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4千人視聴YouTubeライブと占星術の未来

本稿の内容
1. YouTubeライブ配信と出会い
2. 初訪問ザッパラス社と占いコンテンツ
3. 占星術師の近未来について( 一部有料)

動画 "重なる木星と土星を眺めながら語る夕べ"(1月4日まで視聴可)

東京魔城と女神アテナ・パラス

その日、組織から指定された場所は高い地価で知られた街、東京の魔城(ミッドタウン)。ザッパラス-Zapallasの本拠地。その名前に戦いと技芸の女神アテナの別名「パラス」を冠している。Zapは活力、素早さ、ガッツを意味する名詞と共に「殺す、倒す」を表す動詞でもある。正義の下に戦う女神アテナ-パラスとの組み合わせは、進撃する破壊の女神をも想起させる名だ。

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組織の特定フロアに入るには特別な数字が要る。
登録者しか入れないセキュリティー・システムである。

キーを入力し社内フロアに入る。
とても広い。400畳はあるだろうか。
(天上が高ければミニサッカーができそう)

ところが、間仕切りの無いフリースペース制をとった広大な室内には人がいない。
ここ数ヶ月、社員はオンラインで仕事をしているそうだ。

「もったいない…。このスペース」
このご時世、こうしたオフィスが増えていると聞いてはいたが、ここまで広いと賃貸料や電気代が気になる。実に余計なお世話だが。

さて、その一画で撮影機材の間を動き回る人たちがいた。

その奥ではグリーンスクリーンの前でカメラリハーサル。
座っているのはMCの大橋マキさんと鏡リュウジさん。

僕とほぼ同時に入室したのは事前ZOOMミーティングでお会いした宇宙物理学者、磯部洋明博士だ。
SUGARさんは中にいらっしゃった。SUGARさんとは初対面となる。
「笑顔が大学生」という若々しい第一印象。
MCの大橋さんは小柄でチャーミングな方。
アロマをご専門とされ、三浦市で活動されている。
そして3度目の対面となる鏡リュウジさん。

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間もなくして事前の段取り打合せが始まる。
「ディレクターのナカヤマです」俳優の佐藤浩市似の男性が挨拶。

ひととおりの進行確認だけして、あっさりめで終わる打合せ。
短い。これは馴れてるな…と安心。
スタッフにカメラ、音声、リアルタイム編集、ヘアメイクさん。
ディレクターは前出のナカヤマさん。
とりまとめているのが、ザッパラスのハセガワさん。
ハセガワさんは僕のライブ講座に何度か参加して頂いている美大出身のザッパラス社員、URANAI ACADEMYのプロデューサーにあたる。

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定刻通り4時半から第1部の開始。
ところがトラブル。回線に問題が起きる。
同時視聴者数が多過ぎたらしい。
ほどなく再スタートするも、ナウシカで盛り上がるSUGARさんの持ち時間が予定よりも少なくなってしまう。ナウシカ考はもう少し深いところまで聞いてみたかった。

第二部。僕は声だけなので、ソデに用意された椅子に座る。
この日、朝から呪文の様にとなえていたのは「余計なことを言わない」だった。
プライベート講座では1、2時間喋りっぱなしだ。余計な話、脱線もある。その際に「これは言ったらマズい」という話が混ざることもある。だから失言の可能性に緊張した。
スラスラと心地よく対談される三人。袖から声出演の僕。
磯部博士の話は興味深く、江戸時代のオーロラについては三回も質問をした。

太陽がご専門の磯部博士には、お聞きしたいことがいくつかあった。
そのひとつが江戸時代のオーロラと、2012年の大フレア。
そして増える太陽の極について。

2012年7月の大フレアは天文ファンの間では有名。
もしフレアが地球側に向いていたら大災害の可能性もあった。
どれほどのものかをお聞きしたかった。
収録が終わったあと磯部博士をつかまえて、ややしつこく質問を繰り出す。

この時の解説が素晴らしかった。

専門性の高い内容にも関わらず、実に分かりやすく絵を描いて解説をしてくださった。

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特に多重極(太陽に複数の磁極が生まれる現象)。これまで読んだどの解説よりも分かりやすくスッキリした。
太陽面に現れる黒点が太陽活動を表すことは有名で、磁極と関係がある。僕は天文知識を入門書や雑誌NEWTONで仕入れるが、解説や図解を読んでもわからないことは多い。
やはりこうした話は実際に教えられている専門家に聞くのがいちばんだ。
宇宙物理学の大学講義を聴きに行きたいと思う瞬間だった。

