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古典占星術で読む火星〜分断・闘争・決断

おひつじ座に滞在する火星の逆行、そして土星とのスクウェアが起きています。凶星、火星が象徴する分断と怒り、土星とのスクウェアについて古典占星術の視点から解説します。

後半の古典資料、古典の世界観、古典書の読み方解説は有料です。

深夜、天頂に輝く火星を観る

2020年は2年ぶりに火星の大接近が見られる年です。9月13日現在、火星は深夜12時頃に最も高く昇ります。明るさはマイナス2等級。すでにシリウス(マイナス1.5等級)よりも明るく、10月中旬の最接近に向け、その光はさらに強くなります。少し夜更かしてオレンジ色に輝く星を見てみましょう。光の強さを表す「等級」は前回よりも少しだけ弱いのですが、肉眼でその違いを見わけることは難しいでしょう。そして、かなり高い位置まで昇ります。2018年、火星はみずがめ座にありました。今年はおひつじ座です。おひつじ座を通る惑星は、みずがめ座にある時よりも高度があります。やぎ座に見える星は最も低く、かに座では最も高くなります。おひつじ座はちょうどその中間。天頂近くで輝く火星は、まるで空を支配する王の様に感じるかもしれません。現在、南関東から見える火星は深夜12時頃に最も高く昇り、2時前にMC(黄道と子午線の交点)に接合。同じ頃、日没から輝いていた土星と木星は西の地平線へと姿を消し、夜明けまでの夜空は火星が独占します。

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2020年と2018年。光度は殆ど同じ、高度(昇る高さ)は異なります

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2018年と2020年の火星最接近と明るさ変化。
出典:https://theskylive.com/mars-info

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水平線へと沈む火星。強い光を放つ火星は小さな夕日の様でした。(2018年7月撮影)

古典占星術で読む

火星はおひつじ座、ドミサイル。東方(オリエンタル)にあります。自信に溢れ、適切に行動をとる戦士にたとえられます。現在は留。そして、これから2ヶ月の逆行。これは良くありません。戦う気概に溢れていても、戦況はやや後退気味という状況。土星はやぎ座、ドミサイル。ですからその質は良いです。マイナス点は西方(オクシデンタル)と逆行。火星を戦士にたとえました。ドミサイルの土星は老賢者としましょう。頑固で陰気、厳しそうですが、ドミサイルにある彼は品格と礼節を備えています。

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火星
属性:夜
品位:ドミサイル ◎ 強い
位置:東方(オリエンタル)◎ 強い
速度:逆行× 弱い

土星
属性:昼
品位:ドミサイル ◎ 強い
位置:西方(オクシデンタル)× 弱い
速度:逆行 × 弱い

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東方/西方は太陽から見た運行位置を基準とし、火星・木星・土星は東方が良く、金星・水星・月の配置は西方が良いとされています。右の図は理科の教科書で目にしたことがあると思います。東方西方の理解にはこの図が助けになるでしょう。

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二つの天体の位置関係〜スクウェア・オーバーカミング(制圧)
土星と火星は凶星です。伝統的な占星術において、火星と土星のスクウェアは単独で強い凶意を表します。他のアスペクトや条件を考慮しなければ、古典書における出生図判定は兄弟の死、熱病、身体の弱さ、遺産の散財、仕事の不和を示す記述で溢れています。描写は気が滅入るものが多いのですが、後半に参考資料として記載します。私たちは21世紀に生きているので、現代視点でこの座相を解きましょう。

土星から見る火星は、4サイン分先行したサイン。これをOvercoming(制圧)と呼び、土星が火星に対して強く作用するアスペクトです。9月30日、両星は25°20'でスクウェアをとります。老賢者が戦士になにがしかを命じている状況です。9月29日、スクウェアが完成する前日、土星は留。その後順行へと移ります。土星の強制力は強まり、火星はその影響を受けます。緊張感は持続しますが、戦士は老賢者の言葉を聞き入れるでしょうか。

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リセプション(受容)
火星が滞在するおひつじ座後半度数について、古典書では悪意が強い場所として描かれています [1]。でも25-30°は土星が管轄する場所(ターム)です。つまり、火星と土星はこの時弱いながらもミューチュアル・リセプション(相互受容)。スクウェアが完成する日もこの関係は続いています。
火星はやぎ座で高揚(エグザルト)。ドミサイルが自宅なら、高揚は火星の別荘。盛大に土星を受け入れています。これをリセプション(受容)と呼びます。受容は助力や好意です。一方、土星はタームという少し弱い品位で火星を受容。老賢者は戦士を火星ほどには大切に扱いません。より恩恵を受けるのは土星の方です。それでも、このミューチュアル・リセプションは火星 □ 土星の凶意を和らげるでしょう。

