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タイムリミット・スリーミニッツ#前編

タイマーは無情にも進み続ける。時限爆弾を動かすことはできず、赤と青のコードというカートゥーンじみた解除方法しかない!「ヌゥーッ!」急げ!ニンジャスレイヤー!急げ!

タイムリミット・スリーミニッツ#前編

事の発端は、ソウカイヤの首魁、ラオモト・カンがある情報を手に入れたことだった。とある中小企業が画期的な新型液晶の開発を進めているという情報。現行の高級テレビと同等の画質を誇りながら、それ自体のスペックによりテレビ自体の素材を安く抑えられる代物だという。

ラオモトは自身が筆頭株主である総合電機メーカーへ、その新型液晶を独占できるように企業へと働きかけた。クオリティは変わらず、製作費を押さえられる。カチグミ向けに販売しているテレビをそれに置き換えれば、さらなる利益が狙える。

そしてテレビも碌に買えないマケグミどもへとテレビを、情報を供給してやる。まともな金を搾り取ることはできないだろうが、来るネオサイタマ知事選へ向け、選挙権を持つマケグミどもをこれで己へと投票させる。

ネオサイタマ知事選はIRCによるハッキング、それによる投票結果の改竄を防ぐために住民が一人一人己の手で投票用紙を出さなければいけない。マケグミだろうとカチグミだろうと一票は一票、情報供給の間口は広ければ広いほど遥かにイイ。

だがしかし、企業の返事は、ラオモトの期待したものではなかった。

開発中であるがため、失敗した場合のリスクと、開発途中の自社製品の情報をどこからか聞きつけた人間への恐れが、企業の社長の返事を変えた。資金の供給やパトロンの申し出も断った。

それらの行動がラオモトの逆鱗に触れた。裏の情報を知らぬ、クリーンな、ソウカイヤへの恐れを知らぬ企業。昨今ニンジャスレイヤーによるソウカイヤへの攻撃からか、いくつかの支配下の企業は離反を企んだ。無論、すべて叩き潰し、完璧に服従を誓わせたが。

この企業は、みせしめとして徹底的に破壊せねばなるまい。ゆえに、ラオモトはある決断を下した。この企業を爆破解体し、更地にすべし!

その行動を、ナンシー・リーがキャッチし、ニンジャスレイヤーへと伝えられたのが計画実行の二時間前だった。

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ニンジャスレイヤーが目的の企業へと到着したのは、午前0時ちょうど、人気のない時間だった。本来誰もいないはずの企業ビル3階にはわずかな明かりが灯る。おそらく、ウシミツ残業サラリマンだろう。ならば、1階、正面玄関にわずかに見える、懐中電灯の明かりは何か。

傍に見えるのは、倒れた警備員。額に銃創が見える。おそらくは即死だったのだろう。そしてその懐中電灯の明かりが照らす人影、それこそがおそらく警備員を殺した犯人でありソウカイヤ、ラオモトの放ったニンジャなのだ!

ニンジャスレイヤーは正面玄関へと静かに近づいた。自動ドアは破壊され、遮るものはなし。人影へとアンブッシュを仕掛けるために己の四肢にカラテを滾らせた。

だがしかし!「ヘヘヘ、いるんだろう?ニンジャスレイヤー=サン」人影はくるりと振り返り、ニンジャスレイヤーを見た。若い、男だった。年齢は見た目のみで判断するならば大学生ほど。スーツにトレンチコート、鼻から下を隠すメンポ。ニンジャだ。

「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、レコレクションです」アイサツを決め、レコレクションは不敵な笑みを漏らした。「ドーモ、レコレクション=サン、ニンジャスレイヤーです」ニンジャスレイヤーもアイサツし、カラテを構えた。

「へへへ、やっぱり来たな。ソウカイヤに盾突くイカれたニンジャ。もしあんたを殺せればラオモト=サンはボーナスをはずむとさ」レコレクションは構えず、ヘラヘラと笑いながら、ニンジャスレイヤーをにたりとした笑顔で見る。

「ソウカイヤの犬め、オヌシらの企みは水泡に帰す」ニンジャスレイヤーはジリジリと近づきながらも、まだ仕掛けない。それはレコレクションの放つ異様な気配にある。その全身から放たれる異質な自信。そして殺気の無さ。

かつてニンジャスレイヤーが戦ったソウカイヤ・ニンジャは、そのほぼすべてが、カラテの鍛錬によって積み重ねられた、覇気ともいうべきものを纏っていた。だが、レコレクションの纏うもの、その正体は何だ?

