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菊の花の記憶

菊の花をいただいた。
次女の幼稚園のすぐそばには畑があり、いつもお迎えの際に畑の横を通り過ぎる。大体次女と長男は道草をしていくのだが、この日は次女がぐずっていた。
すると、畑にいた女性が私に向かって
「菊の花、いります?」
とおっしゃった。
「えっ。いいんですか?」
と私が聞くと、女性は菊の花をハサミでパチパチと切り、手渡してくれた。
「お花があれば、気持ちも少しは明るくなるかと思って。」
とおっしゃった。
そうか、次女がぐずり、私も沈んだ顔をしていたから、わざわざお花を渡してくれたのか。
「ありがとうございます。」
と私はお礼を言って、花は次女に持たせ、畑を後にした。赤くて小ぶりな、綺麗に咲いた菊だった。

菊の花がふわりと香る帰り道の車内、様々な記憶が蘇っていく。

「ご先祖様にご挨拶をするんだよ。」
祖父母の家に行くと、決まって母はまず私と妹を仏壇の前まで連れていき、お線香をあげ、手を合わせるように促した。ご先祖様がどんな人だったのかは知る由もないが、とりあえず言われるままに私は手を合わせていた。
おかげで、仏壇のあるお宅にお邪魔する際にはまず手を合わせる習慣がつき、義両親に褒められたので、母には感謝せねばなるまい。

菊の花の香りで思い出す記憶はもう一つ、近所の花屋さんに行ったとき。
以前住んでいたアパートは、大家さんが花屋さんだった。
なので、ご近所付き合いや地域情報の収集を目的として、娘を連れて時々花を買いに行った。
母の日以外で定期的に花屋さんに出向いたのは、あとにも先にもこのアパートに住んでいた時だけだ。
大家さんご夫婦は、娘をよくかわいがってくれて、買った花以外にも、おまけにお花を一輪持たせていただいたり、次女と長男が産まれたときも、孫が産まれたかの如く可愛がっていただいた。
アパートを離れてもうすぐ2年が経つけど、元気でいらっしゃるだろうか。

幼稚園の駐車場から自宅まで車で十分少々の道、香り一つで過去の思い出がふわりと蘇っていく。
どれも些細な日常だけれど、自宅についたとき、気持ちが少し軽くなっている自分がいた。

菊の花は、バラやジャスミンのように、それ単体ではあまり嗅がれることはない。だけど、日々の生活のすぐそばにいて、色々な記憶を蘇らせてくれる。
菊の花を分けていただいた女性に、また会えるといいな。改めてお礼を伝えたい。

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