言葉で訪ねる『音ちゃん』の世界第7号~映像編その2

0 はじめに

こんにちは、夢水です。
さて、今回の記事が、とうとう「言葉で尋ねる『音ちゃん』の世界」の最終号となりました。約1ヶ月にわたって連載してきたこの記事ですが、今回は前回に引き続き、映像やリモート合唱のことに触れながら、最後の記事とさせていただこうと思います。
今回お話を伺ったのは、映像編集と『命の音色』のリモート合唱編集をメインに携わっていただき、エキストラとしても出演していただいた、ゆうみさんです。最終号ですので、ぜひ心して読んでくださいね。


1 作者とゆうみさんとの関係

私とゆうみさんとは、このラジオドラマ企画で知り合いましたが、映像編集や合唱の編集に関して、このラジオドラマ以外にも経験があったようで、たくさんお知恵をいただきました。といっても、ラジオドラマ企画は、『音ちゃん』の一つ前の、『アップデート』からの参加ということで、かなり新しいメンバーの一人です。しかし、貴重なお話しをたくさん伺うことができ、新しいメンバーだということをすっかり忘れてしまうほどでした。


2 ラジオドラマと映像の関係

少し前の記事にも書きましたし、多くの方がご存じかも知れませんが、ラジオドラマとは基本的に超えや音で楽しむドラマです。そのラジオドラマに映像を付けるとはいったいどのようなことで、そしてどんな魅力があるのでしょうか。
まず、映像編集の方法について、ゆうみさんに聞いてみました。

「映像編集では、制作したラジオドラマをYouTubeで公開するために、イラスト担当の方が用意してくださったイラストとドラマの音声を重ねて、動画を作ります。
基本的には、イラスト数などに応じて、各シーンでどのイラストを使うか決め、重ねる作業をイラストの枚数分繰り返すのみですが、私はそれにプラスして、フェードイン・アウト(イラストが秒数ごとに少しずつ消えたり、見えてきたりする効果)を、各イラストごとに設定して、イラストの切り替わり部分を作っています。 (ゆうみ)」

前回の記事ではイラストについて詳しく取りあげましたが、映像編集とはイラスト担当の方とのコミュニケーションが非常に大事になってくるようですね。そして、映像編集はただそのイラストを、ドラマのシーンに重ねるだけではなく、上記のお話しにもあったように、フェードインやフェードアウトなどの機能を用いて適切に切り替えることで、より洗練されたものになっていくのです。
ゆうみさんは、音や声だけでも十分楽しめるラジオドラマに映像が付くことの魅力について、「…YouTubeで公開する際には動画という形にする必要があるので、イラストも見つつ、自由に情景を思い浮かべながら、楽しめることに意味のあるのではないかなと考えています。 (ゆうみ)」と説明しています。
確かに、ラジオドラマは音や声だけでも十分楽しめます。しかしそこに少し映像が付くことで、きっと視聴者の皆さんの目の前には、さらに鮮やかにお話しの世界が見えてくることでしょう。それはまさに、お話しをより楽しく理解するための扉を与えてくれるものとも言えますね。
私も小説を書くときは、見えないながらも頭に情景を思い浮かべて書いています。小説は基本的に言葉だけなので、映像を付けたりすることはありません。しかし、情景がありありと思い浮かべられる言葉選びをすることは、映像のない言葉だけの世界に映像をもたらし、新たな世界を作り出してくれるのです。その意味で、ゆうみさんの携わってくださった映像編集には重要な意味があるのです。


3 『音ちゃん』の映像編集でこだわったこと

ゆうみさんは今回の作品の映像編集ではどのようなことにこだわったのでしょうか。これについてゆうみさんは、「作業自体は、さほど大変ではありませんでしたが、嬉しいことにイラスト担当の奈良野理生さんが頑張ってくれて、イラストの枚数が格段に増えたので、各シーンで使うイラストをできる限り細かく変えたり、画像と画像の間に、フェードイン・アウトを加えるなど、短い時間の中で、細かいこだわりを入れていくことが、楽しみつつですが、大変ではありました。 (ゆうみ)」と話してくださいました。このお話しからも、イラスト担当と映像編集の方が一蓮托生であることが分かります。美しいイラストがあったとしても、それをどのように視聴者の方に伝えるのかということは、映像の作り方に関わってきます。そこで今回おそらく重要になってくるのが、前のセクションで触れた、「フェードイン、フェードアウト」なのでしょう。
私は映像が見えないので、どのように映像が切り替わっていくのかということを作品を見ながら確認することは出来ません。しかし、そのようなこだわりがあることを知ると、原作者としても、シーンの切り替えを目で見ても分かるようになるということは、物語が可視化できるようで面白いと感じています。


