[Episode.26] 1st CD 「Music For Strange Lovers」(後編)
そんなこんなで素晴らしい楽曲が集まってきて、CDのプレスのマスターとなるディスクの作成をサブジェクトオールスターズ(Love❤Kitchen+ughさん+Franzさん)が集まってQKレコードで行うこととなった。
夏の暑い時期だったと思うが、QKレコード縄文人スタジオにみんな集まって、汗をかきながらワイワイとマスタリング作業を進めていった。
この時に印象的だったのは、Locoの「Monsoon」のマスタリングであった。
「Monsoon」は、Franzさんが一度僕の家に来てベースとなるパーツを打ち込まれて、「あとは任せた」と言って最終的な仕上げは僕1人で行うことになった。
最初は「Human Dignity」という曲名にしていたが、最終的な仕上がりを聴いたFranzさんが曲名を「Monsoon」にしたいとの意見があったために「Monsoon」とした。
「Monsoon」のマスタリングであるが、それまで結構ワイワイとやっていたメンバーが、この「Monsoon」のマスタリングの時だけは、みんな聴き入るように静かに作業が進んでいた。
(たまたまみんな疲れていただけなのかもしれないが、僕はみんな「Monsoon」に聴き入っていたと思い込んでいる・・・。)
【Loco - Monsoon】
https://fantas-tech-records.bandcamp.com/track/monsoon
※ あと、これは今となっては本当かどうかわからないが、当時の手元メモにはこの「Monsoon」をライブで披露した時に感動してフロアで泣いていた女の子がいたらしい。
【写真:Locoの「Monsoon」のパート展開表。さしずめAbleton Liveのアレンジメントビューである。】
【写真:Locoの「Monsoon」ライブ時のセッティング手元メモ】
こうしてマスターディスクが仕上がり、いよいよSUBJECT RECORDSの初となるCDリリースに向けて、QKレコードにプレス作業を発注した。
1st LP「Love Sonic Strategy 4」の時は、アートワークに関しては全くノウハウが無かったのであるが、このCDを制作する頃にはvinylmanがしっかりデザイン関連の技術を身に付け、ジャケットについてはvinylworks(vinylman + Mizki Ito)に依頼することにした。
とびっきりロマンティックなイメージにしたく、僕の手元のノートには「夕暮れ時の須磨海岸で、おもむろのターンテーブルやレコードやシンセが散乱している砂浜で男女が抱き合っている」という妄想絵コンテが描かれていたが、理由は忘れたがボツになっていた・・・。
【写真:ジャケット絵コンテ】
最終的には、カワイイ路線としてキューピー人形をあしらったジャケットとなった。
【写真:Music For Strange Loversのジャケット】
アルバムタイトルは企画段階では「Music For World Lovers・・・」としていたが、あまりにも綺麗過ぎてサウンドとのギャップがあるとの周囲からの指摘があり、「Music For Strange Lovers」に変更した。
あとは、若さゆえのオチャラケノリを出してしまって、CDの盤面にありもしないキャンペーン企画(当時、Sonyがテクノキャンペーンをやっていたので、そのパロディーみたいなもの)を書いてみたり、「SUBJECT社則」や「ことば」なるくだらないネタ集を書いてみたり、CDショップに並んだ時に人目を惹こうとして、背ラベルの部分に「第1種 テクノ検定対策CD」と書いてみたり・・・、僕のアイデアで好き放題に作らせてもらった。
このオフザケは僕が若干暴走した感じで賛否両論があったのだが、どうしても人目を惹きたかったゆえに、やりたいことを全部盛り込んで完成品を作り上げた。
※ このオフザケが、とある方の逆鱗に触れたというエピソードは、この後のEpisode.28を参照。
また、1st LP「Love Sonic Strategy 4」の時は流通経路(販売経路)にも全くノウハウが無かったが、今回のCDリリースにあたっては「Oui Distribution」というディストリビュータに委託して全国流通を行っていただくこととなった。(「Oui Distribution」については、次のエピソードであるEpisode.27を参照。)
そして、1996年の年末にSUBJECT RECORDS初のCD「Music For Strange Lovers」の完成品が届いた。
リリース枚数は500枚。製作費は30数万円かけて、そのほとんどは僕が貯金と奨学金(!)から出したのであるが、dj yuki、ughさん、Jet Set Ishizakaさん、あとなぜか僕の母親からも一部カンパをしていただいた。
ちなみに、1990年代の後半は日本の音楽史上で最もCDが売れていた時期である。
https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RYB99J01.pdf
https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html
こんな時期に神戸の片田舎で学生が始めたレーベルがCDを作ったということもあり、「テクノ」というジャンルを全く知らない友人やバイト先の社員さんや親族も興味を持ってくださって、ありがたいことに手売りだけでもそれなりの枚数が売れたのである。(皆さまに感謝感謝)
プロモーション用に用意したCDも、クラブ系のサウンドが掲載されている雑誌(ele-king、remix、LOUD、GROOVE、サンレコ、KBスペシャル、タワレコbounce、ジャングルライフ等)に片っ端から送ったり、当時聴いていたラジオ番組(誠のサイキック青年団や、globeがやっていたFM番組)に送ったり・・・、とにかくSUBJECT RECORDSの認知度を上げるためにプロモCDを配りまくった。
おかげさまで、黒字とまではいかなかったが、前作のような大惨事にはならず、次の作品のリリースができる程度の売上が上がったことにより、SUBJECT RECORDSは存続の道を確保されることとなった。
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