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【絵本レビュー】 『なんにもできなかったとり』

作者/絵:刀根里衣
出版社:NHK出版
発行日:2015年7月

『なんにもできなかったとり』のあらすじ:

なにをやってもうまくできない不器用な一羽のとり。
そのとりは、当時、無力感を抱いていた作家自身でした。
生きるとは何か、幸せとは何かを考えさせられる結末に、心が震えます。


『なんにもできなかったとり』を読んだ感想:

何をしてもうまくいかない時ってありますよね。することすることが上手くいかず、悪い方向に進んでいく。そんな時は誰にでもあるはずです。

ただそんな日が続くとだんだん自己否定し始めるようになって、なんだか自分がどうしようもない役立たずに思えてくるのです。

教育学科にいたにもかかわらず、私は将来、文化による習慣や行動の違いを研究する人か、文字を書く人になりたいと思っていました。学部にはもちろんそんなことにアドバイスをくれる人はいなかったので、私は盲滅法に就職活動を始め、大学3年後半から4年の夏過ぎまでただひたすら履歴書を送りました。周囲は親のコネを含め次々に就職先を決め、残りの大学生活を楽しんでいるように見える中、私はほぼ全滅。不合格通知だけでも70通は超えていたと思います。最初は働きたいところを選んでいたけれど、だんだんそうも言ってられなくなり、関係する会社に片っ端から履歴書を送ってはみるものの、やはり明るい返事は来ませんでした。そのうち一体どの会社に送ったのかもわからなくなり、何度か同じ会社に2回も履歴書を出したこともありました。4年の夏を過ぎるとゼミのない時は大学に行く必要もないし、お金もないので家でぶらぶらしていることが多くなりました。

そしてそんな私を父は「寄生虫」と呼ぶようになりました。もともと仲が良かったわけではないので、やはり家で過ごす時間の長い父との関係は悪化するばかりでした。家にいるのも居心地が悪いので、私はよく自転車に乗って湾沿いを走ったり、座って遠くに浮かぶ貨物船をぼんやり見たりしていました。でもやっぱり一人になると、「私って誰にも必要とされない、なんの役にも立たない人間」という思いが強くなるのです。ひとりぼっちで淋しくて、世間から見捨てられた気がしていました。

結局大学卒業時にも仕事は決まっていなく、3月も終わりに近づく頃アルバイトとして業界新聞社で仕事を見つけました。月金の仕事とはいえ午後1時過ぎには終わってしまうし、バイトだしということで、うちの父はあまり満足していなかったようですが、私の書いた文字が印刷されて知らないどこかまで届いていると考えると、毎日とてもワクワクしました。

その数年後私は日本を離れ、もう20年以上経ちました。いろいろなことをしてきましたが、私の周りにはいつも話を聞いてもらいたい人たちが集まってきているように思います。それが、コロナ禍でコーチングという資格を取ろうと思ったきっかけでもありました。

話したい人の話を、きちんと聞いてあげたい。

理由は単純かもしれませんが、私には十分なモチベーションとなりました。なんの役にも立たなかったんじゃなくて、あるものに、みんながしていることに自分を嵌めようとしていたんだな、と今の私にはわかります。できることはもしかしたらその枠の外にあり、それは枠の中でできることと同様に大切な役割である。そんなことをこの絵本に気付かされたような気がします。

あなたにできることって、なんですか。




『なんにもできなかったとり』の作者紹介:

刀根里衣
1984年、福井県生まれ。2007年、京都精華大学デザイン学部ビジュアルコミュニケーション学科卒業。2010年、ボローニャ児童書ブックフェアに持ち込んだサンプル絵本がイタリア人編集者の目にとまり、2011年、“Questo posso farlo”を刊行。『なんにもできなかったとり』は、その日本語版。2012年より2年連続でボローニャ国際絵本原画展に入選をはたし、2013年には国際イラストレーション賞を受賞。受賞作を絵本化した“El viaje de PIPO”は各国から高い評価を得、メディア等で話題となる


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