「アンタのソウカイヤを潰すという目的、悪いけどそれは諦めてくれないか?」レコレクションはニッと笑い、ニンジャスレイヤーがにそう言い放った。「以前私が殺したニンジャに、それを狂人の戯言と断じた者がいた」ニンジャスレイヤーは、スリケンを構えた。

「だがその者は私が殺した。オヌシもそうなる。……ニンジャ殺すべし!イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは、スリケンを投げた後に走り出した!レコレクションのジツ、カラテ、それらの正体を明かし、その自信の根源を探るべし!

「ああいや、アンタの出来る出来ないの問題じゃなくてさ……俺がソウカイヤを潰すからさ」「何?」レコレクションはそう言い放つと、狂人のごとき笑みを浮かべた。「イヤーッ!」レコレクションはコートを翻し、腰元に両手を動かした。そこにあるのは2つのホルスターに二丁の拳銃!

レコレクションは2丁拳銃を抜き放ち、二丁を胸の前で交差した。おお!ゴウランガ!これはピストルを用いたカラテ!ピストルカラテの構えだ!「イヤーッ!」スリケンを側転回避!二丁拳銃を乱射!オートマチックピストルから銃弾が吐き出される!

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはブリッジ回避!その勢いでバク転!体制を整え距離を詰める!この射撃を行うのがクローンヤクザならば、回避後すぐに反撃を行うのは容易い。だがレコレクションはニンジャ!その射撃はすべて的確にニンジャスレイヤーの急所へと放たれる!

ニンジャスレイヤーは接近するも、レコレクションは距離を取り射撃を行い続ける!スリケンは回避か撃ち落される。ならば、接近戦によるカラテに持ち込むしかない!なんとかしてレコレクションのペースを崩さねばならない!そのためにニンジャスレイヤーは行動に移した。

「オヌシがソウカイヤを潰すと言ったな。ゲコクジョを企むものを、早々ラオモトが近付けると思うのか?」そう、そのような企みを持つ者など、早々に見抜かれ腹切りセプクか、釜茹でに処されるのがあまりに見え透いている。

「そこでアンタさ」レコレクションはブラブラと手を動かしながらも、銃口はニンジャスレイヤーの眉間を外さない。「アンタをここで殺し、この会社を吹き飛ばす。その手柄で俺はシックスゲイツになる!」レコレクションは仰々しく、手を広げ天を仰ぎ見た。その顔は陶酔に満たされている。

「そしてラオモトとシックスゲイツの慰安温泉旅行!そこで俺はラオモトとシックスゲイツを殺す!そしてソウカイヤを潰す!その後はザイバツだ!」レコレクションは、唾を飛ばしながらそう捲し立てた。「なんたって俺はァ!サムライ探偵サイゴだからだァ!」待て、レコレクションは今何と言った?

サムライ探偵サイゴ、それはネオサイタマで人気のカトゥーンだ。元は小説だったが人気があり、それによりコミックやアニメにもなった作品だ。しかし何故レコレクションは己をサムライ探偵サイゴと言ったのか?ニンジャスレイヤーは冷静に目の前の男を見据え、そしてふと気づいた。レコレクションに感じたものの正体。

レコレクションは、これから行うことすべてを成功する前提で話しているのだ。ニンジャスレイヤーを殺す事も、企業爆破のミッションも、シックスゲイツ昇格もラオモト暗殺も何もかもを、成功すると確信した上で話しているのだ。己がサムライ探偵サイゴだからという理由で。

つまるところ、レコレクションは狂っていた。己をカトゥーンの登場人物で、主人公だと考えていた。主人公だからこそ、何もかもが成功する。このイクサも奴にとっては己の勝利が確定している。だからこそ殺気もない。殺し合いではないからだ。

「己を正義と称し、その為に上にいるサラリマンたちを殺すか。それがサイゴとやらの行動なら、随分な駄作と見える」「サイゴを馬鹿にするな!サイゴはなぁ!強くて、渋くて!かっこよくてナァ!」レコレクションの射撃がぶれた!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは再度接近!

