幡野広志『ラブレター』制作中
先だって、幡野さんの本をつくることになった話をここに書いた。
「ひょんなことから幡野広志さんの本をつくることになったのである。」
封筒型の特別装丁とフランス装丁の二種類の制作が淡々と進んでいく。
フランス装はほかの書籍でもときおり見かける装丁だから、製本所としても慣れているし、それほど大変なことにはならない。
一方で、封筒表紙版は、一枚の大きな紙を折ったときに、ちゃんと封筒の形になっていて、しかも表紙にもならなければいけないから、紙のどこを山折りにしてどこを谷折りにするかを展開図にする必要がある。折る前の紙もトムソンで抜いて、正確な形をつくっておく必要がある。
展開図
トムソンというのは、刃を並べたり曲げたりして、紙きれいに切り抜くための型のことだ。練ったタネを動物の形にくり抜くクッキーの型を思い浮かべてもらえばいいかもしれない。パッケージのダンボールなんかもトムソンで抜いてあの複雑な形をつくっているのだ。
ちょいと話は脱線するが、トムソン型は本当はトムソン型ではないのである。かつて日本の印刷工場に輸入された型抜き加工機がトムソン社のものだったからトムソンと呼ばれるようになっただけで、もっと細かい話をするとビクトリア打抜機を輸入した工場が多かった東日本ではビク抜き、ビク型と呼ばれているらしい。
ともかく今、そのトムソン型というかビク型というか、その抜き型と、紙を折るための展開図をデザイナーと印刷会社がつくっている。今回の僕はデザイナーやアートディレクターの立場ではなく編集者だから、この手の作業にはいっさい手を出さず、気鋭のデザイナー吉田さんと、変態印刷会社藤原印刷にお任せしている。
まもなく最終版の束見本が上がってくるはずだ。任せているぶん具体的なイメージが僕の頭にはないから、かえってできあがりが楽しみになる。
トムソン型
表紙のデザインについては吉田さんと藤原印刷にお任せしているが、本の中身は僕がやらねばならない。吉田さんからのアイデアと僕の考えを混ぜて、各章のタイトルは幡野さんの手書きにしよう、あとがきも手書きで書いてもらおうなんて話で大いに盛り上がる。もちろん手書きにしようぜと盛り上がるのはいいのだけれども、書くのは幡野さんで、それをお願いするのは僕の役目だ。『ラブレター』は、これまでの連載記事をまとめる本だから、幡野さん自身にはそれほど負担がかからないはずだったのだけれども、写真をセレクトしてもらったり、あれこれと手書きしてもらったりと、けっこうな無理をお願いしている。どうやら装丁を凝るだけでは僕の気がすまなかったみたいです。幡野さん、すみません。
さて、最初に原稿が整った段階から、校正/校閲は牟田都子さん(@s_mogura)にお願いしようと決めていた。お仕事の細やかさだけでなく、普段から書かれているものなどから、たぶん幡野さんの今回の文章とは相性がいいだろうと思ったのだ。お忙しいのは承知でお願いしたところ、快くお引き受けくださった。ざっと僕が手を入れただけの原稿をお渡しすると、本当に丁寧に鉛筆を入れて戻してくださった。
牟田さんから戻ってきた校正
「こんなに細かく見てくださったんですか!」と、幡野さんからも驚きと喜びの混じった声が上がる。さすがは牟田さんだなあ。鉛筆の入れ方がただ的確なだけではなくて、幡野さんの考え方や思考に沿った雰囲気での鉛筆だから、原稿がどんどんよくなっていくのだ。
牟田さんからの指摘を一つずつ考えながら幡野さんの直した原稿を、こんどは吉田さんに渡す。原稿の分量がほとんど確定したので、ここで僕はどのページに何が入るかの設計図、台割りをつくりなおした。
台割り
「240ページで決まりですね」「原稿には細かく手を入れたので、もしかすると1〜2ページほど余裕が出るかも知れません。そこは遊び紙にしましょう」「それなら、優くんの写真をいれましょう」
そんなやりとりをしたか、しなかったか、あまり覚えていないけれども、どもかく本文のデザインもいよいよこれで完成する。
だがしかし、ここで甘えてはならないのだ。僕はデザインができあがった状態の原稿にさらに若干の手を加えたあと、再び牟田さんにお送りした。
「二度目の校正をお願いします」「はい」
またしても快くお引き受けくださった牟田さんから、やがて二度目の校正が戻ってきた。
「柱の日付ですが、連載時の日付はこうなっていましたよ」「!!!!!」あんなに何度も見直しているのに、なぜ気づけないのだ僕は……。
痛恨のミス(見つけていただいて良かった)
こうしてついに中身も完成した。あとはデザイナー吉田さんが最終的な調整を施して、藤原印刷に送り込むだけである。送り込んだら、あとは印刷が始まるだけである。本になっていくだけである。もちろんその前に束見本やら校正刷りやらが届いて、最終チェックはするのだけれども、ともかくこちらの作業はほとんど終了なのだ。
本文原稿もすべて直して、いよいよ印刷へ
だが、しかし。だが、しかしなのである。
実は、何部印刷をするのか、僕はまだ決め切れていないのだ。たくさん刷りすぎると大変なことになるし、少なければ欲しい人の手元に届かない。本当に難しいのだ。
なのでみなさん、もしもこの本にご興味があるようでしたら、下記の予約サイトから、ご予約をお願いします。その数を考慮して、印刷する部数を決めようと思っています。
『ラブレター』ためし読みは、こちらから
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