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高校3年 秋②将来の選択

てんやわんやで体育祭は終わった。

これで学校行事はほぼ終わり。

あとは受験に向けて一直線。

ただ、将来やりたいこともまだ見えなくて

どこに、なんのために受験するのかもわからず勉強することがとてもつらくて

成績は圧倒的に悪くなる一方だった。

部活で結果を出すためにはあんだけいろいろ出来たのに、勉強においてはなんにもやる気がでない。

とりあえず脚本を書いていたり、本をたくさん読んでいたこともあって

国語だけはまぁまぁの立ち位置にいたが

それ以外は絶望的な点数を続けた。


国立はセンター試験もあるし、二次試験もある。

どこに行きたいかもない僕は2次対策もほぼ手をつけれずにいた。


演劇は好きだ。

ダンスも好きだ。

文章を書くのも好きだし

洋服を作るのも好きだ。

でも、ビジネスマンとかへの憧れは1ミリも浮かばなかった。

心のどこかで、お金を求めるのは汚い大人だと思う自分がいた。

とは言え、自分が好きなものと将来のイメージがまったく噛み合わないし、

社長とかにもまったく憧れない。

父は「それを探すために大学に行くんだよ」と僕に言った。

その言葉が一番しっくりきた。

でも、大学には高校と違って「普通科」とかはない。

なにかしら選ばなければならないのだ。


"芸術に慣れ親しんでもないのに芸大行っても将来は厳しいぞ。だったら芸大とかじゃなくても、少しでもいい大学に行けるように勉強しろ"と進路指導の先生から言われた。

ただ、何にもなくて役に立つからと勉強だけしてられるほど、僕は素直な人間でもなかった。


定期公演の主人公は僕の分身でもあったことに、今さら気付いた。

やりたいことをやるためには外に踏み出さなくてはならない。

でも、やりたいことが決められない。笑ってるだけ、周りに合わせて勉強してさえいれば周りからはなにも言われない。

でも、外に踏み出さなくてはいけない時期に来ていることは自分が一番わかっていた。

定期公演の挿入歌がずっと頭の中でこだましていた。


将来への悩みが加速化していた頃、

演劇部の後輩たちが地区大会を突破して県大会出場が決まったと連絡を受けた。

今年は地区大会の場所が遠かったので観に行けなかったけど、県大会は行ける場所だったので

応援がてら前部長のMと県大会を観に行くことにした。

この頃には各地の演劇部に友人が出来ていたので

ちょっとした同窓会みたいな感じになる。


後輩たちがステージで披露するのは、パフォーマンスを取り入れたり僕の世代の要素を取り入れつつも、

僕の世代と違って痛みのない優しい舞台。

声を荒げる人がいなくても、こんなにしっかりしている。

とても素敵なことじゃないか。

ただ、当たり前なんだけど僕の居場所はもうここにはないことを改めて思い知らされた気がした。

そして、やっぱり演劇が好きだなぁと思った。

帰ってから改めて、演劇の学べる国公立大学を探す。

だが、本当に少ない。

僕の中途半端な学力では多分無理だろう。

となると、私立か。

私立は学校ごとの対策が面倒で、将来を絞れていない僕はあまり考えていなかった。

でも、、、

オガの行った大学に行って、彼女と舞台をやるのも楽しそうだ。

多摩美には、全国大会で強烈なインパクトを残した女子校の脚本兼主役の怪物がいるらしい。

いやでも俺なんかが、、、そんな気持ちが頭をよぎるけれども

とりあえずわずかな可能性を考えて、芸大とかの受験勉強のことを聞きに行ってみよう。

そう思って、美術の先生に相談しに行くことにした。

放課後、美術室のドアを開ける。

中には先生の他に美術部の面々と、受験対策のために絵を描いている同級生が数名いた。

それぞれ、なんでここにみっちーが?みたいな顔をして僕を見つめる。

「あの、芸大行きたいなって思って、、、」

と勇気を振り絞って声をかける。

これを言った直後の「もう秋なのに今更何言ってんの?」という全員の呆れた顔はいまだに忘れられない。

先生は

「あ、そうなんだ。でも、みんなけっこう何年も絵の準備とかしてるから、ちょっと今からだと厳しいんじゃないかな」

といった感じのことを僕に告げた。

僕は絵を描きたいわけでも、芸術家になりたいわけでもない。

ただ、演劇がしたいだけ。

それなのに、なんで絵が上手い必要があるんだよ。

僕は顔を真っ赤にして、美術室を出た。

なんていうか、芸術家かぶれのやつらには負けたくねー!と思って、やたらと意欲が湧いてきた。


国公立は絞らない。

センターの点数次第で選ぶ。二次対策もしない。

そして私立は芸大しか受けない。

僕の大好きな京都、もしくは東京の芸大に絞ろう。

国公立ならなんでもいいから、そこに行く。学費も安いしね。

国公立に落ちたら、芸大に行こう。

そうしよう。

こうやって僕は世にもレアな、国立と私立、どちらかに行くかによってその後の進路も大きく違うというギャンブル要素溢れまくりの受験勉強をしていくことに決めた。

絵なんて描かない。

でも、僕は僕の道を行く。

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