天体観測が占星術に役立つ5選
空を見つづけていると古い占星術の本にも書かれてないことが見えてきます。古代の占星術師は空を見ることが当たり前で、あえて書き残さなかったのかも知れません。
誰もがイメージがしやすい、色、光、動きなど5つを選びました。
1. 星の色や光
惑星・恒星には独自の色と光があります。一見、占星術と関係なさそうですが、占星術で決められる意味には色や光が深く関係しています。火星が赤いのはよく知られています。実際にはオレンジ色を帯びた赤で、火炎や闘争に関連付けられたことは想像に難しくありません。そして約2年ごと、その姿は紅蓮の炎の様に輝きます。土星は黄色味を帯びた光です。そして木星よりも小さく、ゆっくりと動く鋭い光です。水星は時に白、時に青色、また時に黄色を帯び、出現の仕方も変幻自在。木星や金星が見せる光は本当に強烈で、もっとも明るくなる時期は空の主役を担います。こうした具体的な色と光、そして変化のイメージを持つと、神話との結びつきや解釈の背景にリアリティが生まれてきます。たとえば、なぜ木星がゼウスでバビロニアの最高神マルドゥクとされたのか、その理由も明瞭になります。
2. 惑星の動きのイメージ
個々の惑星にはそれぞれ固有の動きがあり、惑星の意味づけにも考慮されています。「土星は遅く水星は速い」という事実はチャートアプリや天文暦で見ることができますが、実際の動きから受ける印象はかなり異なります。土星は他の惑星の動きを統括する様なサイクルで動き、一方の水星は予測不能。水星の逆行はよく知られた現象ですが、逆行後半では明け方の東の空に出現することがあります。ところがその姿が見られる正確なタイミングは、コンピューター計算でも予測が困難。まさに変幻自在の星です。
また、3〜4時間、天体の動きを眺めていると惑星がハウスを移り変わる様子を体験できます。学校で「日周運動」とだけ習う実際の天体の動きは、教科書の説明よりも遙かにダイナミックです。算出方法が複数あり、原理が難しいと思われている未来予測法「プライマリー・ディレクション」(日周運動進行法)も数時間の天体の動きを眺めていれば、その仕組みはおおよそイメージできます。逆に言えば、日周運動が描く空の動きが分からないとイメージは難しいです。
3. 月の動きと形
満月と新月は占星術でいちばんホットな話題のひとつです。ところがその姿の移りかわりと、見えるタイミングはあまり話題になりません。月の動きと光の変化は占星術との関連性が多すぎるので、ひとつだけ紹介します。約27日周期で姿を変えます。その間、太陽と次々にアスペクトを結んでいきます。ですから月の形を見れば太陽とのアスペクトがわかります。日々、見ていれば3ヶ月後には月相とアスペクトのイメージは可能。すると、新月と満月のイメージが少し変わると思います。
4.MCとアセンダント
チャートアプリでは線で表示されるMCとアセンダントですが、アプリでは時間経過と共に移り変わる大地との関係がイメージできません。またアセンダントの位置は不動で、MCが空(黄道上)で一番高いとイメージされていることも多いです。事実は全く異なります。アセンダントとMCは時間経過と季節変化でダイナミックに位置を変えます。アセンダントは地平線上の南北方向を移動し、MCはその高度を変えるのです。そしてMCが常に最も高い位置というのは誤りです。惑星はしばしばMCよりも高く昇ります。夏至の太陽が南中する時に一年で最も高く昇ることや、チャートアプリは二次元で空を表現し、書籍解説では固定した位置の様に描かれるため、こうした誤解が一般化したのだと思います。
5. 決めごとの背景
西洋占星術の決めごとの多くは天体観測が元になっています。モダン占星術では使いませんがコンバストやアンダーザビーム、天体の消失、オリエンタルとオクシデンタル、惑星の移動速度、ヘリアカル・ライジング、プライマリー・ディレクションなど天体観測を由来とする事例は枚挙にいとまがありません。なぜこんなルールなんだろう、という疑問も空を見ると分かることがとても多いのです。
チャートアプリは本当に便利です。天気も場所も関係無しに使えるまさに現代人の特権。でも天体が見せる色や輝きは無味乾燥な記号と数値に置き換えられ、あるいは削ぎ落とされ、実際の空を一面でしか知ることができません。料理は食べてみて初めてその味がわかります。少なくとも、食べてみないことにはレシピと材料から豊かな味を想像することは難しい。個人的意見ですがチャートアプリで見る空は、料理本の材料表とレシピに似ています。
さて。星が見えない晩、昔の人たちはどの様に解決していたのでしょう。彼らの手には2500年前から天球儀がありました。天文暦と天球儀から、二次元と三次元の両面で空を理解できたのです。
日本人の自然観察力で深める占星術
その昔、平家の貴人に出仕した女性(建礼門院右京大夫)は、平家の滅亡に際してその追憶と恋を描く歌を残しました。そこに星々を観て詠んだ歌が何首かあります。
月をこそながめなれしか星の夜の
ふかきあはれをこよひしりぬる
この歌に際し「星月夜」というタイトルの日記が添えられています。
"十二月一日ごろでした。夜になり、雨とも雪ともなく降ってきて、群れ立つ雲も騒がしく、空はすっかり雲に覆われてはいないものの、ところどころに星がまたたいている。衣をかぶり橫になりましたが、夜も更けた午前二時ごろ、衣を脱いで天を見上げると、すっかり晴れわたり、浅葱色(あさぎいろ)の空に、大きな光を放つ星々が一面に現れている。その光景は言いつくせぬほどすばらしく、まるで淡藍色(うすあいいろ)の紙に金箔を散らしている様で、そんな星空はその晩、初めて見たような気がします。それまでも星月夜は見馴なれてはいましたが、時の巡りあわせでしょうか、特別な心地とともに想いに耽るばかりでありました。"
(現代語訳ぐら)
星を眺めて心の内と外に映る情景を詠む。占星術や天文知識とは関係なく心を打つ内容です。
昔とは異なり、都会では1等星と月、惑星くらいしか見ることができません。これでは空との距離が離れるのは仕方がないし、占星術にとっては不便な時代です。それでも豊かな自然との繋がりから育まれた日本人の感性は、空との出逢いで、より深く、より研ぎ澄まされるのではないかと考えています。
(了)
参考資料
1. 久松 潜一, 久保田 淳, 建礼門院右京大夫集. 岩波文庫, 第17版, 2009, pp. 120-121.
2. Harries, Phillip Tudor. The Poetic Memoirs of Lady Daibu. Stanford University Press, 1980, pp. 227-229.
3. Is MC not always the highest place?
https://astrogrammar.com/articles/2020/09/mc-is-not-always-the-highest-place/
画像出典
1. 星の色や光 恒星アークトゥルス、スピカ(自作, 2021)
2. 月相(自作, 2020)
3. MCと火星(stellarium/Astro Gold)
4. 天球儀(画像素材123rf.com)
5. 星月夜(自作, 2019)
修正
1. 2021/10/18
※逆行後半の水星は明け方の東の空に必ずありますが、いつも観られるとは限りません。下記の様に修正しました。
修正後)水星の逆行はよく知られた現象ですが、逆行後半では明け方の東の空に出現することがあります。
修正前)水星の逆行はよく知られた現象ですが、逆行後半では必ず明け方の東の空に出現します。
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