4 『命の音色』の編集について

ゆうみさんには、このドラマの主題歌である『命の音色』の編集にも関わっていただきました。どんなことにこだわって編集したのか、ゆうみさんは次のように話しています。

「作曲者や音ちゃんの思いを、音源でしっかり表現したいと思ったので、全体的に、ズレをなくして一体感を持たせることや、この曲は歌の強弱によって、曲に込められた心境が表現されている曲だったので、各パート・部分ごとに音量バランスには、特にこだわって、リモート合唱・音源でも、歌に込められた想いがしっかり伝わるように、意識しました。 (ゆうみ)」

ここで重要なのは、一体感ということと、音の強弱で心境が表現されるということです。
第4号の記事で言及したように、『命の音色』のポジションとは、音ちゃんが生前かなえられなかった約束をみんなでかなえるための曲というものです。つまり、「みんなで一緒に歌う」ことが求められます。そこで重要になってくるのが、リモート合唱ではなかなか難しいと思われる一体感を出すことです。実際、『命の音色』は、歌い手さんたちの歌のテンポや大きさが合わせられていて、対面の合唱にも劣らない息ぴったりなものになりました。たとえ離れた場所にいても、こんな息ぴったりな合唱ができたと思わせてくれると同時に、音ちゃんがかなえたかった約束の意味をきちんと音として感じることができます。
そしてもう一つの強弱についても、特に『命の音色』の作曲者である和音さんにお話を伺った記事の中で詳しく述べられています。この歌には、音ちゃんの揺れ動く心情や、音楽に対する葛藤というものも詳細に描かれ、心境の変化が一つ一つの音に表されています。そんな細かい曲のしかけは、こんなふうに編集にも生かされているのです。そんな編集をしてくださったゆうみさんが、ある意味約束の実際の指揮者の一人かもしれませんね。


5 リモート合唱で大変な事とは

ゆうみさんは、実はリモート合唱の編集について、『命の音色』以外にも経験があるそうで、今回も歌い手さんたちに録音をしていただくときから、いろんな方法を提示してくださいました。そこで、ゆうみさんに、リモート合唱の大変な事について、編集者の立場や実際に歌う立場も踏まえて振り返っていただきました。

「リモート合唱では、各自の歌のスキルも、もちろん必要ですが、それ以上に収録環境に左右されやすい難しさがあるかなと思います。
例えば、上記で触れた、歌う際の強弱も歌う時に本人が意識して、ある程度できていたとしても、収録する時のマイクとの距離でそれが表現できなかったりします。また、リモート合唱では基本的にピアノ伴奏をイヤホンで聴きながら歌うので、ほとんどは自然と合わせられるのですが、どうしても細かいズレは生じてしまいます。
そして、編集が必要なことと、合唱は複数人で歌って、ハーモニーを共有できますが、歌うときは一人なので、同じ空間を共有できない・寂しさの中で歌うことが難しいところかなと思います。 (ゆうみ)」

収録環境に左右されやすいということに関しては、必ずしも収録する際の周りの音声環境だけを指すのではありません。これは、いくつかの記事でも触れましたが、収録する際に使用するアプリやイヤフォンなどの状況によっても、音質や周波数、マイクへの声の広い具合というのは変わってしまいます。このような環境要因は個人でなんとかするには限界がある場合も多く、本当に息ぴったりの合唱を、編集さんの手を休ませるようにしたいなら、使用するアプリや音声環境に指定を入れるしかありませんが、何十人もの団体でそれをやるには無理がある場合もあります。一口に音声環境といってもいろいろ考えなければいけないことが多いということをゆうみさんは伝えているのです。
さらに、合唱ならではの魅力である、同じ空気感を共有してみんなで一緒にうたうことができない孤独感や寂しさについてもゆうみさんには触れていただきました。これは、歌い手として参加した私も常々感じていたことで、伴奏の音だけが背中を押してくれます。しかし、だからこそ完成したときの感動にはすごい力があって、孤独感を乗り越えた先にある大きなハーモニーの渦に包まれたとき、初めて達成感が心の中に芽吹くのです。


