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【絵本レビュー】 『のはらのいえ』

作者:松居スーザン
絵:降矢洋子
出版社:福音館書店
発行日:1999年2月

のはらのいえ』のあらすじ:

ちいさないえは、ハーモニカの好きなおじさんとたのしく暮らしていました。 ところがある朝、「とおい まちへ いってみたくなった」とおじさんは旅立ってしまったのです。 おじさんと歌ったうたを歌いながら過ごしていたのはらのいえでしたが、冬になる頃にはすっかり寂しいあばら家になってしまいました。 そして春を迎えたのはらのいえは──。


のはらのいえ』を読んだ感想:

家も住人が帰ってくるのを待っているのかな、と考えさせられました。

今私たちが住んでいるアパートは、しばらく放って置かれたものでした。年配の夫婦が住んでいたらしいのですが、何かを機に急に家からも出ず色々溜め込んで、最終的には追い出されてしまったとのことでした。誰も借り手がいなかったそのアパートを私の大家さんが買い、修復していたところを私たちが借りることになったのです。条件は、アパートを住める状態にすること。その間六ヶ月間で家賃はなしでした。

ところが作業は思ったより大変でした。床はカーペットの粘着剤がこびり付き、壁もむき出しの状態でした。湯船は黒くくすみ、トイレに至っては黄ばみどころか黒ずんだ茶色となり、何を試しても取れませんでした。まるで家が放っておいて欲しいと言っているみたいに。

漆喰も塗って台所も作り、なんとか住めるようになりました。もう六年も経ちますが、なんだか家という気がしないのです。間接照明に変えたり、畳を置いたり、壁一面を本棚にしたりとそれなりに工夫をしているのですが、やっぱりよそよそしい気がします。
「この家には何かあったのかもしれない」
なんてことを旦那とも話したことがあります。でもこの絵本を読んで気がつきました。きっとこの家は前の住人にちゃんとさようならが言えなかったんじゃないかと。急に出て行ったので、地下にある物置はたくさんのものが残っていました。古い写真や衣服、ペンキに大量のネジ。どうやらものを集める性格だったようです。そんなものが残っているうちに持ち主が変わり、急に家の模様替えが始まったのだから、家としてもたまったものじゃありませんよね。

そう言えば息子がまだ一歳くらいの時、よく食事中に部屋の隅を見上げてにっこり笑ったり、自分のご飯を上げようとしたりしていましたっけ。「前の住人もしや死んだとか??」なんてビクビクしていましたが、息子はもしかしたら家と話していたのかもしれません。だって一度も悪いバイブを感じたことはありませんから。

この秋、私たちは六年越しの大企画を実行しています。台所の改装です。ようやっと食器棚がつきます。この六年間セミキャンプのように暮らしてきた私にとっては、棚ができただけでウキウキなのですが、この一、二週間家の緊張も薄れたように感じるのです。家が私たちを受け入れてくれたのかもしれません。そうだったらいいな。もうしばらく、宜しくお願いします。


ほー ほー ほろろん ほん
さららー たららー ほろん ほん

息子はこの歌が気に入ったようで、今朝も朝ごはんを食べながら歌っていました。もしかしたら、家もこの歌が好きなのかもしれません。


のはらのいえ』の作者紹介:


松居スーザン
1959年、アメリカ北東部で生まれ育つ。ウィリアムス大学とザルツブルクのモーツァルテウムで作曲を学ぶ。1982年に来日し、子どもの本の創作や作曲活動を始める。『森のおはなし』『はらっぱのおはなし』(共に、あかね書房)で、路傍の石幼少年文学賞、『ノネズミと風の歌』(あすなろ書房)で、ひろすけ童話賞を受賞。絵本に『それはもりのこもりうた』(童心社)、童話に『旅ねずみ』(金の星社)、『かっぱの虫かご』(ポプラ社)、『にひきのいたずらこやぎ』(佼成出版社)、紙芝居に『クモヨばあさんのすばらしいす』(童心社)ほか多数。 現在マサチューセッツ州の北西部で鍛冶屋の夫と暮らす。創作や作曲活動をつづけながら、学校の音楽の先生、教会のオルガニスト・音楽ディレクターをつとめている。


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