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高校生発 ロールモデルをみつけよう!#12 小高haccobaブランドディレクター佐藤みずきさん

取材日:2022年6月12日
編集:大矢悠希、佐藤菜々香

2021年2月、南相馬市小高区にクラフトサケの酒蔵haccoba -Craft Sake Brewery-がオープンしました。
民家をリノベーションした素敵な空間は、日本酒の醸造法で丁寧に作られた独自のお酒が楽しめるブリュワリーです。米やホップ、フルーツやハーブなどを織り交ぜた新感覚のお酒は好評を呼び、遠方から訪ねてくるお客さんもいるのだそう。

今回、取材させて頂いたのはhaccobaのブランドディレクター  佐藤みずきさん。みずきさんは酒蔵を開くため、小高にご主人と移住してきました。

ご夫婦がどうして酒蔵を始めたのか、そしてなぜ小高を選んだのか、みずきさんの想いやこれまでの歩みとともにお話を伺いました。


自分の感性を大切に

福島県いわき市で生まれたみずきさん。小さい頃からおしゃれが大好きで、夢はファッションデザイナーでした。高校卒業後は東京の短大に進学。その後某有名アパレルブランドに新卒で入社します。

しかし、みずきさんにはもう一つ、小さい頃からの憧れがありました。「海外での生活」です。「20代のうちに海外で生活をする」と決めていたみずきさん。念願のアパレル業界への就職でしたが、仕事を辞めてイギリスへ行くことを決意します。3年間一生懸命働いて貯金したあと、ご両親を説得し、単身イギリスへ留学しました。

イギリスでの7ヶ月間の生活で、違う価値観や文化に触れることができ、とても有意義な時間を過ごしたみずきさんは、帰国後、再び東京で働こうと、ご実家の家業を手伝いお金を貯めます。

この時期に「私が本当にしたいことは何なんだろう」とより深く考えるようになったと言います。以前働いていたアパレル業界は、もともとみずきさんにとって憧れの世界でした。ですが、早いスピードで移り変わっていくファッション業界の流れとみずきさん自身のペースが合わないことを感じてきたと言います。服に限らず、あらゆるものに自分の好みを持っていたみずきさん。流行に合わせて消費するよりも「自分の好きなものを長く大切にできるほうが幸せ」と感じる自分に気づきました。また「日常のちょっとした楽しみ」を増やすことが好きな自分にも。

自分に芽生えた二つの想い。
これらにマッチしたのが「雑貨」でした。
雑貨を提供することで、お客さんに小さな幸せを提供していきたいと考えたみずきさんは、アパレル業界ではなく、都内の大手雑貨店に就職することを決めます。

自分の価値観への気づき

大手雑貨店で10年勤務したみずきさんは店長になっていました。その後のキャリアパスとして考えられるのはエリアマネージャー。順調なように見えますが、みずきさん自身はこの未来に疑問を感じました。
「10年後もこの仕事をしたいだろうか」この先にある未来が、自分のやりたいことではないと感じたみずきさんは、転職を決断。

そして本当にやりたいことはなにか、改めて自分自身に問いかけます。

みずきさんが転職活動をした際に、偶然出会ったのが、Wantedlyという転職サイトでした。

転職サイトにはたくさんの会社の求人情報が掲載されていますが、その内容は私たちが想像する通り、どれも「給与」や「労働時間」などの労働条件の羅列です。

しかしWantedlyが掲載する求人情報はひと味違います。
労働条件などは一切書かれていません。あるのは、会社の人が「どんな人と仕事をしたいか」「どんな想いで仕事をしているのか」についてのみ。

つまり労働条件で仕事を選ぶのではなく、その会社の人の想いを知り、共感するかどうかで仕事を決めるというものなのです。

みずきさんはこの考えに新鮮さを感じると同時に、共感を覚え、このサイトを使って転職を目指します。すると、Wantedlyが自社の求人を出していることを発見します。「自分が良いと感じたものを提供できる!」そう感じたみずきさんは、すぐに応募を決めます。

IT業務は未経験でしたが、みずきさんの熱意が伝わり、Wantedlyに入社することが出来ました。
みずきさんに「誰と仕事をするのか」「自分が大切にしたい想いはなにか」を気づかせてくれたWantedly。初めてのwebの世界ではありましたが、同僚に恵まれ新しい世界を積極的に吸収していくみずきさんでした。そして、このWantedlyでご主人と出会い、結婚します。

新しい町 小高で、新しいお酒を

Wantedlyでいきいきと働いていたみずきさんに人生の転機が訪れます。ご主人のかねてからの夢である「日本酒の事業を起こしたい」という想い、そして、その1歩として「酒蔵」を開きたいとの相談を受けます。ご主人の熱い想いを聞いたみずきさんは、ご主人の夢をふたりで叶えようと決意しました。

ご主人はWantedlyを退職し、新潟の酒蔵へ修行に出ます。そしてみずきさんも新潟へ。会社に頼んでリモートワークをしながらご主人を支えます。1年間の修行後、ついに酒蔵のオープンに向けて動き出します。

