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64歳、新天地で夢を叶える。港町「女川」でスパイスカレー専門店をオープン。

今回のnoteは、将来起業を志し、「お試し移住プログラム」に参加しながらお店のオープンを手伝っている高校生の木村さんと、地域を周りながら学ぶ新しい形の大学「さとのば大学」2年生の明神さんによるインタビュー形式でお届けします!


若槻さん(写真左)、木村さん(写真中央)、明神さん(写真右)

地⽅の課題解決を⽬指し様々な事業を運営するNPO 法⼈アスヘノキボウは、地⽅での創業に特化した⽀援プログラム『創業本気プログラム』を年に2回開催しています。

創業本気プログラム2019年度の参加者である若槻 武志(わかつき・たけし)さん(64)が、料理人そして大手のファミリーレストランチェーンでの商品開発を経て、夢であった自分の店を持つ舞台として選んだのは⾃⾝と縁もゆかりもない宮城県の小さな港町「女川町」でした。

この記事では、2023年7月15日にスパイスカレー専門店「Blue Coral Reef」をオープンする若槻さんが女川町での創業を決意した背景やお店のこだわりについて紹介させて頂きます!



[木村]
本日はどうぞよろしくお願いします!
早速ですが、まもなくオープンですね。
オープンまであと少しですが、どんな心境ですか。

[若槻]
当然ながら期待と不安が混じっています。早くオープンしたいという気持ちや、提供した料理で喜んでいただきたいという願いもありますが、初めての経験なので間違いやミスも起こるかもしれないという不安もあります。それでも、やはり一番は元気に頑張って営業していきたいと思っています。

シェフ若槻と女川との出会い

[木村]
それではまず、オープンまでの道のりについてお話をお伺いしたいです。
最初に、女川町でお店を始めようと思ったきっかけを教えてください。

[若槻]
料理人として働く中で、当然いつかは自分のお店を持ちたいという夢を持っていました。そんな中大病を患い、2年半ほど休職することになりました。その時はまず体を回復させることが最優先でしたが、回復後、女川のことを思い出し、自分の夢であるお店を女川で開きたいと思うようになりました。それが私の大きな転機であり、一大決心でした。

 最初は小さなレストランをやりたいと思っていて、女川はそのイメージにぴったりと合っていると感じていました。どんどん女川でお店を開きたいと強く思うようになっていきました。

[木村]
若槻さんと女川町の出会いについて教えてください。

[若槻]
女川町を知ったのは震災後で、それからずっと、年に2〜3回ほど三陸沿岸訪れていました。毎回北から入り、最後は女川を拠点にして帰るようにしていました。
訪れる度、女川町の復興のスピードの速さが印象的でした。防災ではなく減災のアプローチを取っているまちづくりをしていることに興味を持ち、何度も通ううちに女川の海や周囲の山々の魅力を感じてここに住みたいと思うようになりました。

[木村]
女川町と出会ってから、印象に残っている出来事や場所などがありますか?

[若槻]
やはり海がとても良く見ることですね。あとは、黒森山や石投山によく登ります。山からは海は見えませんが、途中に展望台があり、そこからの景色はとても感動的です。特に黒森山の第3展望台からの景色や石投山から見える出島方面の景色も非常に素晴らしいです。

[木村]
ありがとうございます。
続いては、若槻さんのこれまで携わってきたお仕事についても聞かせてください。
女川に来る前のお仕事も大手のファミリーレストランチェーンでの商品開発という食に関わる仕事だったとお伺いしました。もともと食に興味があったのでしょうか?

[若槻]
はい、小さい頃から食への関心がありました。母は料理が非常に上手だったということと、ボーイスカウトの野外活動で料理を振る舞った際に団員たちから「美味しい」と言ってもらえたことが印象的でした。このような経験がきっかけで、高校を卒業してから調理師学校に進学し、卒業後はレストランで働く形で食に関わるようになりました。

[木村]
美味しいと言われるのは嬉しいですよね!

