見出し画像

あなたは何もおかしくない。

『自分の周りの環境に変化があったときに、自分が不安定になるのはまったくおかしなことではない。』

同じことを言っている記事や本はたくさんあるし、人に言われたらそれはそうだと理解する。
でもどれだけ頭でわかっていても、心の奥底ではわかっていないというか。自分の中でなかなか受け入れられずに必死に抵抗することってやっぱりあるんだなぁと。

 新しい土地へ引っ越したとき
 外国に住み始めたとき
 出張等で長期間移動生活が続くとき
 単身赴任が始まったとき
 家族が単身赴任で遠くに行ってしまったとき
 事故が起こってしまったとき
 こわい事故や災害に遭遇してしまったとき
 自分責任ではない(と自分は認識している)トラブルに巻き込まれたとき
 突然自分に病気がわかったとき
 大切な人に病気がわかったとき
 自分にこれまで当たり前にできていた何かができなくなると知ったとき
 出産して子どもを育てる責任の重さに気づいてしまったとき
 失恋したとき
 離婚したとき
 相手から離れたことを後悔するとき
 コロナで自分の生活スタイルがガラリと変わったとき
 人に会えなくて全然しゃべらない日が続いたとき

人はそれぞれにいろんなことを経験する。

だから生きている限り、誰もが経験することの一つなのに、なぜ自分はみんなが通り抜けてきたことにこんなにも不安を感じているんだろう?
みんなやっていることのはずなのに、何をこんなに動揺しているんだろう?

何か特別嫌なことに遭遇したわけではない。でもふとした瞬間に、小さな何かが契機になって、思いもよらぬ感情が溢れ出すことがある。

私の場合は、ずっと目標にしていたノルウェーに来ることができて、幸せ〜!って思う瞬間と、自分でもよくわからない焦りや不安が消えない瞬間と。日常の中でその差が激し過ぎて、混乱して自分がついていけないというか。夜中の3時まで全然眠れなくなったり、非現実的な嫌な夢をいくつもみて目覚めたりした。

ーーーーー

よく、ALSの人には感情失禁という症状があるという。
嬉しくないのに笑いが止まらなくなってしまうとか、悲しいわけじゃないのに涙が止まらなくなってしまうとか、別に怒りたいと思っていないのに怒りが収まらなくて些細なことにキレてしまうとか。

これは病気の症状だからどうしようもないことで、周りはそういうこともあるんだとよく理解しておかなければならないと言われている。
何も間違ってないし、正しい。そして感情失禁を経験している人はたくさんいる。

けど、必ずしも病気だからそうなるわけではない、とも私はずっと思っている。(私は医療者ではないからそう言えるのかもしれない。けど。)

だって考えてもみて。
身体は思うように動かない、さらに自分の声でしゃべることもできない、自分は必死にしゃべってるのに聞き取りづらい声しか出せなくて相手はわからなくて困った顔をする…
仮にそんな状態に3日間置かれたら、誰でも発狂しそうになるし、実際怒ったり泣いたり叫んだりして、側から見たら狂った人のようになってしまうんじゃないかな…。

今ノルウェーで、状況は全然違うけど私も言いたいことが言えないもどかしさを感じている。
考えるのは日本語がメインで、話すのは主に英語で、話したことをまたノルウェー語でどう言うか考えて口に出して。日々、ノルウェーで感じることは山ほどあるのに、どう言うかわからなくて表現できなかったり、タイミングがずれてしまったり。
自分が嬉しかったことを伝えたいのに、自分の気持ちにぴったり言葉を頭の中で探している間に、伝えたい相手はもういなくなっていた、会話が別の話題に進んでしまった、というのはよく起こる。

状況は違っても もしかしたらこんな感覚なのかも、と私が関わってきたしゃべれない人たちに想いを馳せてみる。彼らを近くに感じる。

感情失禁に話を戻すと、介護をする家族やヘルパーが本人の感情の爆発を全部受け止められるかと言われれば、それもまた難しいこと。
頭では「感情失禁という病気の症状だからしょうがない」と理解していても、実際に相手がなぜ泣き続けているのかわからないまま寄り添い続けるのはきつい。しかも本人にすらよくわかっていない感情だったりするから、なおさら。

一番近くにいる家族は、自分が感情失禁を起こしそうなことだってたくさんあるはず。でも自分がしっかりしなきゃって思って、緊張の糸を張り詰めていることもあるよね。本当につらいよね。

病気や障害を抱えている人をサポートするシステムはもちろんだけど、サポートしている人をサポートするシステムが日本にもできていったらいいなと思う。みんなが無理したら、そこには崩壊しかやってこないから。

ーーーーー

私はノルウェーに来て時間に余裕ができたこともあるのか、不思議と過去のことがたくさん思い出されて、そのとき無視していた感情がものすごい勢いで蘇ってきて、自分が清算しないまま抱えていたものの大きさに圧倒されて、息苦しくなったし動けなくなりかけた。

とにもかくにも、つらいときにできることは、何もしないこと。ボーッとすること。好きなことだけすること。信頼できる人に気持ちを話すこと。

自分が抱えているおそれや不安が他人を傷つけることや、他人への暴力に変換されないことだけ気をつけていれば、それでいい。

そして自分が自分自身を見放さない、しっかりつなぎ留めておくことに集中していれば、また次の日が来て、そのまた次の日が来て、時間はかかっても少しずつ楽になりながら人生を続けていくことになる。

日本の友達にたくさん助けてもらいながら、そんなことを自分の身に染み込ませている。
きっと何歳になっても、頭で理解していても心が追いついてこない瞬間はある。それが普通だし、だから人として成長できるよね。

ーーーーー

という、今の私が知っていることを、再び大きく揺さぶられる瞬間が来た未来の自分もちゃんと知っておいておくれ〜。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?