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占星術はデータを越えられるか?

作家2414人から特有の配置を観測する『非』伝統的占星術

「水星がうお座だと作家には向かないのでしょうか」

占星術に携わっていると、この種の質問を受けることがある。こうしたサインと職能を結びつける解釈を真っ向から否定するつもりはない。でも、「〇〇だから□□」といった解釈はあくまでも目安だ。30センチ定規の5センチ単位目盛りと同等と考えている。
実は古典占星術の古いテキストにも、こうした記述を多く見つける。これらは「アフォリズム(格言)」と呼ばれ、源流を辿ればバビロニアの予兆占星術に行きあたる。

「火星と土星のトラインは、生活が不安定で苦難に耐えられない人を指す」
ウェティウス・ウァレンス(2世紀) "選集II" p.33
「金星がエンリルの道で輝き始めれば アッカドの王に敵は無い」
バビロニア粘土板 天文予兆集 K.7936

現代のテキストでもこうした形式から完全に自由になるのは難しい。なぜなら、著者の意図を一文に込めることは不可能に等しく、読者に伝えるためには、必ずどこか一部分を切り取る必要があるからだ。

これは占星術に限らない。非理系の教本に通ずるところだろう。

文章なら「修飾語は被修飾語に可能な限り近づけよ」
絵画なら「補色対比を多用してはならない」
音楽なら「連続する平行五度を作曲に用いてはならない」
株式なら「チャートがM型を描いた株は売れ」
演芸なら「舞台から客いじりをしてはいけない」

これらは「技法(アート)世界」の格言だ。断片的な格言は実践を通じ、応用を学ぶことがその前提にある。また著者の意図や主観、書かれた時代の理解も必要になる。格言の前提が異なれば言葉が示す意味も変わってしまうからだ。

一方、科学の世界はどうか。
科学理論には、その理論が機能する「数式モデル」がある。
例えば「Aの場合、CはBと等しくなる」あるいは「AはBの二乗に反比例する」といった形だ。世界一有名な数式モデルは、アインシュタインのe=mc^2。膨大なエネルギーが質量に閉じ込められていることを表している。「技法(アート)世界」の格言と異なるのは再現性。つまり誰がやっても同じ結果を導けるという点だ。これを法則と呼ぶ。

さてバビロニア粘土板。
彼らが残した予兆集は数式やプログラミングの「IF文」に似ている。

「木星が"A"なら、王は"B"」

"A"には見える位置などの条件が入り、"B"には「戦いに勝つ」「負ける」などの答えが入る。

科学と異なるのは「そういうことがある」「そうしたことがあった」という曖昧性を残す点。本質的には現代の占星術と大差はない。修飾が極端に少ない点を除けば、占星術師が書いている内容は今も昔も同じだ。さて、作曲家は「平行五度を使う曲など沢山ある」と言うし、芸人は「タイミング、意図さえ間違えなければ客いじりも有り」と言う。これが格言と法則の違いである。

これらを踏まえた上で本題に入りたい。本稿は事実(データ)から格言を見つける試みだ。最初にお断りしておきたい。本稿の主旨は僕が実践する古典占星術とは全く関係がない。実際のデータから導いた結果であり、従来の占星術のコンテクストとは質を異にする点をご承知いただきたい。

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作家2414名から導く特有の配置とは?

調査対象は1700年〜1990年を中心に出版物を刊行した著名人。職業作家として執筆を行い、実験結果や思想を伝える上で執筆をした人、2414名を対象としている。このデータを本稿で作家群と呼ぶ。データソースと集計はastro-seek.comの協力を頂いた。なお、本稿の大半は無料で読める。後半(有料)に月/土星、金星/土星、金星/木星の相関、占星術のデータ解析と将来も占星術が生き残る理由について述べた。

謝辞

本稿の執筆にあたり、astro-seek.com@Petr9,astro-seek.com氏に多大な協力をいただいた。この場を借りてお礼申し上げる。

手順
・7惑星の分布から、固有の配置を調査する
・偶然では起きにくい配置のみを選出する
・本稿の試みとして特定の惑星の組み合わせからアフォリズム(格言)を作る

惑星の分布

さて、冒頭で述べた水星サインの分布に偏りはなかった。やぎ座付近で増加するが、これは水星の楕円軌道が原因。水星はやぎ座付近で速度が遅くなり、結果として滞留期間が長くなる。下のグラフでは左が作家群の水星サイン。右は通常ならこうなるという分布だ。期待値、理論値などと呼ぶ。双方に差違はなく、統計的な偏りがないことを示している。

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一方、月、金星、火星に偏りが見られた。しかし指標(効果量)が示す偏りの信頼性は乏しい。そこで、この三つの天体についてのみ次の調査を行った。偏りのない太陽、水星、木星、土星は調査対象から除外した。

