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「刃物を使う便利さ、そして使い心地のよさを体験してほしい」

増田切出工場 増田吉秀 「鉛筆硯」メーカー・インタビュー

鉛筆を心地よく削る。芯を良い塩梅に整える。そのためだけに専用に作った刃物「鉛筆切出」と、専用の「鉛筆硯」

職人の手によって丁寧に作られ、安全に、ブレる事なく、効率的に鉛筆の研削を可能にし、不慣れな方でも扱える、鉛筆削り専用の刃物です。

スケッチを始める前に、原稿を書く前に、アイデアを練る時に。スケッチブックや原稿用紙に向かう前に、まずは鉛筆を一本ずつきちんと削りながら、アイデアの断片を繋ぎはじめる。

文房具好きの方や、アーティスト、デザイナー、建築家の方など、鉛筆を使うことがインスピレーションの根元になっている多くの方に支持されているアイテムです。

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この鉛筆切出と硯を製作したのは、300年以上の歴史がある刃物の街、新潟県三条で昭和初期から物づくりの職人たちの作業を支えてきた小刀を作ってきた増田切出工場。父であり、現棟梁の二代目のもとで、当時と変わらぬ鍛造による製法を守り続けている増田吉秀さんにお話をうかがいました。



増田切出工場

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増田切出工場は昭和初期に開業し、現棟梁の増田健は二代目となります。木彫や大工の道具である切出小刀を手作業で作り続けて70年が経ちました。新しい材料や機械の登場によって、刃物作りの現場は変革してきましたが、増田切出工場では今も当時と変わらぬ鍛造による製法にこだわり続けています。いくつもの工程を経て鍛えられた打ち刃物は、他の刃物よりも切れ味が長く続きます。経験による勘と技術、そして先人の素晴らしい知恵を持って、今日も槌を下ろしています。


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増田健(写真・右側)1947年生 / 新潟県指定伝統工芸士
増田吉秀(写真・左側)1976年生 / 金型製造会社勤務後、2017年入工



この製品をつくる、きっかけとなった出来事を教えてください

祖父の代から私たちはずっと変わらないデザイン、そして用途である切出・小刀を作り続けてきました。しかし、現代の私たちの暮らしに添える、何か意味のあるデザイン、用途の製品が作れないのもかと私はずっと模索していました。

そう考えているときに新潟県を拠点に活躍しておられるデザイナー、TWOOLの和田紘典氏に出会い、あるとき彼から「僕こんなのほしいんですよね!」というデッサンを見せられたことがきっかけになって、この製品作りがスタートしました。

昨今、子供の手作業のモノづくり離れの話も私自身、ずっと寂しく思っていました。ですから、優れたデザインで、さらに子供たちにも安全に使える刃物を、というアイデアをつなぎ合わせることで、「鉛筆削り」に特化した刃物を作ることになりました。

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最終的な製品の形状やデザインが出来上がるまでに気をつけたことを教えてください

このプロジェクトのベースになったのは「使いやすい鉛筆削り」ですから、そのためには刃物はどのような形状や構造である必要があるか。また、子どこでも安全に使える刃物であることも考慮しながら最初にたどり着いたのは、円弧状の刃がついた刃物でした。

鉛筆を削る部分を「円弧状」にした事で、一般的な小刀に比べ、指を傷付ける心配も少なく、安全性がたいへん高くなりました。また刃付けも、鉛筆を削る際に円弧状の刃が一点に集中して削れるように配慮して刃物を使った鉛筆削りに不慣れな方にも削りやすく、作業が行いやすくなるようにしました。

もう一点気をつけたことは、これまでの切出しや小刀の刃はさまざまなものがザクザク削れるように刃付けがなされていますので、鉛筆削りとして使う場合には鉛筆の木部に食い込んでしまいやすい、という問題点があります。そこで鉛筆に特化して削りやすいよう、木部に食い込みづらく、しかし切れ味自体は落とさずにするにはどんな刃にすれば良いのか、ということに気を付けながら改良を重ねて開発していきました。

そこで円弧状の鉛筆削り専用の刃物は完成した訳ですが、ユーザーの意見をうかがっていると、円弧状の刃物だと、あまりにも用途が少なくて、物足りない。デスクに置いたり持ち運んだりするにはもっと広い用途があった方が良い、という意見が出てきました。そこでさらに円弧状プラス直刃を組み合わせることはできないか、と最終的な製品デザインに発展していきました。

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また「鉛筆切出」では「鞘」のデザインをどうすればいいか、ということも再検討した製品です。一般的に切出小刀と言えば持ち手までがすべて一本の鉄で出来ている「共柄切出し」のことを指します。この「共柄切出し」が優れているところは、素材の質感が握る手に直接伝わることで、まさに「刃物の原型」といえる、シンプルな形にその魅力があると私は考えています。ですからこの製品でも「共柄切出し」をベースにした設計を前提に開発を進めました。

しかしこの「共柄切出し」には鞘がありません。そこで使用者に安全に使ってもらうために、「刃物の魅力を損なわない合理的な鞘」を作ることはできないか。そこでこの鞘の存在をゼロから考えなおすことにしました。最初は鉛筆削り専用、ということから始まった開発でしたが、使用用途も広がったことから気軽にも持ち運んでもらえて、さらに使わない時の佇まいも大切にした「鉛筆切出」の鞘のデザインが決まりました。

さらにずっと書斎の机に置いていただくという用途も考えて、「硯」というデザインのアイデアが出てきたため、その用途を考慮しながら、和田氏と幾度も話し、試行錯誤を重ねて「鉛筆硯」が出来上がりました。NC加工機を使った木材の加工も自社で行うことにしたため、木部の素材選びから加工、仕上げにいたる細部までを配慮して製作しています。このようにして、このMASUWAシリーズの全体像が決まっていきました。

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この製品で使われている素材について、エピソードはありますか?

刃物の素材については、鉄と白紙2号の複合材を使っています。素材を鍛造をして鋼をより良い素材にしてあります。

この素材を使った理由は、弊社ではこの素材を昔ずっと切出・小刀の製造に使い続けてきたこと、また古くからのユーザーの方々にとってもこの素材が切った時、削った時の感触に慣れておられるだろう、と考えたことです。もちろん、切れ味、研ぎ直しのしやすさなど、どれをとっても最適な素材であると考えています。


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AssistOnのお客様にメッセージをお願いします

切出、小刀という道具は日本人にとって、ずっと生活に密着した、身近な道具でした。しかし現代においては大工や園芸をする人のための、専門職人のための道具、という位置付けになっていると思います。そこでもっとこの道具の良さをたくさんの人たちにも体験していただきたい。そんな思いから「刃物を使う原体験」として、みなさんに鉛筆を削るあの触感を思い出して欲しい、と考えてこの製品をつくりました。
新しい製品ですが、昔からあったような古さを持った道具、ステーショナリーです。鉛筆削りとしてだけでなく、荷物の開封から工作まで、広く生活道具として「刃物を使う便利さ、そして使い心地のよさ」を体験していただける道具を追求しました。

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「鉛筆切出」