「「グググ……フジキドよ…」」フジキドのニューロンにナラクの声が木霊する。「「あやつに憑依しておるのはテッポウ・ニンジャクランのレッサーニンジャよ…だがしかし…グググ!」」ナラクは嘲り笑った。

「「あやつの使うピストルカラテ…あれは不完全な代物よ。本来ピストルカラテは射撃の反動をカラテに繋げるために、反動の強いものを使う…」」そう、レコレクションの使うピストルはサプレッサーを付けたオートマチックのピストル。反動がそこまでなく、本来リボルバーなどを用いるのがピストルカラテだ。

「「憑依したニンジャのソウルはよほど、ピストルカラテを使えぬと見える…フジキドよ!ピストルカラテを引き出し、その隙を突くのだ」」ニンジャスレイヤーにとっては幸運なことに、ソウカイヤに所属するニンジャにピストルカラテを用いるものはいなかった。

僅かながらにゲイトキーパーやダークニンジャがモータルに伝わる暗黒武道ピストルカラテの存在を知るのみ。レコレクションは憑依したニンジャソウルの中に残滓のようにあったピストルカラテの型を一つずつなぞっていたのだが、それらが完成する前に今回のミッションを命ぜられたのだ。

「死ね!ニンジャスレイヤー=サン!死ね!」レコレクションは殴りかかった!「イヤーッ!」そしてピストルの引き金を引いた。「シマッタ!」レコレクションはそこで己の失態を悟った。これがリボルバーなら、射撃の反動により拳が加速し、ニンジャスレイヤーへとカラテを叩きこむことができた。

だがこのオートマチック静音ピストルでは…!「イヤーッ!」「アバーッ!?」ニンジャスレイヤーはレコレクションの肩口に目掛けチョップをし、両腕をカイシャクした。「ア、アバッ、馬鹿な…!こんなことが!」両腕を失ったレコレクションは倒れ、ニンジャスレイヤーを見上げた。

「ハイクを読め、レコレクション=サン」「俺は、俺は!サムライ探偵サイゴだ!主人公なんだぞ!こんな、こんなちんけな場所で死ぬはずなんかない!」レコレクションはニンジャスレイヤーを見るも、ニンジャスレイヤーを見ていなかった。

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはレコレクションの頭を踏みつぶし、カイシャクした。「サヨナラ!」レコレクションは爆発四散!そこに聞こえる電子音!「爆弾起動ドスエ。この爆弾は動かしたら爆発するドスエ!カラダニキヲツケテネ!」受付の裏から響く合成音声!

ニンジャスレイヤーは、受付の裏を見た。そこに鎮座するは巨大な爆弾!これが起爆すれば、ビルどころか半径1キロが消し飛ぶだろう!ニンジャスレイヤーのニューロンが加速する。ナンシー=サンへ連絡する?いいや間に合わない。タイマーギリギリに空へ投げる?いいや先ほどの音声がある。

爆弾のタイマーの下には赤と青のコードが露出している。おお、ブッダよ!まさかこの二本の内どちらかを切れと言っておられるのですか!?

タイマーは無情にも進み続ける。時限爆弾を動かすことはできず、赤と青のコードというカートゥーンじみた解除方法しかない!「ヌゥーッ!」急げ!ニンジャスレイヤー!急げ!

タイマーは、ちょうど03:00を示した。

(「タイムリミット・スリーミニッツ」#前編終わり。#後編へ続く)