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ショートショート④チャンスを見逃す男

時は1848年ゴールドラッシュ。

世界中からアメリカ大陸カリフォルニアに一獲千金を目指して希望に胸躍らせた大勢の人が集まっている。

目的は金(ゴールド)を掘り当てることである。

金を掘り当てることができれば莫大な富が手に入る。

億万長者だ。

億万長者になるべく、大勢の採掘者達は目の色を変えて穴を掘りまくっていた。

しかし、男は穴は掘らない。

そして、穴を掘らないばかりか何もしなかった。

必死になって穴を掘っている採掘者達をボーとしながら眺めていた。

不思議な男だった。

しかし、休憩中の談笑には時々加わった。

「金は採れそうかい?」

「ここにきてどれぐらいだい?」

「何か必要なものはあるかい?」

たわいもない会話をしては、何もせずに帰っていく。

穴はまったく掘らない。

あの男は何しにきたんだ?こんな千載一遇のチャンスをなぜ?

疑問に感じることはあったが、それどころではなかった。

地面の下には金(ゴールド)が眠っているのだ。

掘って掘って掘りまくれ。

何日も穴を掘り続けていると「つるはし⛏」の強度が落ちてくる。

そうすると当然、穴が掘りにくくなる。

「いやー参ったな。つるはし⛏がボロボロだよ。」

「俺もだ。ずっと同じやつ使ってるからな。もっとたくさん持ってくれば良かったよ。」

そこへ例の何もしない奇妙な男がやってきた。

チャンスを見逃す男が。

男はなぜかつるはし⛏を持っていた。

「ちょうどよかった。そのつるはし⛏売ってくれないか?」

「俺も!」

チャンスを見逃す男のつるはし⛏は飛ぶように売れた。

いや、売れまくった。

チャンスを見逃す男は穴を掘る人たちのサポート役という立ち位置で、大活躍だった。

新しいつるはし⛏が必要になったらチャンスを見逃す男に頼めばいい。

みんなから感謝され、チャンスを見逃す男の評判は口コミで広がっていった。

そしていつの間にかチャンスを見逃す男はつるはし⛏の販売で億万長者になっていた。一度も穴を掘らずに。。。


チャンスを見逃す男は初めから知っていたのだ。

穴を掘って金を掘り当てるのははっきり言って「運ゲー」だ。

うまく掘り当てれば一獲千金が狙えるが、かといってうまくいく保証はない。

見つからない可能性だって十分ある。

それよりも採掘者のニーズをうまく汲み取って、ニーズに合わせて商売をした方が確実に儲かる。

チャンスを見逃す男は実はチャンスをものにする男だったのだ。

ちなみにこういった一獲千金を狙う人の周辺で商売することを”つるはしビジネス”と呼ぶ。


ちなみに余談だが「リーバイス」はこの頃、厚手のデニム生地をつかって、採掘労働に耐えられるような丈夫で長持ちするズボンを作った。これが現代まで続くリーバイスの始まりなのだ。


現代社会においてもチャンスを見逃す男は存在する。いや、チャンスをものにする男達だ。

彼らはユーチューバー目指して一獲千金を目指す人が大勢いた場合、YouTubeのコンサルタントになる。

オンラインサロンが流行するとサロン運営のノウハウを提供する人になる。

チャンスをものにする男だから。

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