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ショートショート⑧何の取り柄もない男

男には生まれつき何の取り柄もなかった。

小学校の時にはかけっこが遅かったし、勉強も九九が覚えられなかった。

男は悲しかった。

中学校の時は勉強でさらにつまづいて、学年最下位の成績だった。

成績があまりにも酷かったので、先生からはバカ呼ばわりされていた。

男は悲しかった。

男は身長が低く、見た目もあまり良くなく、中学校に入ってから急に顔にニキビがたくさんできるようにもなった。ニキビだらけの顔が嫌で下を向いて歩くことがよくあった。

部活はサッカー部に入ったがあまりにも下手でみんなの足を引っ張りまくっていた。群を抜いて下手くそだったため、先輩から目をつけられ、放課後にボコボコにされた。

男は悲しかった。

唯一の楽しみと言えば、漫画を読むことと、深夜ラジオをきくことだった。勉強もスポーツも両方パッとしない生活を送っていた。

当然女の子にもまったくモテなかった。

なぜなら、男は何の取り柄もない男だったからだ。

高校はさらに酷かった。

友達が1人もできず、休み時間はいつも1人で過ごした。

クラスの誰も男の声を聞いたことがなかった。

勉強はいよいよついていけなくなり、特に英語は仮定法や関係詞などまったく理解できなかった。英語だけでなく、数学も国語も世界史も物理も科学も全部苦手だった。美術や家庭科や音楽ならできそうなものだが、それらの教科も全部苦手だった。毎日が苦痛だった。なのでほとんど授業を放棄しているような状態だった。

男は悲しかった。

部活には入らず、放課後はアルバイトをすることにした。しかし面接で落とされた。

男は悲しかった。

思春期なので好きな女の子ができた。

思い切って告白してみた。

言わずもがな、あっさり振られた。

男は悲しかった。

男は本当に何の取り柄もない男だった。

何か一つくらい取り柄があってもいいのだが、この男には何もなかった。

男は悲しかった。

男は悔しかった。

何もできない自分を呪った。

そして泣いた。

男が泣くたびに手の平から金(砂金)が溢れ出てきた。

しかし、何の取り柄もない男は特にこのことを気にも留めなかった。

何の取り柄もない男は頭が賢くなかったので、みんな悲しい気持ちになると手の平から金(砂金)が出てくるのだと思い込んでいた。

そして何の取り柄もない男はやはり頭が賢くないので、金(砂金)にとんでもない価値があることを知らず、全部ゴミ箱に捨てていた。


男は数年後、サイババと呼ばれるようになった。


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