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古代ギリシャの占星術と古典占星術は同じですか? こんなに違ったアスペクトの考え方

完全マスター予測占星術」読者向けボーナスコンテンツ掲載Q&Aのひとつを一部改変して掲載します。

質問:古代ギリシャの占星術と古典占星術は同じですか? (中略)現代占星術と古典占星術の違いや、先生方によって言うことが異なり面白いと思うこともありますが、迷うことも多いです。

ボーナスコンテンツQ.8から

自分は便宜的にヘレニズム期から17世紀までを「古典占星術」、それよりも前を「古代占星術」、18世紀以降から現代を「近代占星術」と分けています。
そして「古典占星術」と一括りにしていますが、これも異なる時代と場所、つまりヘレニズム(古代ギリシャ)、ローマ、ペルシャ、アラビア、ルネサンス(欧州)でバージョンアップを繰り返しており、解釈やルールが細部で異なります。
ですから、占星術の講師がどの時代の誰の説を重視するか(あるいは誰の説が好きか、誰の本をよく読んでいるか)で、伝える内容は異なります。

さて、ご質問の件。
古いギリシャの占星術と、後にメジャーとなっていく古典占星術は同じではありません。ここでいうメジャーな古典占星術とは、1世紀のマニリウス以降、または2世紀のプトレマイオスやヴァレンス以降の占星術を指しています。
興味深い事例をひとつ紹介しましょう。

こんなに違ったアスペクトの考え方

紀元前110〜40年頃に活躍した天文学者ゲミノスは、天文学を目指す学徒向けに全18章からなる「天文学序説(ファイノメナ)」を著しました。当時、バビロニアとエジプトから伝えられた占星術は、ある程度までギリシャ式に体系化されていたと考えられます。そして天文学者ゲミノスは第二章でアスペクトの解説をしています。以下はその抜粋です。

II 5 オポジションのサイン同士は、カルデア人 [*1]によれば出生図内のシンパシー(共鳴)と関連するとされている。

II 5 Signs in opposition are considered by the Chaldeans in connection with sympathies in nativities.

Geminos's Introduction Phenomena 第二章 黄道サインとアスペクト(II. [Aspects of the Zodiacal Signs])p.125

II13 シンパシー(共鳴) [*2]はオポジション、トライン、スクウェアの3つで発生する。それ以外で共鳴はしない。とはいえ、論理的には最も近い位置にあるサインからの共鳴はあるべきだろう。各星の固有の力から生じる流出や発散は、何よりも近隣のサインを彩り、混ざり合うはずだからだ。

II13 Sympathies arise in three ways : in opposition, trine, and quartile: in any other separation there is no sympathy. And yet it would be logical that there be sympathies from the signs lying closest together; for the outpouring or emanation proceeding from the peculiar power of each star should most of all color and mix with the neighboring signs.

同上 p.129

※1 カルデア人
当時、バビロニアの天文学者/占星学者を「カルデアの人々」と呼んでいたらしい。
※2 シンパシー(共鳴)について英訳版の脚注
sympathies。ギリシャの音楽理論で、共鳴によって共に振動する弦楽器に使われた。ギリシャ占星術では、シンパシーとは一時的な関係とは分けて、深く変わらぬ友情のこと。[同上 p.125]

ゲミノスと後の違い

オポジションは共鳴をもたらす(後に対立へと変わる)
アスペクトはオポジション、トライン、スクウェアのみ(セクスタイルの不在)
隣り合うサインも共鳴するはず(古典占星術ではアバージョン)

天文現象をどの様に解釈するかは、何を前提にするかで変化するのでしょう。こうした事例では、占星術的解釈が言語の様に変化してきたことが想像できますし、現代占星術と古典占星術の違いも、同様の変容の一形態であることが見えてきます。ゲミノスはアスペクトに含めていませんが、論理的には隣り合うサインは共鳴するはずと述べています。これは現代占星術で採用するセミセクスタイル(30°)ですから、彼なら「サインが隣り合っているのなら、セミセクスタイルも理屈どおりアスペクトだよ」と言うかも知れません。もっとも、ゲミノスが占星術的解釈を残したからと言って、それが当時の共通見解であったかは別問題です。それでも「ファイノメナ」には、当時最新の天文学、蝕を含む太陽や月の運動、恒星の動き、惑星の動き、農耕や祭式で大切だったヒライアカル・ライジングの星表が解説されており、天文学理論と占星学理論が同等に扱われていたことが分かります。アスペクトの章には、他にも後世と異なる占星術的定義が書かれています。たとえば、ゲミノスはアスペクトのひとつに「シジギー、Syzygy(kata suzugian)」を挙げています。でも、それは後に古典占星術で使われる「生まれる直前の新月/満月」ではありません。むしろ後の「アンティシャ(antiscia/antiskian)」に相当する考え方に似ています。

いずれにせよ、占星術は天に現れた現象を人が解釈、定義づけすることで発展しました。ですから勿論、時代や文化で変化します。そうであるなら、なんでもありでいいじゃないの?と考えるか、一定の方向性や前提に意味を置くべきと考えるかは各人に委ねられているのでしょう。

最後までありがとうございます。こんなニッチな内容がお好きでしたら、ぜひ「完全マスター予測占星術」をお読みください。退屈させません!

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