クロス集計で二つの天体を調べる

ここでは特定の惑星サインの分布を軸に、他の惑星分布を見る。たとえば、太陽サインがおひつじ座の占星術師に、おうし座の月を持つ人が何人いるのか、といった調査だ。もし極端におうし座の月が少ないのであれば、占星術師にはそうした傾向がある〜というアフォリズムが成り立つ。単一の惑星の分布に特徴的な傾向を見出すことは経験上殆どない。ところが、二つの天体を比較した際に、それが現れる時がある。これから紹介する事例だ。

アフォリズム1:火星がおひつじ座にある時の木星の分布

下記は火星サインがおひつじの時に限り、木星が描くサイン分布だ。木星てんびん座が圧倒的に多く、逆にうお座は少ないことがわかる。

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木星の分布は著しい偏りを見せる。この分布が偶然に起きる可能性は0.1%以下。本来であれば右図の分布に近くなる。

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この配置から作るアフォリズムはどうなるだろう。

アフォリズム1:火星おひつじ座

まずは古典風に仕立ててみよう。

「もし火星が白羊宮にあり、木星が天秤宮にあるなら、その者は著名な作家になるか著作を残す。だが、もし火星が白羊宮にあり木星が双魚宮にあるのなら、その者は作家にはならないだろう」

バビロニア風ではどうだろう。

「ネルガル(火星)が雇夫(羊)にあり、サソリの爪(天秤)の白き星(木星)を見ていれば偉大な作家となる。ネルガルがアヌニツム(みなみのうお)の白き星と並べば作家にはならない」

どの様な印象を抱かれただろう。

占星術師ならば、おひつじ座の火星と、てんびん座木星のオポジションに着目するだろう。ここでは、本来は好まれない火星-木星オポジションが有効に機能している。もちろん占星術の文脈では「腑に落ちない」し、否定論者の視点では「当たっていない」。

少し外側に目を向けてみよう

僕にとってはデータから見る現象が正しいのか、そうでないかは別問題だ。事実は事実として見る。そこに未知の事実があるかも知れない。古典占星術を行うのは盲目的に信じているからではない。基準が明瞭なところ、そして天文現象に根ざした判定が行われていると考えているためだ。そして一定の精度で機能することを経験で理解している。しかし、それはあくまでも占星術師の視点で見た範囲に限られる。こうしたデータから観測する方法は、正統な占星術のコンテクストからすれば変則技。しかし、観測から得られる事実は異なる視点を提供してくれる。

データから作る15の占星アフォリズム

では、さらに見ていこう。偶然では起こりにくい特徴的な配置だけを選出し、火星/木星、火星/土星の関係性から13のアフォリズムを作る。
後半に月/土星のアフォリズムを2つ紹介する。出自を明瞭にするため、各アフォリズムにはグラフを並記した。グラフ下の文字はデータの質を表す指標。無視して頂いて構わない。

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火星と木星の関係

アフォリズム2:火星おひつじ座

火星がおひつじ座の時、木星がみずがめ座(セキスタイル)の作家がやや多い。

前述のデータから。木星からセキスタイルを受けた火星。

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アフォリズム3:火星ふたご座

火星がふたご座にある時、木星はしし座(セキスタイル)、おとめ座(スクウェア)、いて座(オポジション)の作家が多い。

再びオポジションが登場する。スクウェアも機能するようだ。おうし座も多いが、上位3サインを採用した。

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アフォリズム4:火星かに座

火星が、かに座にある時、てんびん座(スクウェア)の木星は作家に有効に作用する。

火星は木星の高揚サインで受容(リセプション)が働く。古典占星術ではシングル・リセプション。スクウェアの鋭角的な作用は軽減される。

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アフォリズム5:火星おとめ座

火星おとめ座の時、いて座(スクウェア)木星の作家が多い。

木星はドミサイルで強い。だが後方火星からのスクウェアを受けている。古典の文脈では「オーバーカミング」で追撃される木星だ。

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アフォリズム6:火星さそり座

火星がさそり座にある時、おうし座(オポジション)、しし座(スクウェア)の木星も同様に作家には有効に働く。

三度目のオポジションの出現。作家、執筆には火星/木星のオポジションが効いている様だ。

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アフォリズム7:火星みずがめ座

火星がみずがめ座にあり、木星がおひつじ座にある作家は多い。

木星おひつじ座が突出して多い。ここではセキスタイルの効用が認められる。

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上記のアスペクトをまとめてみよう。

作家群に多く見られる火星と木星のアスペクト(サインは考慮せず)
コンジャンクト 0
セキスタイル 3
スクウェア 4
トライン 0
オポジション 3
アバージョン 0(30°/150°)