[若槻]
そうですね、やっぱりそれが一番嬉しい褒め言葉です。

店名『Blue Coral Reef 』に込められた想い

[明神]
お店の名前の由来を教えてください。

[若槻]
「Blue Coral Reef(ブルー・コーラル・リーフ)」という名前は、直訳すると「青い珊瑚礁」となります。

この店名にした理由の一つは、カレーは特に夏に人気がある商品ですので、夏のイメージに合った名前を選びたいという思いがありました。もう一つの理由は、「珊瑚礁」という言葉は南の夏の海を連想させるため、女川のイメージにも合うということで、この名前を選びました。
 
ちなみに、「青い珊瑚礁」というと松田聖子さんの曲を思い浮かべる方も少なくないと思いますが、特に関係はございません(笑)

スパイスと試行錯誤

[明神]
お店で出すカレーを作り上げるまでの道のりを教えてください。

[若槻]
誰かから教わったというわけではなく、まず最初は試しに作ってみることから始めました。雑誌やインターネットの情報を参考にしながら、スパイスの配合によってどのような味になるのかを試行錯誤しました。
試作を繰り返し、足りない部分や改善すべき点を見つけながら、レシピの精度を上げていきました。

ある程度納得できたらそこでストップし、次のカレーに向けてまた新たな試行を進めていきました。そうすることで自分の中にたくさんの引き出しを作作り、それらを組み合わせてより美味しいカレーを作れると思っています。また、引き出しを作るためには良質な原材料や素材を使うことも大切にしています。


[明神]
地道で緻密な作業ですね。

[若槻]
そうですね。そのような作業を繰り返すことで、商品開発の時間が短くなっていき、品質も向上します。なぜなら、引き出しの中に良質なものがたくさん詰まっているから。引き出しを増やし、それをパズルのように組み合わせることで、さらに美味しい料理が生まれるのです。

そして、そういった要素はすべて数字から導き出されています。
 私のレシピは高い精度を保つため、すべてグラム表示にしています。グラム単位での調整とレシピの積み重ねが重要です。

[若槻]
レシピには試作回数も書いておりますが、実際はこの前にもっとたくさん作っていますね。

 [明神]
へえ、この前にもたくさん仕込んでいるんですね。どれくらい試作されているんですか?

 [若槻]
一つのメニューあたり10回以上の試作を行っています。まずはお店で仕込む量の10分の位置の量で試作を繰り返し、レシピを改善していきます。

[明神]
たくさんのスパイスを使いスパイス感を出すとおっしゃっていましたが、大体どれくらいの種類のスパイスを使用されていますか。

[若槻]
ホールスパイス(植物の種子やつぼみを加工せずに乾燥させたもの)とパウダースパイスの両方を使用していて、大体12〜15種類のスパイスを組み合わせて使っています。配合もカレーごとに全く違います。

[明神]
 それぞれのカレーについて、スパイスの配合を決めるまでにどれくらいの時間がかかりましたか?

[若槻]
カレーによって様々ですし、満足できる配合になるまでの時間を表すのは難しいですね。何度も試行錯誤の積み重ね、配合を修正しながら進めていくため、完成までには長い時間がかかります。ただし、完成といってもそこで終わりではなく、一度納得したものでも、必要だと思えばスパイスを追加したり、まだ変化し続ける可能性があります。

[木村]
一番思い出深いメニューは何ですか?

[若槻]
一番思い出深く、力を入れているのは骨付きチキンのスパイスカレー「ムルギー」です。もも1本を使って圧力釜で炊いたり、時間をかけてブイヨンを取るため、とても時間がかかります。
一つのカレーを仕込むのに大体10時間から12時間かかります。フォンドボーを炊くだけで6時間かかります。
 ムルギーは私の一番のおすすめですが、こだわりが詰まっている分、作るのも非常に大変です。

ありのままに魅せるオープンな厨房

[木村]
カレー以外にもお店作りでこだわったポイントはありますか?

