セブン・デイズ・オブ・リベンジ、ワン・モーメント・オブ・フリーダム#4&エピローグ

#4

4643464346014301041101…「「「イヤーッ!」」」シェンのジツが生み出したニンジャスレイヤーが一糸乱れぬ動きのチョップをリバティーに繰り出す!「イヤーッ!」リバティーは両の腕を海水に変え、振るう!その腕からスリケン程の大きさの海水が飛んだ!

「アバーッ!」ナムアミダブツ!一人のニンジャスレイヤーの顔面に当たった瞬間!メンポごと顔面が溶解!リバティーに搭載されたバイオニンジャの恐るべき能力の一つ!ニンジャスレイヤーの一人が消滅!しかし!「「イヤーッ!」」まだ二人のニンジャスレイヤーが残っている!

他二人のニンジャスレイヤーは肩や脇腹に当たりその部位が溶解!だがそのまま突き進む!「チィッ!」リバティーはチョップが当たると予測した部位を先手を打って海水化!ダメージの無効化を目論む!「「イヤーッ!」」SPLASH!SPLASH!「グワーッ!?」リバティーは苦痛に叫ぶ!何故!?

リバティーはチョップを受けた場所を透かして己の肉体を見る!チョップを受けた場所の肉が裂けていた!「「イヤーッ!」」溶けかけたニンジャスレイヤー二人は更なるチョップを放つ!「イヤーッ!」リバティーは今度は受けるのではなく回避!だが!

「「サヨナラ!」」二人のニンジャスレイヤーは爆発四散!そこから大量のスリケンが辺り一面に飛び散る!簡易的なヘルタツマキ!「グワーッ!」回避からさらに体を捻って回避するも、全身を掠め、何個かは体に刺さる!

「GRRR…!」シェンはまるで獣の様な声を出しながら血走った眼をリバティーに向けている。そして…!なんたることか!既にシェンの傍には既に次のニンジャスレイヤーが控えている!「行けい!」「「「イヤーッ!」」」シェンの指示により再び突撃!

恐るべき複数人のニンジャスレイヤーによるカラテ!ニュービーならば、重度のニンジャスレイヤーリアリティショックを引き起こし戦意喪失。最悪の場合ショック死するだろう!これほどの恐るべきジツを行使するシェンに憑依したニンジャソウルとは一体!?

シェンに憑依したニンジャソウルの名は、ハマグリ・ニンジャ。かつて平安時代においてモータルの村を己のシンキロー・ジツで包み込み、数百名を発狂死させ、またある時は強大なるリアルニンジャをジツで再現し、卑劣な行いにより名誉を奪い去らんとしたニンジャだ。

しかし、この場にニンジャに詳しいものがいるならば疑問に思うことがあるだろう。シンキロー・ジツはあくまで蜃気楼を見せるだけのもの。ゲン・ジツの下位互換に近い。ならば何故、今までリバティーの対ニンジャスレイヤー訓練を行え、尚且つリバティーを傷つけることが出来たのかと。

読者の皆様はご存じだろうか?かつてある国において行われた恐るべき実験のことを…

◆◆◆

ある死刑囚が実験に協力をすれば減刑を行うと言われ、協力をすることにした。実験内容は単純明快。「ニンジャのカラテを一回耐える」ことだった。死刑囚は笑った。ニンジャなんてフィクションだ。いるはずがいない相手のカラテをどう耐えろと。

死刑囚はある部屋に通され、そこで、他の死刑囚の実験が終わり、自分の番が来るまで待つこととなった。部屋でくつろいでいた死刑囚は遠くから響く声を聴いた。「イヤーッ!」というカラテシャウトを。

「イヤーッ!」そしてまたカラテシャウトが響く。だが今度はそれだけではなかった。「アバーッ!」男の悲鳴。死刑囚はすぐにわかった。今まで聞いてきたのだから。断末魔の悲鳴だ。

「イヤーッ!」「アバーッ!」また近づいてきた。「イヤーッ!」「アバーッ!」さらに近づいてきた。「イヤーッ!」「アバーッ!」かなり近い。

誰かが廊下を歩く音。廊下が見える窓に人影が見え、隣の部屋のドアが開かれた。そして、隣の部屋の光源に照らされ、廊下に投影された影を見て男は心底震え上がった。「イヤーッ!」「アバーッ!」そこには、何者かが人間の首をボトルネックカットチョップで斬首する影が映されていた。

隣の部屋のドアが閉まり、誰かが歩く音が聞こえた。死刑囚の息が荒くなる。誰かがドアノブに手をかけた音。死刑囚の全身から滝のように冷や汗が流れ始めていた。ドアノブが回った。死刑囚は失禁をしていた。そしてドアが開かれた!

