑わってることだろう。
 「・・・そろそろ一時十一分だよ」
 あたしは腕時計を見て言った。
 無言のうちに、目で美奈をうながし白い壁に近づいた。
 なんとなく手袋を外して壁にじかに触れてみる。・・・ひんやりしてる。
 あたしはにっと笑って、ちょっとオーバーに壁に体を寄せてみた。
 美奈もそんなあたしを見がならおそるおそる壁に体をくっつける。
 「ふふふ」
 「・・・・・・」

。。。。。。。なにも起こらないね、って言おうとした、そのとき。
 急に、真っ白かった壁の内側から淡い緑色の光が差してきた。
 「え?」
 「え?」
 あたしたちのほほを照らし、どんどんその光は強くなっていく。
 「亜紀!!」
 美奈が叫んだ。
 あたしと顔を突き合わせて壁に張り付いてた彼女の体が・・・溢れる淡緑色の光の洪水にほとんど埋もれそうだ。
 「美奈!!」

~つづく~

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