空の若葉
ボーディング・ブリッジの窓から見える機体はちょうど陽の光を反射して、眩しいほどの銀色に輝いていた。
「あれって初心者マークじゃないですか?」
前を行く天豊が指差した方向へ伊福も視線を送る。
機首の横に貼られているのは、たしかに初心者マークだった。黄色と緑に塗り分けられた若葉形のステッカーである。
「もしかしてパイロットが初心者ってことですかね?」
ゆるゆると足を進めながら天豊は不安げな顔でこちらを振り返った。
「そう言うけど、誰だって最初ってものはあるだろう。いきなりベテランにはなれないんだからさ」
「まあ、そうですよね」
伊福の答えに天豊も納得したようだった。
窓際の席に腰を落ち着けシートベルトを締めてから、伊福はぼんやりと窓外に目をやった。ちょうど真横に伸びている主翼の根元にも初心者マークが貼られていた。さらに中央部と先端部にも数枚のステッカーが貼られている。よく見るとかなりの数の初心者マークが貼られているようだ。
「何だかたくさん貼ってるな」
「あれって、飛行機どうしでちゃんと見えるんですかね」
「どうなんだろうな」
伊福は座席前のポケットから機内誌を取り出してパラパラと捲り始めた。
「本日はご搭乗ありがとうございます」
キャビン・アテンダントが薄い掛け布団を持って二人の席へ静かに近づいてきた。
「あれって何のマークなんですか?」
主翼に貼られた初心者マークを差して天豊が聞く。
「この便の機長が、機長としての初フライトを務めさせていただきますので、あれはその表示です」
アテンダントは笑顔で答える。そう。みんなこの笑顔で安心するのだ。
「たくさん貼ってあるのはどうしてなんです?」
伊福も聞いた。
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