「イヤーッ!」部屋に飛び込んできたのは白衣に頭部に黒い布を巻いて目元以外を隠した何者かだった!「アイエエエ!?」しかし死刑囚にとっては自身の命を刈り取りに来た恐るべきニンジャにしか見えなかった!白衣の何者かの手にはスリケン!「イヤーッ!」投擲!「アバーッ!」男が叫び出血!

…こうして、実験は終わった。白衣を着た何者かはニンジャではなく、ただ実験を行っていた研究者の一人だった。死刑囚以外に実験を受けていた者もいなく、犠牲者の悲鳴は録音されたもの。死んだ者はいなかったのだ。だが、男は違った。

死刑囚の額にはスリケンが刺さったような穴が開いており、絶命していた。投げられたスリケンはゴム製の偽物で、刺さるわけがないのに。

これは「思い込みで人が死ぬかどうか」という実験だった。死刑囚は、目の前にいる何者かは本物のニンジャだと思い込み、ゴム製の投げられたスリケンを本物と思い込み、額に刺さったと思い込んで本当に額に穴が開き、死んだのだ。

これで、実証されたのだ。人は思い込みが過ぎれば本当に死ぬと!

◆◆◆

そして見よ!シェンの首、エラのように開いた穴から飛び出した棒を!シェンもバイオサイバネ改造を受けているのだ!その棒はシェンの体内に内蔵された体液を幻覚成分に変換し、噴霧するもの。それによりリバティーの思い込みの力を更にブーストしているのだ!

サザイエは酔狂や慈悲でこの狂った父親をリバティーの実験に参加させていたわけではない!リバティーが暴走した時に対応が出来ると踏んで参加させ、そしてバイオサイバネ改造を受けさせていたのだ!

「イヤーッ!」リバティーが仕掛けた!シェンを仕留めなければ延々と偽物のニンジャスレイヤーたちを相手に無駄なカラテを仕掛け続け、ジリー・プアーだ!リバティーは両の腕を海水に変えたままチョップの構え!

「イヤーッ!」「「「イヤーッ!」」」四人の腕がチョップでぶつかり合う。海水のリバティーの腕は三人の腕が通り抜け、三人の腕は溶解した!「「「アバーッ!」」」「イヤーッ!」「「「グワーッ!」」」悶絶する三人の横腹を蹴り飛ばし、リバティーはシェンに近づく!

「イヤーッ!」シェンは後方、ビルとビルの間に跳躍すると更に上方に跳躍!そのままトライアングル・リープでビルの屋上を目指す!「イヤーッ!」リバティーも追随!ビルの中腹に足をかけようとした瞬間、リバティーのニンジャ第六感が警鐘を鳴らす!ZZTT!「イヤーッ!」

着地点を無理やりずらす!本来着地するはずの場所にはむき出しの配電盤!ZZTT!配電盤は本来有り得ない程の視認できるまでの電流が流れていた!あのまま飛んでいれば配電盤と接触し感電していただろう!シェンがジツで異常電力配電盤を生み出したのだ!

「イヤ…!?」そして、壁を再び蹴って上に飛ぼうとした瞬間、リバティーは自身の横から生えていたものを視界の端に収めて驚愕した。そこにはタカギ・ガンドーの上半身だけがいくつも生え、49マグナムでこちらを狙っていたのだ。BLAMBLAMBLAMBLAMBLAM!!!!!

「イヤーッ!」リバティーは回避しながら上に登る!体のところどころを49マグナムから撃ちだされた弾丸が掠め、少しずつ肉が抉れ、血を撒き散らす!(奴らに対して、攻撃できない今の状態ではどうすることもできない!)リバティーは、シェンのジツに対してある気づきを得ていた。

最初、偽のニンジャスレイヤー二人のチョップを受けた時。あの時は肉体にダメージを受けていた。だが、次に三人のニンジャスレイヤーのチョップに対し溶解海水チョップ迎撃を行った時は無傷のまま三人の腕を溶解させていた。それは何を意味しているか?