酒蔵を開くにあたって必要な「場所」については、ご主人には気になっていた所がありました。南相馬・小高です。きっかけは、Next Commons Lab(NCL)南相馬のブリュワリー求人欄でみたNCLの運営を担う小高ワーカーズベース和田さんの想いでした。ご主人は早速小高へ出向き、和田智行さんと面談します。実は和田さん、この「高校生発 ロールモデルを見つけよう!」で取り上げさせていただいた最初の先輩でもあります。

和田さんの想いは、自立した地域社会を目指し、自由でフロンティアな町を自分たちで営んでいくというもの。そのために新しいビジネスを立ち上げるサポートをしていくと言います。

和田さんの想いに深く共感したみずきさんとご主人。
「ここでなら夢を叶えられる」そう感じ、小高に移住を決断します。

酒蔵となる民家は、東京の建築事務所にリノベーションしてもらいます。改装期間中、みずきさん自ら飲食店の経験を積むために、東京の会員制のカレー屋さんで修行をするなど、オープンに向けアクティブに動きました。

2021年2月に念願のオープンを迎えたhaccoba。
新しい町・小高で新しいお酒を作り始めました。

ガラス越しに酒蔵を見学する高校生
酒造りの場とbarが一体のhaccoba

みずきさんの仕事観

自分の好きなものやこだわり、そして自身の感性を大切に生きてきたみずきさん。現在に至るまで、色々なお仕事を経験されてきました。

みずきさんの仕事観とは、どのようなものなのでしょうか?

《仕事=生きること》
家業を営むご実家で、仕事をするご両親の背中を見て育ったみずきさん。そのため、生活のなかに''仕事''があるのが当たり前という感覚が昔からあったそうです。

仕事をすることは、生きることそのもの。何をやっているときが自分は1番楽しいか、自分の人生をどう使いたいか、自分自身に問いかけてみることはみずきさんにとって大切なことなのだそう。だからこそ自分の好きなこと、楽しいこと、興味のあることを仕事にしているのだとおっしゃっていました。

《仕事に年齢は関係ない》
Wantedlyに入社した当初、全く馴染みのない業界に飛び込んだみずきさんは、IT用語などが全く分かりませんでした。そのため分からない言葉が出てくると、その都度検索しながら仕事を覚えていくという状況が続きます。その時に助けてくれたのが、インターンでWantedlyに来ていた大学生でした。その大学生はIT関連に精通しており、みずきさんがどんな質問をしてもはっきり答えてくれ、みずきさんのIT業務もサポートしてくれました。

たとえ年下の人でも、その仕事や分野に対して、多くの知識や経験を持っている人から、仕事を教えてもらう、そしてみずきさんも自分の得意分野を伝える。
そこに「仕事に年齢は関係ない」と仕事に真剣に向き合うみずきさんの姿勢を感じました。
今もなお、わからない分野を学び、吸収し続けようとするみずきさんです。

これからのhaccoba

コロナが始まった時期と重なったhaccobaのオープン。みずきさんたちは、オンラインでの販売など時代に合った工夫を凝らしながら今のhaccobaを創ってきました。こだわりのお酒は大好評で、今では販売開始後直ぐに売り切れることもあるほど。そんなhaccobaの今後についてみずきさんに伺うと、とっても明るい答えが。

「これからのhaccobaはお酒を飲める人だけでなく、飲めない人にも親しんでもらえる場所にしたいと思っています。そのためにお酒だけの提供に留まらず、金・土・日曜日は、食事の提供もしています。また、イベントなどを開催して、haccobaを色々な人が交流できるような明るい場所にしたいですね。」

笑顔で話す様子に、みずきさん自身のワクワクが垣間見えました。

高校生へのメッセージ

 
最後に、みずきさんから、私たち高校生に向けてのメッセージをいただきました。
みずきさんは、
「もし今、皆さんに明確な夢や目標がないとしても、それを不安に思う必要はない」と言います。「自分は学生の頃、夢や目標がないことがコンプレックスで悩んだ時期があった。人には明確に目標を持つタイプと、夢を持っている人をサポートしようと動くタイプがいると知り、自分は後者のタイプだと腹落ちした。そこからは、自分の気持ちや感性を大切にしている。」と、ご自身の想いに向き合い続けてきたみずきさんは、さらに言葉を紡ぎ、
「高校生の皆さんには、良いなと興味を持ったことを、一生懸命にやってほしい。周りの人と比べる必要はない。自分で決めたことを一生懸命つづけていくと、夢や目標が見えてくるようになる。とにかく焦らずに、どんなことにも挑戦してみてほしい。」
とおっしゃっていました。
私たちは、すぐに「夢や目標を持つこと」に目を向けがちですが、自分自身の感性や想いに向き合うことが大切で、それがあってこそ夢や目標を持つことができるのだと気付かされました。

編集後記

ご自身の感性を大切にしているみずきさんから、目の前のことを丁寧に向き合うことを教えていただきました。
本当にありがとうございます!


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