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グレートコンジャンクションを横浜から

第2回 占星術師のための観望会「大会合観望会横浜」

12月19日(土)「大会合観望会横浜」を開催しました。
星空ナビゲーターは川合慶一さん。
参加者は全員占星術関係者。そしてゲストに鏡リュウジさんを迎えての開催。

日の入りの16時半集合から解散する19時半までに、冬の天体観測の3つを体験しました。「待つ」「観る」「寒さ」です。ホロスコープ・チャートはアプリを開けばいつでも観られる現代ですが、実際の星に向き合うときは人が自然に合わせます。星が見えるまで待つ。晴れたら観る。そして耐寒装備。

待つ - 快晴予報は曇天、雨雲の出現

快晴で始まり、快晴で終わる天体観測は幸運です。
今回は曇天から始まり、開始時刻から1時間半を経過するまで全員「出待ち」状態。横浜大さん橋の空調の効いたホール内で待機。

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前日予報とは裏腹に、当日の昼から雲が広がりました。
北風の風速は6メートル。
夕方には南に消えて行くはず。
SCW(https://supercweather.com/)の予測も同様。
念のため川合さんに連絡をとると同じご意見。
遅くとも17時には晴れる。そう読んでいました。
ところが1時間経っても晴れません。変わらず上空には太い雨雲状が停滞しています。
北から東の空は見えています。ベガと北極星も見える。でも肝心な天頂と西空が不調。

「今晩は地上の風は南に吹いているのに、上空は風向きがちがうね」
と屋上で待機する川合さん。
確かに体に受けているのは北風なのに、天頂を覆う雲は西から東へと流れています。
すると川合さん、おもむろに機材設置を始められました。
「準備します?」と僕。
「こういう時は待つだけではダメなんですよ。こちらから空に観るぞってプレッシャーをかけないとね」飄々と答える川合さん。
(ああ、なんて面白いことを言う方だ)
実はその会話のすこし前。
鏡さんもこんなことを言っていた。
「僕の母はこんな時、自分が来たことを言葉に出して空に伝えるんですよ」
(なんか似てるぞ…)

川合さんの対空双眼鏡はふたつ。
一台は視野が広く明るいレンズ。もう一台は倍率が高く月の細部まで見えるタイプ。
双眼鏡を設置すると間もなく、本当に雲にところどころ穴が開き始めた。
そろそろ待機メンバーを呼びに戻ろうと思った時、みんな屋上に戻ってきました。

観る - 天頂の火星が輝いた時

屋上に全員が揃い10分程度、最初に雲間から姿を表したのは天頂に輝く火星でした。
第1回観望会の参加者さんが僕の隣でつぶやきます。
「火星が出てきたから、これから見えるね」
「確かに展開が似てますね」
初回の観望会開催(2020年10月)は大接近する火星観望が目的でした。
その時も開始時刻から1時間半。18時。半ば開催を諦めていた時、分厚い雲に覆われていた横浜の空に火星が姿を表したのです。

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雲の下で星を待つ面々 写真 yujijitan(@yujijitan

果たしてその通りに。
上空に停滞していた雨雲が、夜の気流と温度変化のなかで拡散し始めました。

今回の目標は木星と土星のコンジャンクション。
木星と土星は18時半には西の地平線に没してしまいます。
途切れ始めた雲ですが、西空には変わらず停滞した雲。
すると火星目撃から15分後、それまで覆っていた西側の雲がちぎれ、高度6度に輝く2つの星が姿を現しました。

「おおお!!」
沸き起こる歓声。

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曇天から星が現れた時の嬉しさは観望会の醍醐味のひとつです。
「さあ、それでは始めましょう」川合さんの少し高い声が響きました。
「まずは、沈んでしまう前に土星と木星をご覧にいれます」

双眼鏡を覗く面々から感嘆と喜びの声。「見えた!」「近い!」
高度5度まで下がり、やや赤みを帯びた両星が双眼鏡の中で輝いています。

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散ってゆく雲 写真 yujijitan(@yujijitan

「では、これからご覧いただくのは海王星です」
「星がこの様に3つ並んでいますから、真ん中にある星を見つけてください」川合流星空案内のスタート。

現在、魚座と水瓶座の中間にある8等星の海王星。
目立たない星を捉えるのはとても難しい。
川合さんは図を描いて、どの様に判別すればよいのかを教えてくれました。
じつは双眼鏡で観るのは僕も始めです。海王星に喜んでいたのは、やはり魚座の方。

海王星-接眼レンズ

双眼鏡で観る海王星イメージ (Stellarium)