…認識の差だ。前者は攻撃を受ける。意識の中では攻撃を受け入れていた。後者は迎撃。あの時は自分がダメージを受けるとは一切考えていなかった。それが、ダメージを受けるか否かを自分が決めていた。リバティーは、シェンのジツの本質を少しずつ掴みかけていた。

BLAM!しかし!BLAM!銃声!BLAM!飛んでくる弾丸!BLAM!それが偽物だとわかっていても、反応せずにいられる存在がどれだけいるだろうか!「グッ!」リバティーの肩を49マグナムが貫通!腕が千切れる!「…!イヤーッ!」痛みを堪え、リバティーは跳躍!

リバティーは、ビルを上ってシェンを発見した後の事を考える。シェンを追跡しながらどこかで水を発見し、体を再生させる。そうして今まで失った体を補填し、シェンを倒す。ビルの屋上に着地した!

「バカナー!?」リバティーは更に驚愕した!BRRRRR!眼前には自身に向かって走るトラック!運転席にはシェンがいた!「イヤーッ!」「グワーッ!」リバティーはトラックに跳ね飛ばされ、全身がバラバラに砕けた!

本来、ニンジャとてバラバラになれば死ぬ!だが、リバティーは今までの対ニンジャスレイヤー特訓の記憶を少しずつ思い出し始め、それを紐解き自身の肉体の事を少しずつ理解し始めていた。砕けた肉体が海水化し、再び集まり始めていた。

「くっ…」しかし、それにはかなり難儀をしていた。本来人間がばらばらになった体を自分の意のままに動かすことなどほぼないだろう。サイバネ移植を受けてそれが可能になったとしても、それ相応の訓練を受ける必要がある。ぶっつけ本番でそれを行う必要があるのだ。

そして、シェンは黙ってそれを見てはいなかった。BRRR!再び何らかの車が動く音。リバティーは目を再生させそれを見た。「そこまでやるのかよ…」そこにあったのは、道路工事で用いられる重金属酸性雨吸水車だった。「グワーッ!」リバティーとなろうとしていた水は、吸水車に飲み込まれる!

車内の管を通り、そして重金属酸性雨を取り込むタンク内に到着。あの場にあった体のパーツは全てものの見事に飲み込まれ、リバティーはタンクの中に囚われてしまった。

吸水車のタンクの中で、リバティーとなるはずだった海水の塊はどうするべきかと悩んでいた。このまま外に出たところで、また吸水車が現れてすわれるだけだ。シェンの裏をかいてジツを使わせない必要がある。リバティーはシェンが認識していないものを考え、一つの可能性を思いつく。

意識を別の場所に集中させる。ここから離れた場所。偽物のガンドーに撃たれ、千切れた腕に…

◆◆◆

偽物のガンドーに撃たれ、千切れたリバティーの腕がビチビチと跳ね、傷口から滲みだした海水が疑似的な目玉を生み出し、周囲を見る。辺りはジツを行使する必要が無くなったと判断されたのか。既に廃墟に戻っていた。空も夜ではなく、重金属酸性雨も止んでいた。

腕は自身の本体がいる場所を目指してビルの中に入り、階段を上がる。急がなければ、シェンは次の手を打ってくるだろう。そうして、屋上にたどり着き、ゆっくりと音をたてないようにドアを開ける。

シェンは、重金属酸性雨吸水車のタンクの排水口に密閉できるタンク(おそらくそれもジツで作られたものだろう)を突っ込み、リバティーを入れていた。

腕はゆっくりとシェンに近づく。そして、シェンがタンクにリバティーを入れ終わり、口と閉じようとした。瞬間!腕は跳ね、握り拳をシェンの股間に叩き込んだ!「アバーッ!」シェンは悶絶し、持っていたタンクを落とした!

腕はそれを拾うと、逆さまにして中身のリバティーを地面にぶちまける!辺り一面にリバティーが広がった次の瞬間、水溜りは中央に集まり、リバティーの体が再成型された。千切れた腕も戻った。しかし、肩に銃創も開いたまま、チョップで裂けた傷もそのまま。新たな水が必要だった。

「ユウ、ジィ!!」シェンの顔に再び憤怒の色!「イヤーッ!」リバティーはジツを行使される前に倒さんとチョップ!「グワーッ!」シェンの肩に当たり、砕ける音が響く!リバティーはそれに眉を顰める。今のチョップは腕を切り落としてもおかしくないはずだと。

ナムサン。シェンのバイオサイバネ改造は首だけではなく全身に及んでいた。骨格の大部分は既にヨロシサン製薬が特許取得済みの合金に置換されていた。ニンジャのカラテを耐えれるだけの耐久力を得るために。そして、反撃に繋げるために。シェンは、ジツを行使した。

