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2023年の映画についての覚書


2023年日本公開作品でハマった順。


まとめ

 ストリーミングでは映画とドラマが分け隔てなく並ぶのは当たり前になって久しいが、Sight&SoundのThe Greatest Film of All Timが2022年に更新され、シャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』が一位に更新されたことに象徴されるように、映画でしか出来ない事が明確になってきたと感じた。映像が始まってから何を連続させ、何を断絶するか。例えば海外では高い評価を受けたマーティン・スコセッシ監督の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は確かに面白く、監督特有の『グッドフェローズ』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の様なノワール的な編集も冴えているものの、これはドラマで綿密に状況をもっと書き込むべきでは?と感じた。複数の視点を書き込むことで立体的に事件を浮かび上がらせる方が現代の磁場にふさわしいのではないか。そもそも「歴史もの」は史実の沿う形で起承転結を描くものであり、あまり映画というフォーマットには向いていないのかもしれないと『ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男』あたりから感じていたが、2023年ともなるとよりそう感じた。『Tar/ター』はキャンセルカルチャーや同性愛といった今日的なトピックにばかり焦点があたり残念だ。自分は主人公が依拠していた西洋史的な伝統から切り離されることと、長回しを中心に画を繋がっていたことから、反復によって切り分けられる様が見事にシンクロしていた事に最も興奮していたからで、そこで一番色濃く感じた作家こそシャンタル・アケルマンだった。この連続する時間の中で大きな事件も起きずに漸次的な変化を見せることこそが映画にしか出来ない事だと感じた。ウェス・アンダーソンは映画にしか出来ない事をずっとやっている作家だと思う。彼がずっと描いてきた乾いたユーモア、弱肉強食、暴力を行き届いたセットによって表現し、情報の濁流として100分前後で表現することをずっとやっている。『フレンチ・ディスパッチ』以降加速する複雑さは、すぐに「わかった!」と言えないものを作るという意味で、寧ろ観客への信頼を感じたのだが、ファスト映画と真逆の発想で作られたであろうこの作品に対する感想はあまり共有されなかった。アリス・ディオップ監督作『サントメール ある被告』、シャーロット・ウェルズ監督作『aftersun/アフターサン』は新しい息吹を感じた。(と同時に『ジャンヌ・ディエルマン』と『ノー・ホーム・ムーヴィー』の系譜だとも思った。)前者は監督の話を直接聞く機会に恵まれたが、非常に理知的かつレフトフィールドな方で、他者の痛み(もしくは監督におけるフランス)を自身のものとして感じ入るにはどうしたら?といった他者性を如何に取り込むかといった表現になっていて、後者は寧ろ個人的な記憶と断絶を語るという意味で、二つが2023年に公開されたことが非常に面白く感じられた。Twitter/Xでも記したが、『マエストロ』まで幾度も取り上げられたレナード・バーンスタインというアイコンもまた、彼の音楽的営為と私生活が多岐に渡る作家であり、常々他者性を取り込んできた人だからこそ向き合う必要があったのだと実感した。その境界線状の試行錯誤こそ今の映画の最前線なのだと思う。
 アメリカ映画のなかでもとりわけヨーロッパ的趣向をもつものに惹かれた中で、スティーブン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』とケリー・ライカート監督の『ファースト・カウ』には伝統的なアメリカ映画を強く感じることができたという意味で良かった。そして『君たちはどう生きるか』は映画と向き合ってきた作家でしか成し得ない作品だし、『EO』の眩い照明と円環を断続的なエピソードで語るのは恐らく不自然だろう。『枯れ葉』のも、例えば肉が肥大するベルトコンベアや賞味期限が切れて廃棄するといった作業に権力や政治を語らせ、暴力や弾圧を滲ませる世界観を84分で十分語りえるということを証明してみせる。

 2024年になり、前年のストライキの影響でハリウッド映画が映画館でかかるのは貴重な機会になるのかもしれない。しかし、例えばポップ・ミュージックが2010年代には北米中心にあったものが、今ではヨーロッパや南米、アジアに波及したように、映画も最早アメリカだけでなくフランスをはじめとするヨーロッパの作家が突出し、『ゴジラ-1.0』や『君たちはどう生きるか』が北米でも人気になる様相なので寂しさはあまり感じない。来年の今頃には寂しくてしかなかったりするかもしれないが。映画館で作品を見るという行為がもっとも映画に影響を与えると同時に、IMAXやドルビーのような設備に恵まれなくても特別な経験たり得ると実感したので、マイペースに映画館に通うつもりである。

PS 『異人たち』面白かった。もし入れるならtop5の何処か。

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