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銀河系のお話し(9) 新たな情報2024年3月31日

『銀河系』問題

天の川銀河のことを、なぜ「銀河系」というのか? この問題について考えてきたが、いまだに答えは見つかっていない。

note 「銀河系のお話し(3) 『銀河系』という言葉はいつから使われていたのか? https://note.com/astro_dialog/n/ne316644c6000

今回は、新しい情報を得たので、報告させていただく。

日本天文学会の学会誌「天文月報」

先週、友人のAさんから新たな情報が入った。

「日本天文学会がいつ頃から『銀河系』を使うようになったか調べてみました。天文月報 https://www.asj.or.jp/geppou/contents/ を眺めてみると、1917(大正 6 年)に一戸直蔵が使う以前、1916年4月号に新城新蔵が、『銀河系』を使っているのを発見しました。それ以前はまだ確認していませんが、取り急ぎご報告まで。」

前回のnote「銀河系のお話し(3)」の段階では、『銀河系』という言葉は天文学者の一戸直蔵(1878-1920)が1917年に著した『天文学六講』の中に出てくるのが最初だった。Aさんのおかげで、もう一年遡ることができた!これは前進だ。

新城新蔵(しんじょう しんぞう、1873-1938)も天文学者で、京都帝国大学第8代総長も務めた人だ。

図1 日本天文学会の学会誌『天文月報』第9巻、第1号に掲載された新城新蔵による「天体の回転運動」という記事の中に『銀河系』という言葉が出てくる(赤い四角で囲った部分)。

新城新蔵と一戸直蔵

この新た情報で、二人の天文学者、新城新蔵と一戸直蔵が1916年と1917年に『銀河系』という言葉を使っていたことがわかった。ただ、いずれの場合も、なぜ天の川銀河のことを『銀河系』と呼ぶかについては説明がない。ということで、今後も探求は続く。

ところで、新城と一戸の二人は著名な天文学者だが(図2)、キャリアと信条は両極端である。新城は先にも述べたように京都帝国大学の総長にもなった、キャリア派である。また中国の上海自然科学研究所の第二代所長として、日中共同の架け橋を模索した業績もある。一方、一戸は東京帝国大学星学科を卒業後、東京天文台で天文学者の道を歩んだ。ところが、彼は欧米に負けない天文台の建設を唱え、当時の東京天文台長と衝突し、職を辞してしまった。その後、「現代之科学社」を設立し、科学雑誌「現代之科学」を刊行したものの上手くいかず、42歳の若さで亡くなった。

図2 (左)新城新蔵と(右)一戸直蔵。 https://ja.wikipedia.org/wiki/新城新蔵 https://zh.wikipedia.org/zh-tw/一戶直藏

新城と一戸は、二人とも日本天文学会の会員であった。これの意味するところは大きい。当時の学会では、『銀河系』という言葉はすでに市民権を得ていたと考えてよいからだ。

さて、いったい誰が『銀河系』と名付けて普及させたのか? やはり、気になる問題だ。

追記:今までの調査をまとめた表を更新したので参考にして下さい。

1 『洛氏天文学』文部省。上冊・下冊の二分冊。『Elements of Astronomy』(J. N. Lockyer、1870年)の翻訳本。著者のLockyer(ロックヤー)を洛氏としている。『Elements of Astronomy』の原著の索引を見ると、銀河関係では「Galaxy」と「Milky Way」が出ている。 2 『改訂 天文講話』横山又次郎、早稲田大學出版部、明治三十五年が初版だが、購入したものは昭和二年刊のもの(弐圓八十銭) 3 『星學 全』須藤傳次郎、 博文館、明治三六年 (三十五銭、改正定價四十銭の印鑑あり) 4 『高等天文学』一戸直蔵、博文館、明治三十九年(六十銭) 太陽、月、地球、および観測天文学を詳細に解説した教科書だ、銀河や星雲に関する記述はない。 5 『改訂 天文地学講話』横山又次郎、早稲田大學出版部、明治四十二年が初版だが、購入したものは大正十二年刊のもの(弐圓八十銭) 6 『星』一戸直蔵、裳華房、明治四十三年(壱圓五十銭) 7 『宇宙発展論』『最近の宇宙観』スヴァンテ・アレニウス 著、一戸直蔵 訳、大倉書店、大正三年(壱圓八十銭) 銀河は天の川銀河と螺状星雲の二つの意味で用いられている。 8 『趣味の天文』戸直蔵、現代之科學社、大正五年(壱圓二十銭)倉書店、大正三年(壱圓八十銭) 銀河は天の川銀河の意味で用いられている。アンドロメダ星雲までの距離は十九光年になっている。 9  日本天文学会の学会誌『天文月報』第9巻、第1号に掲載された新城新蔵による「天体の回転運動」という記事の中に『銀河系』という言葉が出てくる。 10 『天文学六講』一戸直蔵、現代之科學社、大正六年(価格は不明) 銀河と銀河系は区別なく用いられている(第五講の中、例えば227頁)。また、「吾が銀河系」という言葉も出てくる(230頁)。 11 『通俗講義 天文學 下巻』一戸直蔵、大鎧閣、大正九年(三圓五十銭)
12 『最近の宇宙観』スヴァンテ・アレニウス 著、一戸直蔵 訳、大鐙閣、大正九年(四圓七十銭) 13 『天文學汎論』日下部四郎太、菊田善三、内田老鶴圃、大正十一年(価格は不明) 第27章では、章のタイトルに「銀河系」が使われているが、冒頭に「銀河は天之川とも称せられ・・・」とあるだけで、銀河系という言葉の説明はない。 14 『星の科學』原田三夫、新光社、大正十一年(価格は不明) 15 『肉眼に見える星の研究』吉田源次郎、警醒社、大正十一年(参圓五十銭) 16 『宇宙の旅』 H. H. ターナー 著、大沼十太郎 訳、新光社、大正十三年(弐圓六十銭) 銀河が用いられているが、一箇所で次の記述がある。“吾々の集団(銀河系の宇宙)”(355頁)。 監修は東京天文台の平山清次(きよつぐ)、翻訳者の大沼十太郎は平山の親戚とのことである。なお、平山(1874-1943)は太陽系の小惑星の中で同じ運動学的な性質を持つ「平山族(ヒラヤマ・ファミリー)」という小惑星の一群を同定したことで、国際的に有名である。 17 『星のローマンス』古川龍城、新光社、大正十三年(弐圓) 宇宙系統という言葉が出ているが(32頁)、現代風に言うと系外銀河のことである。 18 『天界片信』関口鯉吉、興学会出版部、大正十五年(弐圓五十銭) 大銀河系と小銀河系という用語あり。球状星団を含むものが大銀河系。 19 『空の神秘』(誰にもわかる科學全集第二巻)原田三夫、國民図書、昭和四年(壱圓) イーストンの天の川の渦巻形状(図9)が紹介されている(302頁)。 20 『天文學概論』本田親二、教育研究會、昭和六年(弐圓五十銭)ハッブルの1926年の論文(The Astrophysical Journal, 64, pp. 321-369 “Extra-Galactic Nebulae”)を引用してハッブル分類について説明してある。


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