城戸 飛鳥

短編・断片・着想など。短いものを書いています。ときどき本のことも。 好きな小説ジャンル…

城戸 飛鳥

短編・断片・着想など。短いものを書いています。ときどき本のことも。 好きな小説ジャンルはミステリ、ファンタジー。

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  • 城戸飛鳥のマガジン ちょっと立ち止まってくれませんか

    城戸の投稿をまとめています。短編・断片・エッセイとか。ファンタジーぽいものが好きです。本の紹介もときどき。 不定期更新。

最近の記事

読後雑感 『水車小屋のネネ』 第1話1991年

 律の荷物はランドセルと、右手の袋に9冊の本、左手の袋に7冊の本だけ。着替えや日用品はいっさいなし。大切なものはこれだけだという潔さだ。代わりに理沙が、律の上履きや体操服やお道具箱なんかの学用品一式と、着替えやなんかを箪笥にあるだけさがして、ボストンバッグに詰め込んだ。あとは登山用の大きなリュックと手に下げたビニールバッグが、2人の引っ越し荷物だ。   物語の冒頭で、18歳の理沙とと8歳の律の姉妹が、なぜ理沙の就職先に向かうために、2人で駅で急行を待っているのか、どういった

    • 断片・短編5 お姉ちゃんになった日

       4つ違いの弟がいる。小さいころは、しょっちゅう熱を出したりお腹を壊したりしていた。体つきも華奢で小柄だった。中学生になると、ぐんぐん背が伸びて、バスケ部で活躍していたのだから、病弱というのでもなく、ちょっと体が弱かったという程度だったのだろう。   私はといえば、明日学校に行きたくないなあ、熱が出たら行かなくてすむなあ、なんて浅知恵を働かせて、真冬に自分の部屋の窓を全開で寝ても、熱どころか咳ひとつ出ない、がんじょうなたちだった。  そんなふうだから、自然と母の目は弟に向きが

      • 【アルケミスト】読み解きお手伝い 読書感想文にもおすすめ 角川文庫の夏フェア

         【アルケミスト 夢を旅した少年】  パウロ・コエーリョ 山川紘矢・山川亜希子 訳 角川文庫 平成9年2月25日 初版 p199 (今回の読み解きに使ったのは、令和6年5月15日 96版) 引用は自由ですが、その際には <note 【アルケミスト】読み解きお手伝い  城戸飛鳥> と明記してください。 1.あらすじ・おおまかな解説  羊飼いの少年サンチャゴが、古く朽ちた教会で見た夢に導かれて、隠された宝物を見つけに旅立ち、さまざまな出会いと経験を得て成長してゆく、という物

        • 断片・短編4 おじいちゃんとの夏

           がらがらと玄関の開く音がして、 「おーい」  祖父の声がする。  あれ?   急いで出ると、祖父が立っている。 「どうしたの、早いじゃないの」  びっくりして聞くと、道が混む前に帰って来た、と言う。 「なんだ、知らせてくれればお迎えしたのに。せっかちなんだから」 「1人だって迷子にはなんねえぞ」  年寄り扱いするな、言いながらも笑っている。今年で確か86か87歳になるはずで、だけど髪は黒くて、ふさふさしていて見た目は若々しい。  開いた引き戸の向こうから差し込む光が、祖父を

        読後雑感 『水車小屋のネネ』 第1話1991年

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          9本

        記事

          断片・短編3 夏のチョコレート問題

           夏の室温放置のチョコレート。  溶ける。  さてどうしたものか、と考える。   1.冷蔵庫に入れる 2.溶けるにまかせる。 3.夏の間はチョコレートをあきらめる。  だいたいこの三択になるかと思われるのだけど、微妙に問題はある。  まず1の場合。溶けない、形状が保存される。完璧のようだけど、固くなる。私的にチョコレートは、噛んだときに、するん、ふにん、と歯が入って欲しい。ぱきん、かりん、では嫌なのだ。  次に2の場合。噛むというより舐めることになる。舐めてもおいしいけれど

          断片・短編3 夏のチョコレート問題

          断片・短編2 赤い髪のピコリーノ

           パオリーノの髪は緑色でしたが、ピコリーノの髪は赤色でした。 パオリーノの髪はやわらかい草でしたが、ピコリーノの髪は赤い炎でした。  生まれたときに産湯を使わせようとした産婆が、あちち、ピコリーノの髪にさわって火傷をしてしまいました。それで髪が赤いだけでなく炎だとわかったのです。成長するにしたがって、ピコリーノの髪の炎は熱く明るく燃えるようになりました。   ピコリーノの家は羊飼いです。ピコリーノが走り回って、牧草に火がついては大変なので、他の兄弟たちが羊の世話の手伝いをする

          断片・短編2 赤い髪のピコリーノ

           断片・短編1 赤い四角い郵便ポスト 

          玄関を出て歩いて3分。赤い四角い郵便ポストがある。 ほんのそこまで、封筒だけ持って出た。さんざん考えて選んだ鳩居堂の白の封筒は、手紙の内容がつりあっているかどうか、封をしてしまってからも迷うぐらいにしっかりとした厚みがある。ポストの横に表示してある回収時刻は1日2回。あと30分で本日2回目の回収がある。次は明日の午前中だ。 ちょうどよかった。今日の回収が終わってしまっていたら、ポストの中に手紙がある、私の書いた手紙が入っている、取り戻せば配達されない、差し出し口に手が入るな

           断片・短編1 赤い四角い郵便ポスト 

          【恋愛ファンタジー】36.4度のぬくもり 後編 恋しい人が亡くなって、ヒューマノイドとして帰ってきたら

           海斗と出会ったのは、医局の先輩の個人開業の祝賀パーティだった。立食形式の盛大なもので、開業する先輩を祝うというよりも、今後のための顔つなぎや、教授や准教授方へのこれまでの感謝の表明といった意味合いがあって、理生の勤めていた大学病院では、開業のための退官時には慣例となっていた。だから一番ぺこぺこしているのが、主役であるはずの先輩医師で、大学病院の関係者だけでなく、製薬会社や医療機器メーカーの人たち、あとはすでに開業している個人的なつながりのある医師もいた。それが海斗だった。

          【恋愛ファンタジー】36.4度のぬくもり 後編 恋しい人が亡くなって、ヒューマノイドとして帰ってきたら

          【恋愛ファンタジー】36.4度のぬくもり 前編 恋しい人が亡くなって、ヒューマノイドとして帰ってきたら

          理生(りお)が大学病院の形成外科医から美容外科医に転身して五年になる。午後からのオペは二重の施術が二件。慣れているのに、なんだか面倒だと感じてしまうのは、きっと疲れているせいだ  青山通りのビルの二階、見下ろす通りは海外からの観光客の姿が目立つ。五月、ゴールデンウィークが明けたばかりなのに、タンクトップにショートパンツ、足元はサンダルの白人女性二人が足を止めた。一階の和食器の店とスマホの画面を見比べて、ここだ、というように頷いて姿が消えた。  楽しいお買い物の時間なのだ。以前

          【恋愛ファンタジー】36.4度のぬくもり 前編 恋しい人が亡くなって、ヒューマノイドとして帰ってきたら