第三部では石井ゆかりさん。風のサインの全てが何かをシェアしているというお話が印象深い。少し驚いたのは前半、バビロニアでの水瓶座の呼び名「GULA」に言及されたこと。かなりマニアックな情報だ。僕は「アストログラマー」と「ぐりとぐら」にかけているが、偉大な者を意味すると筑波大でバビロニアの天文日誌を研究されている三津間博士に教えてもらった。(石井さんヤバイな…)とひとりごちた。この日、磯部博士と三津間博士がオーロラ研究の論文で共同執筆をされていたことを伺った。僕にとってバビロニアの星学は特別な意味がある。また驚いた。バビロニアを軸に出会いが繋がった。

Earliest datable records of aurora-like phenomena in the astronomical diaries from Babylonia(バビロニア天文日誌オーロラ状現象記録に関する共同論文)

ライブでも話したが、占星術をテーマとするイベントで磯部博士の登壇は驚くべきことだった。大袈裟ではなく、アカデミックな場に籍を置く人が占い師と席を並べる機会は極めて少ない。考古学、心理学、宗教学、文化人類学であればその可能性は多少は高まる。だが天体現象に対し立場を違える宇宙物理学/天文学にとって、占星術は鬼門であり厄災であり、有る意味において過去の黒歴史でもある。日本でロケット工学の父と呼ばれた糸川博士が占星術を研究していたことは忘れ去られ、関係者は知っていても口をつぐむというのが僕の認識だった。過去に出会った学際的な場所、事業で天文/宇宙に関わる方達も、個人的に占星術に興味を示すことはあっても、絶対に公にはしない。ましてやこうした形で関われば同業者はもとより上席から何を言われるかも分からない。
「本当に大丈夫なんですか?」僕は磯部博士に尋ねた。
すると
「(占星術を)肯定する立場で話すわけじゃないので、別に大丈夫ですよ。まぁ、なにか言う人はいるかも知れないけど」
「(漢や!)」僕はかなりの衝撃で心を撃たれた。そして惚れた(そっちの意味ではない)。

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磯部博士自筆説明図

素晴らしい出会いを頂いたURANAI ACADEMYさん、ありがとうございました。こうしたイベントが可能になるのは、博識でアカデミックな世界の方達にもよく知られている鏡さんのMCあってのこと。ありがとうございます。そしておつかれさまでした。
カメラさん、リアルタイムの編集さん、ナカヤマさん、みんなにコーヒー"Great Conjunction"を振る舞ってくれたタカハシさん、どうもありがとうございました。

ザッパラスを訪問するのは今回が初めてだ。以下は今回をきっかけに考えたまとめ。想定読者はプロの占星術師。一般の方にとっては全く面白味のないことを初めにお断りしておく。最後半は有料とした。

ザッパラスと占いコンテンツ・プロバイダー、そして占いの盛衰

ITバブル真っ最中、NTTドコモがiモードで日本のコンテンツ支配を始めた当時、ザッパラスはその勢いに乗り2005年マザーズ上場、5年後の2009年に東京証券1部に指定変更された。配信コンテンツに占いを採用する企業は多いが、占いを主幹事業とした上場企業は世界でも希である。

馴染みの薄い方のために補足する。1990年代後半に出現した携帯電話サービス「iモード」は急激に利用者を伸ばし、2000年代、国内のインターネットコンテンツで利益を上げる必須プラットホームとなった。それだけに参入競争は激しく、NTTドコモ担当部署の元には何百というコンテンツ企画が毎日の様に持ち込まれたと言われている。非常に厳しい審査基準が設けられていたが、その中でも「占い」はトップレベルの利益を叩き出すジャンルだ。コンテンツが当たれば、数万〜数十万という登録ユーザーから月額100〜300円の売上げが定期的に入る。「iモード公式サイト」はNTTドコモとコンテンツプロバイダーの両者にとって「黄金郷〜エルドラド」へと発展する。ここで地盤を築いたのがザッパラスの前身サイバービズ株式会社。2000年の設立当初は携帯電話向けコンテンツ開発会社に過ぎなかった。しかし、1年を経ずして業務受託元から営業権を譲受。ザッパラスと名前を変え、その企画力と営業力を武器に進撃を始める。