「グワーッ!」リバティーは全身を襲う熱に苦しみ、皮膚が焼ける感覚に叫ぶ!辺りは既にビルの廃墟ではない!火が燃え盛る砂漠と化していた!「ハァーッ…!ハァーッ…!」リバティーは深呼吸をし、ヘイキンテキを保とうとした。そして頭の中で唱える。この熱を、火を、痛みを受け入れないと。

リバティーの全身を襲う苦痛が少しだけ和らぐ。だが、ダメージを負い続けていた。「ユウジ」苦しむリバティーの前にシェンがしゃがみ、顔を見る。「これで、終わりだ。もう逆らうのをやめてヨロシサンに忠誠を誓いなさい」諭す声。だが言外に逆らうことを許さないとほのめかしていた。

「誰がヨロシサンの言いなりになんか…!?」そう言いかけて、リバティーの鼻から緑色の鼻血が流れた。次いで目から、口からも吐血し痙攣!「アバーッ!?」「ユウジ!?これはバイオインゴットの欠乏症!?だがなぜ今!」『私がスイッチを押したからだ』空から声が響く。

「サザイエ=サン!?まさか処分スイッチを入れたんですか!?」シェンが空に叫ぶ。声の主はサザイエ。シェンの上司だ。リバティーいや、ヴィンディクティブはヨロシ・バイオサイバネティカの最重要機密扱い。暴走及び脱走した時の処分の対策は取られていた。

リバティーの脳内にはチップが仕込まれていた。それが、バイオ血液の流れを完全にシャットダウンさせ、極度のバイオインゴット欠乏症に陥らせた。リバティーはバイオニンジャの中でも特にバイオインゴットに対する依存度は高い。このままでは数分と持たずに死を迎えるだろう。

「あともう少しで鎮圧出来ました!このままでは死んでしまいます!死ななくても何らかの欠陥が生まれるやも…!」『そのヴィンディクティブはもう、いい』サザイエの冷酷な声を聴いて、シェンは固まった。「もう、いいとは…?」

『お前が時間稼ぎの時に後生大事に全てをバラしてそのヴィンディクティブは全てを知っている。また、思い出して暴れられては敵わん。だから、もう一度新たに作る』ビルの屋上に通じるドアがあった部分から、担架を抱えたクローンヤクザが二名。この二名はシェンのジツの対策済みだ。

「ですが!再憑依させたニンジャソウルを引きはがして再再憑依させるなどという実験は未だ行われておりません!どうか再考を!」『この私が失敗するとでも思っているのかぁ!』サザイエは口調を荒げる!

『そのヴィンディクティブからニンジャソウルを引きはがしィ!次のヴィンディクティブに再憑依させる!』更にサザイエの口調に熱が籠る。そこにあるのは、成功によって訪れる理想ヨロシ社会への熱意か。あるいは誰かへの敵愾心か。

『私の手にポセイドン・ニンジャのニンジャソウルがある限り!何度でもヴィンディクティブは作れる!リユース・リデュース・リサイクルを心掛けるのが出来るサラリマンの鉄則だ!これで私はヨロシサン製薬の幹部となるのだ!』ALAS!なんたる暴走的邁進か!失敗するなどと微塵も考えてはいない!

「ですが!ですが今ここにいるユウジはどうなるんです!私に息子を見殺しにしろと!?」『知るか。次の息子が出来るのを待ってろ』「そんな!」サザイエとシェンの言い争いを聞きながら、リバティーは担架に乗せられていた。

リバティーは、このまま横になって苦しんでいたら死ぬとボンヤリと熱の籠った脳髄で思考する。だが、どうやって状況を打破する?この死に向かって走り出した肉体を?どうやって動かす?

頭の中を探す。何かないかと。だが、頭の中にあるのは、ニンジャスレイヤーと奴に関することばかり。苦笑いしたくなった。なら、しょうがない。そこから、探す。窮地を脱する方法。カラテ、それに関する何かを。探して、探して、探して。ある物にたどり着いた。

「……スゥーッ……ハァーッ…」

「スゥーッ…ハァーッ…スゥーッ…ハァーッ…」リバティーは呼吸を行った。「スゥーッ…!ハァーッ…!スゥーッ…!ハァーッ…!」呼吸を、行う。だが、足りない。まだ、この死にかけの体を動かすに足りない!

「スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ…」より攻撃的に!より吸い上げるために!作り替える!改悪する!

