[Episode.35] 新レーベル 「GYROTRAX」 始動
SUBJECT RECORDSの2nd CD「ORIENTAL FUNK」を制作中の段階で、今後の自分のテクノの活動形態をおぼろげながら考えていた。
いくつもの海外のレーベルからハードミニマル/ハードテクノ作品をリリースをされているマリオさんに刺激を受け、いずれまたアナログ盤を制作して、DJユースのトラックをどんどんリリースしていきたいなぁ、という思いが募ってきた。
そんな中、マリオさんと僕で海外志向のレーベルを立ち上げようという話になった。
「ORIENTAL FUNK」のCDが完成して、まだリリースされる前のタイミングだったため、「ORIENTAL FUNK」のプロモーションを進めつつも、並行して新しいレーベルの立ち上げの準備を始めていった。
まず最初にレーベル名を決めることにした。いつもながら、自分の手持ちのノートに気になるワードを書き出していって、あーでもない、こーでもないを繰り返しながら候補を絞っていった。
最終的に絞り込まれたワードとして「SAVAGE」「GEAR」「GYRO」の3つがあって、それぞれのワードの前後に別のワードを組み合わせた造語を考えることにした。
「SAVAGE+GEAR = SAVAGEAR(野蛮な装置)」
「GYRO+TANK = GYROTANK(回転戦車)」
みたいな最終候補があったが、最終的には「GYROTRAX」となった。
次にレーベルコンセプト。SUBJECT RECORDSのようなオチャラケた感じは一切無しのシリアスなモードで臨むこととなった。
SUBJECT RECORDSと決定的に違ったのは、メディアへの宣伝/プロモーションを最小限にして「音だけで勝負する」というスタイルである。これはマリオさんのこだわりであり、SUBJECTのやり方が染みついていた僕にとっては、これまでと真逆の方向性に少し戸惑いもした。
儲けにもこだわらず、とにかく自分たちの音を最高のコンディションでリリースするということだけを念頭に置いて、結果は後からついてくることを信じた。
参考までに、レーベル発足前にマリオさんから受け取ったGYROTRAXのレーベルコンセプトに関するFAXを掲載しておこう。
【写真:GYROTRAXのレーベルコンセプト】
レーベルコンセプトにも書かれている通り、リリース形態は「12インチシングル」のみとした。
また、12インチの制作から流通に関しても、最高のコンディションでリリースするために、世界のトップクラスのテクノレーベルと同等の制作・流通形態を取ることにした。
まずは、音のキモになるべく12インチのカッティング。これはイギリスの「The Exchange」の「Nilz」というカッティングエンジニアに依頼することにした。
Nilz(Nilesh Patel)は、当時のテクノシーンではトップクラスのカッティングエンジニアであり、こちらのページにある通り、それはもう数えきれないほどの有名テクノアーチストの12インチをカッティングした伝説のエンジニアである。
【Nilz(Nilesh Patel)】
https://www.discogs.com/ja/artist/386598-Nilesh-Patel
もし、90年代の欧州産のハードテクノ、ハードミニマルの12インチをお持ちの方は、ぜひ盤面の内側を見てみて欲しい。「NILZ - THE EXCHANGE」という文字が刻まれていたら、それはNilzがカッティングした12インチである。
Nilzにカッティングしてもらった12インチの原盤を「COPS」という会社に送ってプレスを行ってもらい、プレスされて出来上がった12インチを「Prime Distribution」に委託してディストリビューションをしてもらうことにした。
「Prime Distribution」は、当時はDrumcodeやRotationやSativae Recordings、SUBHEAD等の名だたるテクノレーベルのディストリビューションを行っており、トップクラスのワールドワイドディストリビューターであった。
こうして「Nilz」「COPS」「Prime Distribution」という、海外のトップレーベルと遜色のない制作・流通形態を選択したGYROTRAXは、1998年の4月からレーベル活動を開始することになる。
今回はSUBJECT RECORDSの創成期の話のため、GYROTRAXについてこれ以上書くことは控えるが、1998年から2000年までに8作品をリリースし、それなりの成果は出することができたと思う。
【写真:GYROTRAXのロゴ候補】
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