名だたる占いコンテンツ・プロバイダーを押しのけ、破竹の勢いでiモードを中心に占いコンテンツを多方面に展開した。確実に利益を上げる企画・営業戦力は株主、提携先を歓喜させたが、各所の有料占いサービスにとっては恐怖の代名詞となる。悪評も生まれ良く思わない企業、占い関係者も増えた。光を増せば闇も増えるのが世の常である。同社はiモードの繁栄と共に急成長する。そして2005年5月30日東証マザーズ上場初日。一株あたりの公開価格は93万円。数時間後、3.4倍の310万円をつけて初日を終えた。当時の熱狂が伺える。そして前述のとおり、そのわずか4年後、東証1部上場企業に名を連ねてしまった。

さて、その水面下では国内のコンテンツ・プロバイダーを襲う巨大なうねりが生まれていた。4G規格の開始とiPhone/Androidの台頭。iモード天下の終焉をもたらす潮流である。やがてユーザーを確実に取りこんだiモードを代表とするクローズド・プラットホームから、スマートフォン・アプリへと主戦場が変わる。さらに、時を同じくしてYouTubeを代表とするネット動画配信サービスの普及。それまで我が世の春を謳歌していた数多のコンテンツプロバイダーは、2つの巨大な敵との戦いに直面した。
第一の敵は定額課金の喪失、第二の敵はユーザー時間の奪い合いだ。

クローズド・プラットホームの強みは、一度結ばれた月額契約の解約率の低さにあった。大半の契約者は、コンテンツを頻繁に使っていなくとも解約をしない。月額費用の手軽さもあるが、最大の強みは利用料が通信料に加算されて請求されることだ。毎月支払う通信料に載せられたコンテンツ利用料は、公共料金などと同じく固定費用として受け入れられやすい。だがアプリは違う。単体アプリを買う行為はユーザーに支払いの痛みを伴わせる。サービスプロバイダーはアプリを買ってもらわなければならない。アプリが抱える最大障壁だ。

2000年代。同じくコンテンツを武器とする別の産業界はiモードの出現で煮え湯を飲まされていた。
ゲーム業界だ。1990年代までに栄えた多くのゲーム会社が消えた。それまで長時間遊ぶことが当たり前だったゲーム時間は、携帯電話の出現で削り取られる。象徴的だった出来事は業界の二巨頭スクウェアとエニックスの合併(2003年)。ゲーム業界は一足早く、ユーザー時間の争奪戦から脱落した。膨大な数のライトユーザーを失ったゲーム業界は、巨大プロジェクトの推進が難しくなり、開発会社の多くは仕方なくiモード、パチンコ、スロットへと生き残る場所を求める。
したがって、90年代に世界のゲームマーケットを席巻していた日本産ゲームが衰退し、海外勢の後塵を排した要因の一つは皮肉にも国産携帯電話コンテンツの普及だった。だがスマートフォンの出現と、それに順応した新勢力の出現によって業界は息を吹き返す。彼らはゲーム本体を「クローズド・プラットホーム」に見立て、その中で課金エコシステムを作り上げたのだ。「アイテム課金」方式である。

しかし占いコンテンツ・プロバイダーにとってこの方式は難しい。占いはゲームの様に張り付いて遊ぶコンテンツではない。占いに必要とする時間は限られており、数分から数時間を消費するゲームとは異なる。またゲームは、その企画力、ゲーム性、グラフィックの質が問われる。目的は中毒性の創出だ。中毒性はゲームの本質とも言える。だからこそアプリでの勝負ができる。ところが占いにそうした意味での中毒性は無い。占いはリアルタイム性が求められる。人々が1日で使う時間で、占いが中毒性で勝負できる機会は殆ど無い。また、企画面においては占い師、あるいは「動物占い®」の様にネームバリューに依存する度合いが極めて高い。ゲームの様に企画内容のみで勝負することが難しい。結局は「看板」「誰が占ってくれるのか」に尽きる。

1990年代後半から始まった占いコンテンツ・プロバイダーの隆盛は2010年に新しい局面に入り減衰、他のエンターテインメント、電話占い、対面占いと戦場を共有し始めた。
2020年の状況下で電話占いはその需要を増やし、室内時間の増大はコンテンツプロバイダーにとって有利に働いている様に見える。だが一般ユーザーが占いに使う時間は以前から大して変わってはいない。また恐らく、占いに接する絶対人数、その人たちが占いに関わる時間にもさほどの変化はないだろう。
それでは企業にしろ、個人にせよ占いに関わる僕たちは今後どの様な認識と準備が必要なのだろう。

サービスとしての占いと占星術師の近未来

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