シェンが、異変に気付く。辺りを包んでいた自身のジツが揺らいでいることに。燃え盛る砂漠が消え、廃墟群に戻る。そしてジツを構成していた力が、エテルが、ある一点に吸い込まれていることに。振り返りその一点を見た。リバティーを。

シンキロー・ジツはエテルを用いて周囲に自身に望んだ光景を、人物を、物体を投影する。その投影されていたエテルが、リバティーに取り込まれてゆく!「スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ…」リバティーのチャドーの呼吸によって!

「イヤーッ!」リバティーは担架の上から飛び上がり、両の腕を振るう!「「グワーッ!」」クローンヤクザ二名の頭が殴り飛ばされ、両者はビルの屋上から落下死!「スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ…」リバティーはチャドーの呼吸を行ながら、シェンにカラテを構える。

「馬鹿な…!重度のバイオインゴット欠乏症が、見様見真似のチャドーの呼吸だけでどうにかできるわけがない!」シェンの言葉は正しかった。シェンがそう言った直後、リバティーの背中の肉が沸騰するように弾けた!ナムサン!そして、全身を重度の火傷が覆い始めた!

「ゴブッ…!スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ…」吐血し、体のバランスが崩れかけたが、リバティーは体のバランスを持ち直す。リバティーはチャドーの呼吸によって、循環が停止したバイオ血液を無理やり流した。全身をある種の心臓のような状態にしたのだ!

しかし、代償は地獄の苦しみだった。リバティーの行っているチャドーの呼吸は、死にかけた肉体を動かすために莫大な量のエテルを取り込まんと、エテルの取り込む量を増やしたものだ。それこそ、シェンのジツをもそのまま取り込むほどに。

ジツを発動するエテルを分解せずそのまま取り込む。つまり、あの燃え盛る砂漠を体の中に入れた状態に等しい。リバティーの体内や全身はその結果、すさまじい勢いで火傷を負い続ける。

そして、チャドーの呼吸を改悪した代償はすぐさまリバティーの体に現れた。チャドーの呼吸は既に完成されていたもの。取り込むエテルの量は調節されている。膨大な海の水から少しずつ、水を入れる器が壊れない様に。必要な量を、適切に。

だが、リバティーの作り替えたチャドーの呼吸はそれを、無視した。膨大な海の水を、濁流の如き勢いで飲み干さんとする。必要な量以上を、出鱈目に。結果がこれだ。肉体がエテルを消費しきれず、その上ジツの発動に必要ではないエテルすら取り込み続け、消費しきれず出来ずで体に溜まり続ける。

そうなったらどうなるか?体に血瘤の様に出来たエテルの塊は爆ぜ、肉を崩し、骨を粉砕する。もはや自殺と同義だ。チャドーの亜流にすらなれないチャドー擬き。もはや数分とすら持たない。一秒後に破裂死をしてもおかしくはない。

だが、今のリバティーの死にかけた体を動かすにはそのチャドー擬きが必要だった!「イヤーッ!」バイオ血液の流れは未だ不完全!バイオニンジャとしての力は使えないだろう!積み重ねたカラテと、本来のニンジャソウルの力。ポセイドン・ニンジャ由来のジツの力のみで戦わねばならない!

「イヤーッ!」シェンはすぐそばにニンジャスレイヤーを三体生みだし、リバティーに差し向ける!その三人の内の一人が突出し、先手を打ってカラテを仕掛ける!一人が正面で時間を稼ぎ、残りの二人が挟み撃ちにする戦法だ!しかし!

「スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ…」リバティーがチャドー擬きを行う度に正面のニンジャスレイヤーの像がブレ、薄れてゆく!エテルを奪い取っているのだ!そのままシェンに向かって走る!「イヤーッ!」シェンはビル群を跳び回り、リバティーから離れる!

「イヤーッ!」そして生みだしたのは!ナムサン…!背中に翼が生えたニンジャスレイヤー!?「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」有翼ニンジャスレイヤーが羽ばたく度に翼から羽が舞う代わりにスリケンが舞う!リバティーは無視しようとする。既に偽物だとわかっている。しかし!

「グワーッ!?」体に一つのスリケンが刺さる!スリケンは偽物のはずでは!?ネタは単純。シェンは偽物の中に本物のスリケン、自身が投げるスリケンを混ぜたのだ。そうなったらどのスリケンが本物か疑うことになる。

そうなれば、シェンの思うつぼだ!「グワーッ!」リバティーの体にいくつものスリケンが刺さる!全てが本物かと疑えば、全てが本物と化す!そして有翼ニンジャスレイヤーの翼から放たれるスリケンの速度はリバティーのエテル吸収速度を越えている。ジリー・プアーだ!

