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高校3年 春⑤高校演劇とのお別れ

合宿も終わり、それまで優しいように見えた演出の三年生が突然鬼のようなキレっぷりを発揮したことで恐怖に怯える1年生を2.3年生たちがなだめながら

練習を重ねる舞台の完成度は去年の大会を超える勢いで大きく上がっていった。

最後の舞台に相応しい出来だと思う。

これで大会出てたらどうなってたかな?

そんな話で盛り上がってみたりもするも、過ぎ去ったものは仕方がない。

部員全員がとてつもなく良い出来の舞台を確信した頃、ついに定期公演の日が訪れた。

我ながら、様々な要素をふんだんに取り入れた舞台が出来たような気がする。



主人公は内気な女の子。

幼馴染の女の子はクラスの人気者。

2人で過ごす、ありきたりな日常が好きだった主人公だったが、

最近は幼馴染が新しい環境に触れて新しい友人たちとどんどん未知の世界に行ってしまうため

昔みたいに一緒に遊んだり悩みを相談したりすることが出来ないことを悲しんでいた。

新しい世界を楽しむ幼馴染と、昔からよく遊んでいたおもちゃをいまだに手放せない主人公。

その距離は開いていく一方にも思えた。

そんなある日、

趣味を突き詰めすぎた結果作ってしまった時限爆弾の止め方がわからなくて焦っている幼馴染のファンキーすぎる父親や、

等身大サイズのおもちゃのコスプレをしている不思議な子供や、

やたらと「漢(おとこ)」を押し出しておかしな動きと音楽を奏でる謎の男女5人組らとの邂逅により

それまでは誰かのやることについていくばかりだった主人公が、徐々に楽しかったり刺激的な出来事と出会い、自分のやりたいことに向き合っていくようになる。

ところが、これまでは誰かの言うことだけを聞いて笑ってさえいれば穏やかに日常を過ごせていたのに

やりたいことが見えてくるに連れて「自分から動き出さなくてはいけない、このままではいけない」と気付き、踏み出せない自分に悩み出してしまう。

そんな主人公の心が壊れてしまわないように、「外に出てはいけない」と訴えかけてくる仮面を被った主人公の心の闇たちと

仮面なんか外して外に出なよ!と訴えてくる男女5人組&幼馴染の壮絶なバトルが始まる。

そして闘いのあと、最後に残ったものは、、、

というのがざっくりとしたストーリー。


現実世界から徐々に精神世界との境目がわからなくなっていく世界観だったり、

モップやバケツ、身体を使って音を奏でるストンプを取り入れたり

普段物静かな典型的オタクのあそうたまきこーじに、超ハイテンションなムッツリスケベというナイスな役柄を演じさせてみたり

漢5人組の中の高木ブー的なポジションの役どころを演じさせた高木ブーa.k.aながぶーにハイトーンボイスで「俺に惚れるなよ?」と言わせて会場をザワつかせてみたり

もののけ姫の祟り神から着想を受けて、仮面の化け物たちにウネウネした動きさせてみたり

放送部とか友達とかを巻き込んでたくさんの人の声を入れて作ったキモいBGMだったり

こだわったところはめちゃくちゃいっぱいあるんだけど、

特にサイコーだったのがラストに主人公と幼馴染が2人揃って叫ぶ

「これからも、ずーっとよろしくねー!」

のセリフの直後に「ヒアインザスカイ(1:25の場所)」という歌い出しが入るところ。

役者と音響には徹底してぴったりハマるように練習しまくってもらった。

1年生の頃の僕の幕引きへのこだわりを後輩にもうまく引き継いだなと思った瞬間だった。

笑いあり、感動ありと様々な演出を取り入れた舞台が終わる。

定期公演の最後は、部長と演出家のマイクで締めるのが毎年の定番。

最後の挨拶のマイクを持って、終演後みんなが揃ったステージへ。

そこでようやく気付いた。

めちゃくちゃ観客がいる!

うわ〜!

感謝しかない。

たくさんの観客、そして支えてくれた部員たちの拍手と声援、花束をもらって泣きそうになった。


この日の集計の結果、観客は350名ほどだった。

昨年が100名ほどだったことを考えると約3.5倍。

大幅増だ。

いつも電車で話す他校の友達もたくさんいた。

合宿でながぶーのおかげで出会ったギャルの集団も1時間以上の距離を来てくれた。

2時間以上の距離をわざわざ来てくれた観客までいた。しかもたくさん!

嬉しい。

地元に戻ってきていた元カノも観に来ていて

「今までとまったく次元が違う。映画を観ているようだった」

と言ってくれた。その瞬間、椎名林檎の「正しい街」が頭をよぎった。

クラスのイケメンたちもノリと勢いで来てくれたんだけど

「ぶっちゃけナメてたけど、マジで面白かったわ!みっちーすごい!あと、あそうたまきこーじのサイコっぷりやべぇ笑」

と大評判だった。

舞台をやっていて、本当によかった。

ちなみにこの後ウチのクラスでは演劇ブームが到来して、お昼のおパンツタイムに音楽室のナイスな音響機材を活用して、大人計画とかキャラメルボックスとかの舞台を観ることが増えた。


部活も本当は夏の終わり(NHKでの放映)まで続けたかった。

ただ、弱小演劇部からスタートして、2年とちょっと。

気付けば350人もの観客が僕らを応援してくれるようになった。

まぁまぁ悪くはないラストなんじゃないだろうか。


僕らの演劇生活はこれで幕を下ろした。

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