タマアリタマナシタマカケタマヌキノホシ

「ひぇあああ!この子!タマナシだよぉ!」
 産婆が腰を抜かしながら、産湯に浸かる赤子から後ずさる。忌むべきものが己の両腕にあった嫌悪感。咄嗟に締めなかったのは、奇跡と言えた。

「今すぐこの子を絞めるべきだよぉ!」
 しかし奇跡も長くは続かない。タマナシは殺す。産婆は村の掟に従い男にそうするべきだと言う。殺さなければどうなるか。殺して掟を守れと急かす。

「…いや。この子は死なせない」
「あんた!タマカケになる気かい!?あんたもその子も!死んじまうよぉ!」
 だが、男は産婆の忠告も聞かず、産まれたばかりの赤子を産湯から取り上げる。

「…全うなタマアリにしてやれなくてごめんなぁ…今、タマを入れてやるからなぁ…」
 そう言って男は、妹に産ませた自分の子の頭を掴む。男の目鼻口から紐のようなものがぞるりと飛び出し、泣き叫ぶ赤子の全身へそれが…



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 アキシマソウイチは退屈げに、目の前の立体映像を眺める。愚かな前世紀のサル肉の戦争。歴史の授業は退屈だ。いや、他の授業も変わらない。知っていることを学ぶのは退屈の極みだ。

「センセー。もうオレたち知ってるから勉強しなくても良いと思いまーす」
 同じ事を考えている生徒がソウイチの思っていることを代弁する。いや、ソウイチだけではなくこのクラスの全員がそれを考えている。

「センセイだってなぁ。オマエらが何を考えているかわかっている。けど最近あんまり繋がりが良くないだろ?」
 確かに。そうだと言われたらソウイチも強くは言えない。

「取り敢えずいと素晴らしき父祖が対策を考えるまで」ギィィィイ!死死死死死!




 秋島創一が目を覚ましたのは同級生の撒き散らした吐瀉物の中。それが創一の産湯だった。

「あ…?うあ…おれ…」
 創一は震える足で立ち上がり、そして窓辺に寄りかかり倒れた。まだ慣れない視界に外の光景が飛び込む。見える範囲のありとあらゆる生物が死んでいた。

【続く】