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表と裏を合わせたい

 先日の表紙印刷に続いて、封筒表紙バージョンの印刷にも立ち会ってきた。刷ってくださるのは、前回と同じく浅草の裏通りにある日光堂である。

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前回、大活躍してくれた印刷機に特装版の紙がセットされている

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  凹み具合やらインキの乗りかたなどを細かく調整しながら、いよいよこれでOKとなると、あとは機械がどんどん刷っていく。

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どんどん刷られていく

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美しい、ああ美しい凹みだよ、活版。

 さて、今回の封筒仕様バージョンでは、フランス装版とはちがう活版が使われているのだけれども、それには理由がある。以前どこかにも書いたが、封筒仕様バージョンは型抜きした紙を折って表紙をつくるので、ちょうど折り返したところに印刷されている必要がある。つまり、裏にも刷っておかなければならないから、表用の活版と裏用の活版の二つの版が必要になるのだ。いや、もう一つ。封筒に差し込まれる紙にも活版でタイトルと著者名を印刷する予定だから、実は三版必要なのである。

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タイトルと著者名の書かれた紙と、オリジナルプリントが差し込まれます。
(写真はまだお見せできませんが、幡野さんが「せっかくなら、机の上や壁などに飾れるものがいいでしょう」と選んだ一枚です)

 それなりに部数はあるものの、さすがは都内にもわずかしか残っていない機械活版である。一時間ほどで、風合いのある表紙が刷り上がる。早い。
 さあ、こうして表紙の裏面を刷り終えたところで、今度は版を変えて表面を刷るのだけれども、これがなかなかの難題だと判明したのだ。

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右側には裏面の押し跡がくっきりと見えている

 表と裏、紙の両面を活版で印刷するのである。しかもただ印刷すればいいのではなく、最終的にはこれを型抜きして、さらに折って、ぴったりと封筒型の表紙にしなければならないのだ。わずかでもずれがあると折ったときにおかしなことになってしまう。通常の印刷なら表と裏がそこまで厳密にそろっていなくても大丈夫だが、今回に限って言えば、完璧にそろっていなければならないのだ。えらいことなのである。
 試しに刷ってみるが、表と裏とでトンボの位置が微妙にずれている。少しずつ位置を微調整していくが、なかなかぴったりにはならない。微妙なのだ。とにかく微妙なのだ。それでも、ここは何としてでも表と裏をぴったり合わせたい。

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表と裏で微妙にトンボの位置がずれている

 ここから先はもうコンマ1ミリ以下、ミクロ単位での微調整である。しかもすべては人間の手と目で行う微調整なのだ。僕は何か言うとしても、せいぜい「あ、だんだんぴったりになってきましたね」くらいのことしか言えないので、ただ黙って見ているのみである。

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 それでも試行錯誤しているうちにだんだんと表裏の位置が合ってくる。うまく言えないけれども、とにかくその微妙さが見事なのだ。
「これで、どうでしょう?」
「いいと思います。トンボの表裏、ほぼ一致していますね。大丈夫かと」
「それじゃ、これでいきましょうか」
「はい」
なんて会話をしているところに、突如、大ベテランのお母さんが緊急参入してきた。
「これね、もうちょっとだけ針をいれなさい」
 印刷された紙の表裏を見て指示を出すお母さん。針とは何のことなのか、僕にはさっぱりわからないが、もちろん息子にはわかる。

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大ベテランのお母さんが厳しくチェック

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微調整を繰り返す

 そうして刷り出された紙を確認する僕たち。
「おおおお、完璧だ。表裏のトンボを触っても凹みがわからない!!」
僕は思わず声を出した。表と裏の活版がぴったりの位置で互いに押し合った結果、両方の凹みが完全に消えたのである。
 それまでだって充分に一致していたのだけれども、さらにそれ以上に一致したのだ。いやあ、お母さん、すごすぎます。さすがは大ベテランです。ありがとうございます。
 裏と表の両面を活版で刷った表紙は、このあと製本所で型抜きされ、一枚ずつ手で折られることになる。いよいよ本の形になっていくのだ。
 けれども、その前に僕にはもう一つ重要な仕事があった。本文の印刷チェックである。表紙ばかりに気を取られているわけにはいかないのだ。本文の印刷は長野県松本市にある藤原印刷の工場で行われる。
 僕は長野へ向かうことにした。

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 と、そんな感じで着々と進んでいる『ラブレター』。通常のフランス装版はまだまだ余裕がありますし一般書店でも販売されますが、封筒表紙の特装版は制作数に限りがあるため、事前に予約できる数も残り僅かになっています。ご興味のある方はどうぞお早めにお申し込み下さい。



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