以下はその一覧表。横軸は火星サイン、縦軸が木星サインだ。

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●:多いサイン, 〇: 少ないサイン, co: コンジャンクト, sx: セキスタイル, sq: スクウェア, tr: トライン, op: オポジション,  av: アバージョン

さて、読者の火星/木星アスペクトはあっただろうか。ここに示す結果で「作家に有効」を判ずるか否かは読者の手に委ねる。統計は「マクロ」視点で役に立つ。「ミクロ」視点の個人鑑定で意味を為すかは未知数だ。

個人的に着目するのは、スクウェアと破壊的に作用するはずのオポジション。火星おひつじ座ー木星てんびん座、火星ふたご座ー木星いて座、火星さそり座ー木星おうし座の組み合わせ。オポジションの作用について一考する予知が生まれる。これは作家群特有の結果なのだろうか。他のカテゴリー(職種)との比較は別の機会を設けたい。

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火星と土星の関係

つづけて火星/土星。木星とは異なり、アバージョン(30°/150°)に際立った特徴が現れる。

アフォリズム8:火星ふたご座

火星ふたご座の時、土星いて座(オポジション)、おうし座、さそり座(アバージョン)の作家が多い。

土星いて座のオポジション。アバージョンはサインの両隣30°と150°を指す。古典では「見えない位置」として扱う。

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アフォリズム9:火星かに座

火星かに座の時、土星はかに座(コンジャンクト)、ふたご座といて座(アバージョン)の作家が多い。

木星では現れないコンジャンクトが登場する。古典占星術は同じサイン内の場合もコンジャンクトとして考える。もちろん度数が近いほどその作用が強くなる点は近代占星術と同様だ。

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アフォリズム10:火星しし座

火星しし座の時、最も多い土星サインはやぎ座(アバージョン)。一方、おひつじ座(トライン)の土星は最も少ない。

火星しし座に対し、後方土星のトラインが最小となる。

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アフォリズム11:火星さそり座

火星さそり座の時、土星さそり座(コンジャンクト)、土星うお座(トライン)、土星おひつじ座(アバージョン)をもつ作家は多い。逆に、オポジションの土星おうし座は少ない。

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アフォリズム12:火星やぎ座

火星やぎ座の時、土星うお座(セキスタイル)の作家が最も多く、後方からトラインを組む土星おとめ座の作家は最も少ない。

ふたたび後方のトラインを組む土星が減る。

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アフォリズム13:火星みずがめ座

火星がみずがめ座の時、土星おうし座(スクウェア)、土星おとめ座(アバージョン)、土星てんびん座(トライン)の作家が多く、土星ふたご座(トライン)は最も少ない。

ここではトラインが異なる条件(最多と最小)で現れる。

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作家群に多い火星と土星のアスペクト(サインは考慮せず)
コンジャンクト 2
セキスタイル 1
スクウェア 1
トライン 1
オポジション 1
アバージョン 7(30°/150°)

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●: 多いサイン, 〇: 少ないサイン, co: コンジャンクト, sx: セキスタイル, sq: スクウェア, tr: トライン, op: オポジション,  av: アバージョン

冒頭で引用したウァレンスも述べているが、負の役割を担う火星/土星トラインが目立つ。そして頻出するアバージョン。近代占星術では30°/150°に相応の意味を与えている。ヨハネス・ケプラーが数理から求めたアスペクトだ。古典では関係性を図る指針にはならない。だが、ここで火星/土星のアバージョンに一考の余地が生まれる。今後、さらに大きなデータを観測した際にアバージョンが頻出するのであれば、僕はケプラーが求めた世界にもう一度足を踏み入れなければならないだろう。占星術が機能するという前提に立つのなら、それが古典のルールと異なっていたとしても、データに表れる事実を無視はできない。

以下、同様の手法で導いた月/土星のアフォリズムを掲載する。金星/木星、金星/土星については一覧表を掲示する。そして結びとして、将来も占星術が生き残る理由を述べて本稿を閉じる。
なお、ここから有料記事とする。

調査概要

・目的は特定の集団と惑星サインの配分、その偏りの評価
・目標は事実観測から得る視点構築
・7惑星の分布算出、期待値から著しく逸脱した対象の惑星サインの調査
・データソース:astro-seek.comで提供される著名人データ
・対象:作家
・生年月日データの信頼度:AA、A、B(Rodden Rateによるランク付け)
・惑星サイン分布:トロピカル獣帯
・著しい逸脱を示すマーカーとしてp値と効果量を用いる。詳細は「占いは統計なのか」をお読みいただきたい。

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月と土星の関係

月と土星に見る二つのアフォリズム。

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