見出し画像

[Episode.29] ハードミニマルへの傾倒とMario Tanaka

1995年~1996年あたりから、140BPMを超えるハイスピードで半小節や1小節の強烈なフレーズを繰り返し奏でる「ハードミニマル」なるジャンルが、急速な勢いを持って国内に浸透していった。

当時のハードミニマルの第一人者と言えば、100人中101人が「Jeff Mills」の名を挙げるであろう。

Jeff Millsの楽曲としては、1992年にTresorからリリースされた「Waveform Transmission Vol.1(名曲『Changes Of Life』収録!!)」、1993年に自身のレーベルAxisからリリースされた「Millsart ‎– Mecca EP(名曲『Step To Enchantment (Stringent)』収録!!)」1994年にTresorからリリースされた「Waveform Transmission Vol.3」など、既に1992年から屈指のハードミニマルトラックを量産していた。

【Jeff Mills - Changes of Life】
https://www.youtube.com/watch?v=0tFBH_BWibg

【Millsart - Step To Enchantment (Stringent)】
https://www.youtube.com/watch?v=hQOd9bfaeko

Jeff Millsの知名度が爆発的に拡がったのは、おそらく1995年に初来日した時のDJプレイであろう。

僕は当然ながら聴けなかったが、当時の記録をネットで調べてみると、「ウィザード(魔法使い)」として、一瞬でピッチを合わせて次々とレコードを切り替え、千手観音が降臨したかのように2本の手が1000本にも見える高速フェーダー捌き・・・。

これまでのテクノDJの概念をぶっ壊すスタイルが国内テクノシーンに与えた影響は絶大なるもので、この初来日時のプレイや、1996年に国内版がリリースされたミックスCD「Mix-Up Vol.2」を聴いて衝撃を受けた若者は多かったはずだ。

【Jeff Mills - Mix-Up Vol. 2 - Live Mix At Liquid Room, Tokyo】
https://www.youtube.com/watch?v=C6gl9ngTHc8

もちろん、僕も大きな衝撃を受けた。

メディアがJeff Millsを哲学者のような扱いで神格化している面もあり、常人とはかけ離れた世界にいる「レーーーヴェルが違うアーチスト」のように思え、一時期はJeff Millsの楽曲ばかり聴いていた。

Surgeon、Regis、Adam Beyer、Luke Slater、JB3(Joey Beltram)、 Steve Bicknell、The Advent、Damon Wild・・・等々、挙げ出すとキリが無いが、素晴らしいハードミニマルトラックを輩出するアーチストが沢山出てきた中でも、なぜかJeff Millsだけは僕の中では特別な位置にいた・・・。

【写真:当時よく聴いたハードミニマル12インチの一部】

画像1

Jeff Millsやその他の素晴らしいアーチスト達のハードミニマルトラックを浴びていくうちに、徐々に僕の志向もハードミニマルに吸い寄せられるように傾いていった。

これまでは、アンビエントもトリップホップもデトロイトテクノもドラムンベースもひとくくりに「テクノ」として様々なサウンドを聴いていたが、1997年に聴いていたのはハードミニマル一色だったような気がする。

聴いているサウンドに変化があると、僕自身の制作するサウンドにももちろん変化が現れ、ハードミニマルの楽曲制作に取り組むようになった。

1996年までのSUBJECT RECORDSは、テクノレーベルとは言いつつも純テクノなサウンドではなく、ughさんやFranzさんのような独自のサウンド観を持った楽曲をリリースするなど、ひとえに「テクノ」では括れない雑多なサウンドレーベルという印象であったであろう。

ハードミニマルの洗礼を浴びてからは、純テクノなサウンドに傾倒していったこともあり、SUBEJCT RECORDSの周囲のメンバーともサウンド志向のズレも出始めた・・・。

明確に何か衝突やいざこざがあったわけではないが、何とな~くズレていっているという感覚を抱き始めた、という感じである。

そんな時期に1本のデモテープが僕の自宅に届いた。

そのデモテープを聴き始めてすぐに、僕はひっくり返りそうになった。
「何? このクオリティ? めっちゃかっこええハードミニマルやん!」

数曲録音されていた楽曲は、どれも驚くほどクオリティが高い。
僕が作るようなゴチャゴチャした感じは無く、音数は少ないのに恐ろしい程のグルーヴがあって、海外でリリースされるレコードにあってもおかしくないくらいの素晴らしい楽曲ばかりであった。

デモテープを聞いた僕は即決した。「SUBJECT RECORDSの次のリリースは、ハードテクノ/ハードミニマルにフォーカスした作品や!!」

早速、僕はデモテープの送り主に手紙をしたためてこちらからコンタクトを取った。

デモテープの送り主は京都在住の「タナカ マリオ」さんという方であった。(以下、マリオさんと称す。マリオというのは本名です。)

ちなみに後付けで知った話ではあるが、マリオさんは「PHOZON」で連合を組んだTOY LABELから1995年にリリースされた初期オムニバスカセット「Through?」に「Sandwich Man(サンドウィッチマン)」名義で楽曲を提供しており、TOY LABELの初主宰イベントに本名でライブ出演したり、同じ京都在住のAsohgiさんの家に遊びに行ったりしていたそうだ。

以降、しばらくマリオさんとは新曲のデモテープを送ってもらうなどのやり取りを続け、僕はSUBJECT RECORDSの次の作品の構想を徐々に形作っていったのである。

【Mario Tanaka - Straight-Flash】
https://www.youtube.com/watch?v=zjS3gayZ_uI


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?