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『むらさきのスカートの女』読了 異常なのは誰? ※ネタバレ注意

あらすじ

定職のない女性・日野は、巷で「むらさきのスカートの女」と呼ばれている。
彼女を見守る「黄色いカーディガンの女」こと権藤は、日野を自分と同じ職場に就職させることに成功するが、彼女とは一向に話す機会がない。
就職に成功した「むらさきのスカートの女」は、職場で様々な出会いや変化があり・・・。

不思議な読了感

「え、何の話?」

読み終わった後、一番最初に思ったことだ。
無論爽快感は一切なく、大きな謎を残すわけでもなく、何が起こったのかよく分からない、不思議な読了感を味わった。

平たく見ると、「むらさきのスカートの女」が定職について、変化していく話である。
しかし、その変化や過程には謎が多く、その謎が解明されないまま、物語は突然集結する。


異常なのは誰だ

不思議な読了感の理由は、「むらさきのスカートの女」の謎が解明されないだけではない。
この物語の要は、彼女ではないのではないか、と思い知らされるためだ。

そう、「黄色いカーディガンの女」こと権藤の異常性が、明確になったからだ。

序盤から、権藤の破天荒っぷりは目についた。
「むらさきのスカートの女」とは正反対の行動力と明るさのある女性だ。

しかし終盤、権藤が日野に接触する場面がある。
その場面で、権藤の異常性が明らかになる。

日野からみた権藤や上司から見た権藤など、ここで初めて権藤が客観的に語られるためだ。

そういえば、なぜ権藤は日野のことをずっと見ているんだろう?

日野が関与しているとされている事件に、権藤が関わっているのか?

権藤にとって、日野は何なんだろう?

上述の通り、権藤に対する疑念は全く語られず、物語は終わる。


「語り」が平凡であるとは限らない

この物語は、「むらさきのスカートの女」という題名で、始終「むらさきのスカートの女」の動向が語られる。

したがって読者はこの物語が「むらさきのスカートの女」の話であり、彼女がどういう人物で、どんなことを繰り広げていくのか、と考えながら読むだろう。

しかし、本作はおそらく彼女の話ではない。

最初から「むらさきのスカートの女」をストーキングしていた、権藤の話である。

そういえば物語は、必ず「語り」に支配される。
そのため、「語り」は平凡であることが多い気がする。

様々な個性を持つ物語の登場人物を際立たせるためだ。

このような無意識的な先入観が、「この話は権藤に着目するべき話ではない」と錯覚させていたのだ。

最初から、権藤の異常行動の伏線は沢山張られていたのに。

初めての騙され方をした、という点で面白い作品でした。


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