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ギターの内部配線材を40種類試した話

はじめに

この記事は2023年5月にGarrett Audioさんで販売していた主にビンテージの配線材を40種類購入して試した際のレポートです。

リストは以下の通り。型番は当時のGarrett Audioさんのものです。
このほかにもいくつか試していますがそれは省略。

配線材テストリスト

有料記事部分は特に私が気に入った線材を数種類紹介していますが、既に入手困難になっているものもあると思いますし、記事としてのボリュームもありませんので、記事全体を気に入った場合の投げ銭とお考えください。

配線材で音は変わる

改めて書きますが、ギターの配線材で音は変わります。特にオールド配線材はレンジが狭く、ミドルに寄ったサウンドになります。
また、配線材は長いほどその特徴が出るので、影響を少なくしたければ短くする、といったアプローチも可能です。
コンデンサやハンダよりも大きく音質が変化するので、ギターのサウンドメイクのスパイスとして楽しめます。

いかに音をこもらせるか

レンジの広いクリアではっきりした音色を好む人も多いですが、ピュアオーディオと違って、エレクトリックギターは音をどこでどういう風にこもらせるかというのがポイントだと思います。

例えば良質なビンテージギターは普通に弾くと少し引っ込んだこもった音であることが多いのですが、プレイヤーとしてはこれを少しでもカバーするために自然とピッキングが強く速くなります。この強く早く弾くのが大事で、ギターには強く弾いた時に滲み出てくる美味しい成分があります。
ハイがキンキンしているギターでは耳が痛くて同じ弾き方はできません。少しこもった音だからこそ思い切り弾ける訳です。
ビンテージを弾きこんできた人にハードピッカーが多いのはこういう理由かもしれません。

もちろんピックアップの巻き数を増やしたり減らしたりすることで中低域の量をコントロールしたり、抵抗やコンデンサを使ってハイパスフィルターやローパスフィルターを作ることでも音をこもらせることは可能です。
トーンやボリュームを少し絞った音が好きだと言う方の中にはこうした旨み成分の存在を知っている方も多いのでしょう。
また、弾き手側がその成分欲しさに強いピッキングを重ねることでギター側もそういう振動、鳴り方に馴染んでいく。ギター自体が鳴るように育っていくような所も少なからずあるような気がします。

音を劣化させる、こもらせるいくつかあるアプローチのうち、最も計算しにくく意外な変化をするのが配線材やポット、スイッチ、ハンダ等による音質劣化です。他の要素でしっかり追い込んだ上で、最後に配線材をひと振りのスパイスとして使う、ぐらいがちょうどいいんじゃないでしょうか。

気が遠くなるボリューム

テスト環境

ギターはアッシュボディとメイプルネックのテレキャスター。ピックアップはリアのみで比較しました。ボリュームとトーンはレバースイッチでバイパスできるようにしており、ピックアップからスイッチ、スイッチからジャックといった形でほぼ直結の状態で確認しています。ピックアップはRetrotoneのTL-55 "Pain King"、レバースイッチはCRLの3way、ジャックはSwitchcraftのステレオジャックです。
シールドはCANARE GS6。アンプはフェンダーの'57 Custom Champ、8インチ一発のハンドワイヤードのスモールアンプです。

内部の配線はレバースイッチからジャックまでのHot線一本のみを交換します。あらゆる箇所を全て変えて試すのは大変ですし、音の出口に近い方が配線材の違いが分かりやすいです。
線材の長さは1m。メートル単位で販売されているためそのまま使うのが便利です。

まずはボリュームとトーンをスルーさせてサウンドチェック。これが完了したら次はボリュームとトーンを噛ませてもう一周するという果てしない物語になります。
どこの帯域がマスキングされ、どこが出てくるのかを確認するために、強めにピッキングして確かめるのが弾き方のポイントです。

音の記録と記憶の仕方

これは非常に疲れる作業です。利きビールとかやったことがある方もいると思いますが、集中して聞き分けようとしてもすぐに耳が慣れます。1周目で感じた違いが2周目では脳内で補正されて感じ取れなくなります。適度に耳をリセットさせながら評価を進める必要があります。

いくつも試す上で大切なのは言語化して記録することです。音の印象は言語化しないとすぐに忘れてしまいます。
例えばオヤイデ電気さんの内部配線材特集では
・ウォーム⇔ブライト
・タイト⇔ワイドレンジ
の2軸で評価されていました。

私が言語化する際の語彙は、
・第一印象(暖かい、冷たい、古い、新しい)
・質感(ぼんやり、じんわり、しっとり、くっきり、サラっと、ザラっと、マット)
・EQバランス(すっきり、どっしり)
・性格(グイグイくる、元気、サバサバ、おくゆかしい、おとなしい)
・その他(鼻声、ヒステリック)

といったもの。
「冷房の聴いた古い喫茶店」とか「じめっとした夏の日の屋上」とか「ハワイ」とか「ギリシャ」とか場所や環境の雰囲気に例えて覚えたり、食事や色など味覚や視覚に変換したりすることもあります。

あるいはもっとシンプルに人の声に変換して覚えるのも良いと思います。我々は日常的に身近な人たちの声をコレクションしていて聴き分けることができるので、音質比較とも相性が良いかもしれません。

トラブルを避けたいなら撚り線

ビンテージの線材には単線が多いのですが、ギターによくある「ポットやジャックが緩んでグラグラする症状からの断線リスク」が高いのは圧倒的に単線の方です。内部配線をこだわりの単線で統一するのはいたずらに断線リスクを高めることにも繋がるので注意しましょう。

全体評

LENZ

あまりメーカーの音というのを感じません。ワイヤーによって個性が異なり、あるワイヤーは砂のような質感、あるワイヤーは特定の弦が綺麗に鳴るといった状況。私の評価は5種類中2つは当たり。1つがまあまあ。2つはハズレでした。見かけたらとりあえず買って試すぐらいの気持ちで付き合うと良いかもしれません。

Western Electric

WE単線の音はどれも個性が似てる気がします。6弦から1弦までバランス良く出力してくれて音が速い。痛い所は削りつつ前に出てくる。明るさ暗さや滲み方に差はあってもそんなにハズレはなく、メートル単価も500円ぐらいでコスパも悪くありません。

気に入った7種類のうち4本がWEでした。選に漏れたものも含めてWEの単線はギターの内部配線として優秀だと思います。私が好きなのは単線なのに撚り線みたいなニュアンスのものが多かったです。ちなみに値段と音の好みには全く相関がありません。

Gavitt

メーカーの傾向として高域から低域までバランス良く出て音の立ち上がりも速く、分離感もあります。どちらかというと現代的で、グイグイと前に出てくるキャラクターです。

Belden

30118は結構よかったです。やさしい中にジューシーさもある。残りの2本は中庸というか、あまり印象に残らない音。私がビンテージワイヤーに求めているものとは少し違いました。

PHALO

うーん、残念ながらPHALOは好みではなかったです。マットすぎるというか、悪い意味でハイが落ちすぎているし低域も弱すぎる。試した3種は全て似ている気がします。

Anaconda

結構良いです。低音もそれなりに出るし、キラッとした所もある。ジューシーさもかなり感じる。弾きやすい。

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