6 この作品の聞きどころ

ここまでいろいろとゆうみさんにお話しを伺ってきましたが、例によって、作品の好きなシーンについても聞いてみました。二つあるそうなので、一つずつご紹介します。

「… 一つが、聯と夏樹のホットチョコレートのシーンです。
ホットチョコレートで和むというのもあるんですが、音楽への向き合い方に悩む夏樹の気持ちと、聯の「音を楽しめばいいんだよ」という言葉が、自分自身ともすごく重なり、共感できる部分でもあるからです。私も高校生の時から、軽音楽部などの部活で、音楽をやってきた経緯があるのですが、
人よりもできない、担当から外される…など、ステージに立ちたいという思いだけが先走り、なぜ自分だけできないのか…と思い悩み、音を楽しむことを忘れかけていました。
だからこそ、私自身も聯の言葉・.セリフに助けられました。 (ゆうみ)」

このシーンは、バレンタインを予感させるような、少し恋愛の入り口を感じさせるシーンであると同時に、音楽に関する議論が展開されるシーンでもあります。
この作品に出てくる主要な人物たちは、音大の附属高校に行ったり、音楽に愛された天性の持ち主ともてはやされたりするなど、比較的クラシックに造詣の深い人たちが多いような印象かもしれません。しかし、このシーンでは、クラシックではなく、軽音楽がクローズアップされます。音楽というものには様々なジャンルがあって、それによって向き合い方も変わってきます。それに葛藤する夏樹の心情が色濃く表れているとともに、それでも普遍的なのは音を楽しむことなんだと語る聯の思いが重なる場面なのです。ゆうみさん自身も軽音楽をやっているそうで、このシーンは自分を見つめ直すきっかけとなるシーンだったようです。そんなふうに誰かの心を温める存在としてのホットチョコレートはいい仕事をしていますね(笑)。
では、もう一つのシーンはどこでしょうか。

「音ちゃんと拓人先生が再会し、仲間が集まり、音ちゃんの目の前で約束を叶える…
とても素敵なシーンで、これは単純に好き!という気持ちです。( ゆうみ)」

このシーンは多くの方から反響をいただいたシーンであり、全てが完結していくシーンでもあります。しかしそれと同時に、先生の気持ちの変化と、それに驚く音ちゃんの対比が印象的なシーンでもあり、そこも注目していただきたいなと原作者としては思っていたりします。


7 ラジオドラマ企画に携わって思ったこと

最後に、比較的新しいメンバーとしてこの企画に関わってくださっているゆうみさんに、この企画に関わって思ったことを語っていただきました。将来が楽しみになるコメントですので、最後までお読みください。

「監督のげんさん率いるラジオドラマのチームは、雰囲気がとても良くて。
私にとっては直接会ったことのない人も多いのですが、そんなこと関係なく、時にはお腹が痛いくらい笑い合いながら、楽しく参加できるところが好きです!
もともと、写真や動画の編集作業は好きな方だったのですが、コロナ禍になり、本格的に編集作業に没頭できるようになり、ラジオドラマへ参加した最初は、演技することがやりたかったのですが、こうして編集作業を担当させてもらっているのも、とても嬉しい限りです。
でも、やっぱり演技もやりたくて…これまでの2作品は、悔しい2作品でもあるので、今後は、色々なジャンルのラジオドラマで、様々な役を演じる、1人で欲張りかもしれませんが、特定のものをというよりは、幅広い多くの作品を演じて、編集して、作っていきたいです。 (ゆうみ)」


8 おわりに

7号にわたって連載してきた記事も、とうとう終了となりました。記事を全て読んでいただいた方、一つでも読んでいただいた方、そして『音ちゃん』を見てくださったみなさん、ありがとうございました。何よりも、この連載企画に執筆者協力者として関わってくださった、『音ちゃん』運営チームの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。
と、こんな名残惜しいコメントを書いてしまいましたが、これで終わりではありません。今後は、『音ちゃん』を公開しているげんラジチャンネルにて、『音ちゃん』の製作に関する声での対談をお送りします。しつこい!と思われるかもしれませんが、今までの連載記事では触れられていないことも語られるかもしれないので、ぜひお楽しみになさってください。
そして、私個人としては、この『音ちゃん』のノベライズバンを執筆する予定です。こちらの完成もいつになるかは分かりませんが、ぜひご期待いただけるとうれしいです。きちんと、無邪気な頃にピアノの前で約束を交わしたあの3人のように、指切りをしてもかまいませんよ(笑)。

それでは、きょうはこの辺で。いい夢見てね。


本記事の執筆協力者:ゆうみ
Twitter:@yuumi_0517

『音ちゃん』をご覧になっていない方はこちら:
https://youtu.be/NiT7dBL7vII

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