川合さんの真骨頂は星を捉える速度にあります。
とにかく早い。
双眼鏡を向けると、ものの数秒でその星を捉えてしまうのです。
双眼鏡や望遠鏡は倍率が高くなるほど見える範囲が狭くなり、暗い目標天体を視野に入れるには経験と技術が必要です。早さの秘密を伺ったことがあります。
「なんでそんなに早く向けられるのですか?」
「頭のなかで位置関係を描いて、その場所に双眼鏡を合わせます」
「目では見ないんですか?」
「ぼくの肉眼では星は見えないんです」
驚きました。でも人の誕生日から、その時に見える惑星の場所が大体分かってしまう川合さんならではの方法です。

海王星の次は天王星。やはり画用紙の図解付き。これなら誰でも分かります。
6等星の姿は海王星よりも鋭く明瞭な光。
「おお!わが支配星!」なんて言ってる方もいました。みずがめ座の方ですね。

天王星-接眼レンズ

双眼鏡で観る天王星イメージ (Stellarium)

「では、この後火星を観て今宵見えている惑星を制覇しましょう。そのあとは恒星に移ります。それから見たい星がありましたら教えてください。ご覧にいれます」と川合さん。

そこからつづく案内は、おおよそ次のとおり。
火星
プレアデス星団(スバル)
アルタイル…リクエスト、わし座アルファ星
リゲル・ベテルギウス…オレンジと青、色の違いが美しい
ガーネットスター…赤い宝石の様な星
オリオン座M42星雲…星々が生まれる羽を広げる姿のガス星雲
琴座ダブル・スター(イプシロン星)

まるでテレビのチャンネルを切り替える様に次々と星を堪能しました。

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写真 yujijitan(@yujijitan

寒さ - だからこそ観られる輝き

実は天候よりも気がかりだったのは気温。
19日、18時の気温は7度。湿度38%。
ウィンタースポーツは体を動かしますが、天体観測の運動量はほぼゼロです。
そのため事前に防寒対策の告知を数回にわたり行いました。
冬の観望会未体験の方にとっては想像しにくいからです。各自対策を念入りにされてきたことで、観望中の寒さはある程度しのげたと思います。走るのは即効性があります。でも汗をかいてしまうと逆効果。スクワットやランジで体温を上げる方法もあります。それでも初めての寒空での観望は1時間程度が限度。
夏の空はそれはもう華やかで美しいのですが、冬ほどのシャープさはありません。大気の湿気で星像がぼんやり揺れます。今の時期、12月から3月まで、耐寒さえちゃんとしていればピシッ!キラッ!とした星々の輝きを観ることができます。

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すっかり晴れ渡った後半 写真 yujijitan(@yujijitan

結び

前半の曇天はありましたが、「待つ」「観る」「寒さ」観望会のすべてを体験。
やはり実際の姿、光を見なくては天体の霊妙さは分からないと思います。
でも、体験で感じたことを占星術に反映する方法やその後の展開は、参加された皆様それぞれにお任せするところ。それぞれの占星術に反映するまでが観望会。参加された方にとって種子の様な体験であったのなら、これほど嬉しいことはありません。

備考

対空双眼鏡
宮内光学工業製
NB100 対物レンズ有効径100mm 55倍率設定で使用
BR141 対物レンズ有効径141mm 25倍率設定で使用

川合さんの解説
メーカー自体がもうだいぶ前に表向き製造をやめてしまっているのですが(メンテナンスも取扱店二店のみに委託となっており工場が現在も操業しているか私にはわかりません)、この二台はそれより前に販売を終えてしまっています。その他の機種が新品で販売されていることも聞かないので、ことによれば本当に廃業してしまったのかもしれません。BR141は対物レンズの有効径が141mm、倍率は25倍(ほかに33倍と45倍がありますが特別の目的がない限り25倍で使います)、NB100は対物レンズの有効径が100mmで、いくつか倍率の異なる接眼鏡が作られたのですが19日は55倍にしました。ほかに40倍と、非常に見づらく精度もよくないのですが150倍にもできます。対物レンズの面積がちょうど倍違うのでBR141のほうが像が明るくて見やすいのですが、月を見るときにはまぶし過ぎることがあります。

写真提供
タイトル写真 Sちゃん(@S_CHAN_33)
記事内写真 yujijitan(@yujijitan

最後に無料オンライン・イベントの告知です。12月22日(火)
鏡リュウジさん、大橋マキさんナビゲート
「重なる木星と土星を眺めながら語る夕べ」
第一部にSUGARさん。第二部に宇宙物理学者の磯部洋明さん。第三部に石井ゆかりさん。第二部のゲストとして僕も声出演します。相模原のカナコー天文台から、木星と土星の映像中継があります。カナコー天文台は川合さんもよくお手伝いに行かれる天文台だそうです。

観望会に参加された方の感想・メッセージ

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