「スゥーッ!ヒューッ…スゥーッ!ヒューッ……」リバティーは再びチャドー擬きを行い、エテルを体に溜め込む。試すが、スリケンも、クナイ・ダートも出せない。自分の遠距離攻撃は、本来のポセイドン・ニンジャの遠距離攻撃は何だ?溶解海水のしぶきではない術は…

己の内に呼び掛け、イメージを汲みださんとする。答えろ!俺の中に溶けたニンジャソウルよ!お前の力を貸せ!……誰かが言葉で答えるわけがない。しかし、体は自然と動いていた。千切れかけた腕を海水と化し、無事な腕と脇腹の間に挟み、イアイのように振るった。

SPLAAAAASH!水が飛ぶ音が響き、有翼のニンジャスレイヤーの胴体が泣き別れをした。その奥にいたシェンの片腕すらも。

振るわれたリバティーの腕は千切れ、そして飛んだ。腕に挟まれたことにより、狭められ、勢いを増し飛んだ。それはウォーターカッターめいた一撃。それを、腕を犠牲にしてリバティーは放ったのだ。

「グワーッ!」切断面から大量に血を撒き散らしながら、シェンはベルトを引き抜いて切断面を圧迫し、出血を抑えんとする。リバティーはシェンの目の前に着地し、片手でカラテを構える。「終わりだ。まず、アンタを殺す」

「フザケルナ!子が親を殺す!なんという親不孝者!許せん!」シェンはニンジャスレイヤーを生み出さんとするも、止める。リバティーを死ぬ前に止めるには、悠長にカラテをしている時間はない。一瞬で、リバティーを行動不能にさせる必要がある。それが出来るニンジャは一人。

「イヤーッ!」リバティーがパンチを繰り出した!シェンは、目の前に一人のニンジャを生み出す。金の渦巻き模様のニンジャ装束のニンジャを!「やれ!サブジュゲイター!ユウジを止めさせアバーッ!?」シェンの全身から出血痙攣!サブジュゲイターは消えた!一体何が!?

…シェンは、知らなかった。バイオサイバネ手術を受けるときに、自身の体に仕込まれたブラックボックスを。サブジュゲイターのヨロシ・ジツはヨロシサンが特許を取得している。系列会社の人間だろうと許可なくおいそれと使えるものではない。

ヨロシサンは、シェンのジツがヨロシ・ジツを模倣し得る可能性に既に気づいていた。だから、シェンがサブジュゲイターにヨロシ・ジツを使わせようとしたら、リバティーに仕込んだものと同じ、バイオ血液の流れを止めるチップを埋め込んでいたのだ。

「カハッ…」リバティーの拳が、シェンの胸を貫いた。「ユウ…ジ…」シェンは手を伸ばし、自身の息子の頬を撫でようとした。しかし、リバティーは拳を引き抜いて、手を打ち払った。「アノヨで息子に詫びてこい」「サヨナラ!」シェンは爆発四散した。

「スゥーッ!ヒューッ…」リバティーは呼吸を整える。今にも死にそうだ。しかし、まだ終わっていない。まだ、残されているものがある。感覚を研ぎ澄ませ、自身以外に動く何かの気配を探る。水の流れを。命の気配を…見つけた。

「イヤーッ!」リバティーは来た道を戻る。そして、目当ての場所を見つける。そこにあるのは…リバティーが拠点だと思っていた貸家。その、リバティーの部屋の上にある窓を、リバティーは殴った!「イヤーッ!」ピシッと、窓に少しだけヒビが走った。

「馬鹿な…ここに気づくとは」何もないはずの部屋から、サザイエの声が聞こえる。外から、リバティーから見える景色は写された景色だ。「アンタさっきから水を飲んでただろ。それを感じただけだ」「カタログスペックを越えている…!これが、本来のポセイドン・ニンジャの力か…!」

「だが無意味!私とお前を隔てているこの窓はお前のニンジャ筋力では破れない!お前は死ぬ!何もできず!わざわざ回収に行かなくて済むようにしてくれたことを感謝するぞ!」リバティーの眼下で回収用のクローンニンジャが待ち構えていた。手にはシェンが撃ち込んだものと同じ注射器。

リバティーは壁のほんの少しの出っ張りを残った手で掴み、落ちないようにしている。「確かに、殴っても破れないだろうな」リバティーは殴って理解していた。「じゃあこれはどうかな?」リバティーは掴んだまま、体をブランコのように揺すり、オーバーヘッドキックのように足で窓を蹴った!