[若槻]
お店が入るハマテラスや道の駅おながわは素晴らしい環境ですので、それにふさわしい店舗設計にする必要がありました。実際に内装の色合いやおしゃれさを取り入れながら、女川らしい良い環境で美味しいカレーを提供することに力を入れました。これが一番強くこだわった点ですね。

内装をつくるのは、今回が初めての経験ですが、様々なメディアや雑誌を参考にしながら研究しました。イメージに合う要素を集めて、パズルのように組み立て、設計会社に依頼して、このような店舗を作りたいと伝えました。

[木村]
印象的なのは、厨房の中がしっかり見える開放的な雰囲気ですね。その点に関してもこだわりはありますか?

[若槻]
はい、全てを見せること、隠さないことがコンセプトの一つです。通常はクローズドキッチンが多いですが、私たちは意図的に全てを見せるオープンな厨房にしました。全てを公開し、ありのままの姿をお客様に見せることが大切だと考えました。お客様に理解していただけると思います。

[木村]
そうですね、本当に見えますね。入ってすぐに。

[若槻]
店側としては作業や行動が常に見られているということで仕事中の緊張感や衛生面への意識など少しやりづらさを感じるかもしれません。しかし、そこを意図的に見せることで、お客様の信頼もいただけると思っています。

どんなお店を目指しているか

[木村]
このお店がどういう存在になっていきたいか、来てくれる方へのメッセージをお願いします。

[若槻]
女川の地域の方々に喜んでいただけるお店であり、誇りに思えるお店になりたいと考えています。そのためには、確かな料理や良いサービスを提供し、お客様が満足して食事を楽しんでいただける体験を提供することが目標です。これを継続することで、女川の地域の方々だけでなく、近隣の石巻市の方々にも喜ばれる存在になりたいと考えています。


夢のつづき

[木村]
オープン前ではありますが、ぜひ若槻さんの夢の続きについてもお聞かせください。

[若槻]
オープンするのはカレー屋ですが、実は私は洋食屋を開きたいという夢も持っていました。特に料理のシーンをより身近に感じられるような風景を提供したいと思っています。ただし、まだ諦めてはいません。
 
カレー屋を昼間営業し、ある程度皆さんに知っていただけたら、将来的にはディナー営業を開始し、本来の夢である洋食屋を実現したいと思っています。その時の店名も決めていて、「ウミネコ軒」というお店を始めたいです。実現できるかどうかはわかりませんが、少しでも思い描いています。

現段階では、道の駅の施設自体は夜に営業している店舗が少ないため、将来的には夜の営業も検討していきたいと思っています。また、このお店は現在は土日祝日のみの営業ですが、徐々に平日のランチ営業も行っていきたいと考えています。

【あとがき】インタビューを通して

[木村]
私は、飲食業界での勤務は今回が初めてだったので、期待と不安がいりまじっていました。 そんな中、つい先日にプレーオープンが無事に終わりました。若槻シェフは、「料理は美しく」「一つ一つの作業を丁寧に」と声をかけてくれました。また、インタビューからも感じられる通り、若槻シェフのカレーやサービスに対する、溢れんばかりの情熱が伝わってきました。若槻シェフの作るカレーは、きっと女川の誇りになるに違いありません! そして、オープンキッチンなのでお客様から”美味しい"という言葉をいただくと、とても嬉しくなりました。ふと、若い頃の若槻シェフもこんな気持ちだったのかなと思うことがあります。 今後とも、若槻シェフと共に、Blue Coral Reefを盛り上げて参ります!

[明神]
美味しいと満足して帰ってもらいたい。
何度も配合調整してレシピの解像度をあげる。
そんな真摯な姿勢で、歩み続ける若槻シェフの姿に感銘を受けました。
特にバターチキンカレーは好みな味でこだわりのチキンがホントにあっさり口のなかでに消えていったのが印象的でした。
丁寧な振るまいと気遣いが魅力的な若槻シェフでした!

※営業時間等の情報はこちら

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