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東方から西方、そして順行
さて、東方(オリエンタル)にあり、男性サインのおひつじ座の火星。10月14日。太陽と火星はオポジションを形成した後、火星は西方(オクシデンタル)へと位置を変え、少しだけその直線的な力を弱めます。一ヶ月後の11月14日、火星は留。その後順行し、戦況の後退要素は消えます。

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分断・闘争・決断

上記を経ながら、依然として火星は七ヶ月をドミサイルで過ごします。こうした時期、多くの人が「怒り」「憤(いきどお)り」について話をします。たとえば、苛立ちや怒りを人にぶつけることに気をつける…その様な話です。これは一理あります。火星は「分断」「闘争」「決断」を表し、物事に変化を与え、時には対象を打ち倒し、物事を分け隔てる作用を表すからです。
「怒り」も同じく対象に変化を求める行動です。感情、価値観を基準とし、他者あるいは現象がその基準から逸れ「これ以上は耐えられない」というところから生まれてくる。イブン・エズラは精神について月と水星を見よと述べています[2]。 月は太陽(神)の光を写す鏡。人の想いも「月」に写し出されます。一方、火星は月から受け取った反応「怒り・闘争心」を行動へと移す作用を司ります。発露した感情を行動・言動に移した瞬間、わたしたちは火星の「凶性」を体現します。「変化」を外界(相手、対象)に向けて要求するのです。もし殴れば相手は傷を負います。言葉で攻め立てれば、やはり傷つくかもしれない。要求が対象を変化させるのかそれは分かりませんが、少なくとも作用があれば反作用が起きる。これが火星の凶星としての資質「分断」や「闘争」です。「吉星」は発展・醸造を促す作用ですが、自然界には分断・分離、変化を起こす時期があります。たとえば、植物に水をやり過ぎると根を伸ばすこと止めてしまいます。過剰であれば根腐れが始まります。また上に伸びる枝ばかりでは、葉が太陽光を効率的に受けられず、あるいは自重に耐えきれずに幹が折れてしまうこともあります。そのため、時には水の供給を止め、根が伸びるよう促さなければなりません。また、葉が豊かに繁る様に、育った枝を切る剪定も必要です。これは育成課程に必要な「分断」の好例でしょう。

さて、この期間の火星は強く、その性質が良いと最初に述べました。11月14日まで火星は逆行しますが、ドミサイルの品格は1月7日まで継続します。そこで、火星には有用な期間であると考えています。元来、火星の力が強い人にとっては、行き過ぎを心がける必要はあるかも知れません。ですが、闘争心を抑えがちな人たちにとっては少し異なります。強いて占星術の基準を挙げるなら、出生図の火星が次の条件にあたる場合

火星がフォール(かに座)、デトリメント(てんびん座)
火星がドミサイル、エグザルテーションなどの品位を持たず6室、8室、12室にある
上記いずれかに加え、火星が土星とスクェア、オポジションを組んでいる

火星の状態に関わらず、怒りを表すと「大人なんだから…」あるいは「闘争心に任せるのは良くない」という声がどこからともなく聞こえてくる。そして我慢を続ける。そうした自覚がある人は、火星的な行動を実現させる良い時期と僕は考えます。人に怒りをぶつけるのか?それは全く別の話です。大切なことは、感情や闘争心を埋没させず行動に移し表現することです。変化・分断は行動に示さない限り形になりません。決断は文字通り「何かを断つ」ことが伴う行為です。沸き起こる激しさを過剰に恐れる必要はありません。どう行動しても土星の影響は残るからです。制圧の相は強い緊張感を伴いますが、同時に火星が過剰になることが抑えられる。火星が土星を受容している以上、火星の凶意が突出することはないと考えています。

古典書資料翻訳と古典書の読み方ガイド

本文に関する出典資料と翻訳
ウァレンス"選集"(2世紀)
イブン・エズラ "出生図と回帰図"(11世紀)
ドロセウス "占星詩"(1世紀)
ファーミカス "Mathesis"(4世紀)
古典の世界観と古典書の読み方
(3,000文字/日本語)

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