「イヤーッ!」そして足を海水化し、殴った時に出来たヒビから室内を攻撃する!「アイエエ!?」室内から悲鳴が響く!そして、リバティーの足が無くなるのと同時に、元の姿勢に戻す。「サーバーが!?データが!今までの研究が!」ここで初めて、サザイエの焦った声が響く。

リバティーはわかっていた。室内の攻撃した場所、そこに水冷のサーバーがあることを!「クソ!なんてことだ!これでは次のヴィンディクティブが!」映し出された景色が消え、そこに神経質なサラリマンが現れた。奥には切断されたサーバーや設備の数々。

「話をしよう!ヴィンディクティブ=サン!君を治そう!ちゃんとした契約も結ぶ!だから私たちの仲間になってくれ!」サザイエは嘆願する。もはや、ヴィンディクティブを新たに生み出すことは出来ない。今そこにいるリバティーを仲間に引き入れるしかない。その説得だ。

「何言ってんだ。アンタらの思い通りになると思ってんのか」リバティーは上方を見上げ、足を海水化した。「今の俺ならわかるんだ。この上に、施設の外に何があるか」「何を…まさか!?」サザイエはリバティーの狙いに気が付き、更に焦る。このままでは、リバティーは死ぬ!ここ諸共に!

「やめろ!このまま死んで何になる!?そうだ!君がニンジャスレイヤーを殺した暁にはヨロシサン製薬がアマクダリに掛け合って君の名を冠した祝日を作ろう!ただの一ニンジャが祝日になれるのだぞ!?これほど名誉なこともないだろう!?ん!?」サザイエは必死に引き留める!

「ハハッ、んなもんいるかよ。それにな、オレの名前はヴィンディクティブじゃない」リバティーは跳躍の準備に入る。「「ザッケンナコラー!」」クローンヤクザは射撃して妨害に入るが、もう遅い。「オレの名は、リバティー(自由)だ!」リバティーは跳んだ。上に向かって!

「ハハハハハハ!」リバティーは笑った。跳んだ勢いに耐えきれず、足が、腰が、千切れて落ちてゆく!体は未だにエテルが爆ぜ、激痛が襲う!だが、リバティーは笑った。笑ってやった!

最後に残った頭が、施設の天井に届いた。「オレは、自由だ!」そして、頭を海水に変え、天井を切り裂いて、爆発四散した。「サヨナラ!」

地響きが、施設を襲った。そして、切り裂かれ、爆発四散によって砕けた天井から水が滴り落ちたと思った瞬間、大量の水が施設内に降り注ぐ!そう、施設の上にあったのは海!ネオサイタマ湾!海を、ポセイドン・ニンジャの憑依者は感じ取ったのだ!

「なんてことだ…!」指令室で、サザイエは天井を見上げ、事態をどうするか考える。計画のデータは全て消え、強大なニンジャソウルは失った。だが、まだ自分がいる!ノウハウや方向性、どのような在り方にすればいいかを知っている自分が!

サザイエは急いで、外部と連絡するためのUNIXを起動しようとした。だが、いくら待っても起動しない。「何が…シマッタ!」UNIXは、リバティーの攻撃によって飛び散った水を受けて破損し、水没していた。

「このままじゃ…」あとどれだけ持つ?酸素は?ヨロシ・バイオサイバネティカは異常にいつ気づく?定時連絡は既に終わり次の連絡を行うのは六日後。どうやろうとも、救援は間に合わない。

「ア…アイエエエ!嫌だ!死にたくない!こんな!こんな地の底で!」サザイエは泣き叫び始めた。「私は!私はこんな場所で死んでいい男じゃない!」無様に泣き叫び、暴れて貴重な酸素を浪費する。

「ニンジャスレイヤーを殺し!再びヨロシサン製薬本社に返り咲き!代表取締役会の一員になるのに相応しい男なんだ!それが!こんな!」「嫌だ!死にたくないいいいい!!!」

