実力
ひとしきり酔いが回ったあたりで、砂原茂禄子はふと何かを思い出したようにパッと顔を明るくした。新しく出たエッセイ集がかなり好評で、機嫌がいいのだ。
「そういえば亮子ちゃん、この間紹介してあげた彼とはどうなったの? 飯尾くん。いい子でしょ?」
同じテーブルにいた全員がぴたりと会話を止め、興味深げな視線が一斉に青谷凪亮子へと注がれた。青谷凪は砂原の新刊を担当した右往左往社の編集者である。
「あ」
それまで隣の女性と何やら楽しげに話し込んでいた青谷凪は、ハッと慌てた顔を砂原に向けた。
「そうでした。先生、その節は素敵な方をご紹介いただきまして本当にありがとうございました」
ざわめきが消えたせいか、天井のスピーカーから流れるテンポの速いKポップがやけに大きく聞こえる。
「そんなことはいいから。で、どうなったの? 飯尾くんとは上手くいった?」
「あ、はい」
青谷凪はすっと居ずまいを正し、テーブルに両手を置いた。
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