水没しつつある廃墟の一室からしばらくの間、悲鳴が響き続けていた。しかしそれも、降り注ぐ水音に呑まれ、そして消えた。


「セブン・デイズ・オブ・リベンジ、ワン・モーメント・オブ・フリーダム」#4 終わり。このままエピローグに続く。


エピローグ


「あら。駄目だったの」ヨロシ・バイオサイバネティカ社のCEO室でキュアは報告を受けていた。「はい」第7開発部の社員の一人がドゲザをしながら報告した。

事の起こりは、定時連絡が来ないことを訝しんだ第7開発部の報告が発端だった。第7開発部長のサザイエが現在何らかの極秘指令を受け、どこかの極秘施設で仕事を行っていることだけは開発部のメンバーは知っていた。キュアに報告に行くメンバーは順調であると伝えていた。

だが、定時連絡が絶えた。暗黒メガコーポ、ひいてはヨロシサン系列内で定時連絡が途絶えるということは、開発していたバイオニンジャ及びバイオ生物が暴走し、連絡が出来ない状態であるということを示す。

それを知ったキュアは、第7開発部のメンバーの一人を代表とし、海底の下にある極秘施設に向かわせた。そこにあったのは、水没した施設。そして水死して膨れ上がったサザイエだった。研究情報の入ったサーバーは何者かに破壊されサルベージも不可能だと。

「わかったわ。下がって頂戴」「はい」社員はドゲザの姿勢から直り、CEO室の外に出ようとした。キュアは横にいるペイシェントに目配せをする。ペイシェントは120度の姿勢でオジギをした状態で頷き、社員の後ろから首を固め、圧し折って殺した。機密情報を守るために致し方ない犠牲だ。

「それ、片付けて頂戴」CEO室の外から数名のペイシェントが入り、社員の死体を抱えて外に出る。「ふう…」キュアは優雅にため息を一つ吐き、チョイチョイと指で首を圧し折ったペイシェントを自身の横に呼ぶ。

ペイシェントはすぐさま傍に戻り、キュアの命令を待った。「イヤーッ!」「グワーッ!」キュアは足払いをし、ペイシェントを転ばせた。そして仰向けに転倒したペイシェントの顔面を踏みつける!

「オノレ…!」ペイシェントを踏みつけながらキュアは心を落ち着けんとする。サザイエの実験は闇に消えた。実験の経過報告、内容はヨロシサン内にはない。ただ完成度の報告がキュアに来ていただけだ。アマクダリの計画が進めば、アガメムノンの言う『アレ』がネオサイタマに手を伸ばす。

そうなれば、ヨロシサンのデータを確認され、諸々を見抜かれ十二人からキュアが外される可能性がある。それらを考慮して、キュアは何が生み出されているかを知らないようにしていた。

そして、もう一度計画を0から進めるにはもう、時間がない。事態は動き出していた。ニンジャスレイヤーを名乗る何者かが無差別に殺忍行為を働いているという報告が十二人に上げられていた。本物ならば、いずれ本格的にアマクダリを狙いだすだろう。

何よりキュアを苛立たせたのは、もう少しでニンジャスレイヤーを殺し得る武器を手に入れられるというところで、逃したということだ。これから対ニンジャスレイヤーの作戦が進む度に、失敗する度に、どうにかできる手段を失ったということを延々と再認識して苛まれることになるのだ。

「フーッ…!」キュアはグリッとペイシェントの顔面を踏みにじった。「……」ペイシェントは二度、三度ビクンビクンと痙攣をした。

◆◆◆

それから、しばらくの月日が経った。ロケットが飛び、ネオサイタマとキョートで戦争が起き、テロリストのフジキド・ケンジが暴れ、ネオサイタマ湾にカイジュウが現れ、月が砕け、日本という紐が解かれ、いくつもの組織によって何本もの紐により直された。

それでも海は、暗黒メガコーポの工場が垂れ流した排水に汚染され、バイオマグロ漁船が殺人マグロの群れに沈没させられ、月日が経つ前と変わらずそこに横たわっていた。ここで視点を海底に向けよう。

海底で一匹の魚がバイオシャークに追い掛け回されていた。このままならば、簡単に食われて終わるだろう。しかし、魚は海底に空いていた穴に逃げ込み、難を逃れた。

穴を通り抜け、魚は空間に出た。そこには、海に沈んだ町があった。捕食者に襲われない魚たちの避難場所。多くの魚がそこで穏やかな食物連鎖を生み出していた。

ここもいずれはダイバーが発見して絶好のダイビングスポットとして紹介するか。暗黒メガコーポが発見して復旧し何かの計画に利用するだろう。

そこは、束の間君臨した海の神の墓所。それを、今は魚たちだけが知っていた。


「セブン・デイズ・オブ・リベンジ、ワン・モーメント・オブ・フリーダム」終わり。