見出し画像

【即興小説】絵描き

画用紙を抱えて家を出た。
時計は持っていくのをやめた。

この家には戻ってくるか分からない。
戻らないことを決めたときは、何らかの手段で売り払おう。ずっと「不明」の状態では迷惑だ。
家の中にある生活雑貨や家具もそのまま売りに出してもらおう。どうやって遠方から売ればいいかな?
そういや知らなかった。何も計画はないし、今までもそんな感じで生きてきた。やっぱり、家なんて持つんじゃなかったな。生きてるだけで迷惑をかけてばっかりだ。

私は私が描いたものを実現することができる魔法を持っている。
何でかは知らない。
絵を描くことが好きで、好きで好きで、ただ描いていたらできるようになった。
子どもの頃、写生していた花が画用紙から出できた。
絵に描いた拙いままではない。
目の前にある花がそのまま増えたみたいに、ぽんっと画用紙から飛び出した。
下手か上手いかは関係ない。
私が絵に描きたいと思ったものはそのまま出てくるのだ。
目の前に見本の花があったから、能力は私のイメージをそのまま現実へ写し出した。
では、空想で描いたものは?
幼少の私はもちろん試した。
誰の意思が混ざったかは分からないが、本物の人間が出てきてしまった。
これには私も怖くなった。
ただ、適当に、雑な線で可愛い女の子の絵を描いただけなのに。
その子は野に放した。その後どうなったかは知らない。
怖くなったと同時に、なんでも手に入ると思った。友達も両親もお金も。
でも怖いから描かなかった。

描いたものがなんでも現実になるわけではなかった。私が心で実在を望めば出てくるが、それほど望まなければ絵は絵のままだ。
画用紙ではなくても、地面や石板に描いても飛び出てきた
私は指と地面、岩と泥があれば何でも出すことができた。
でも画用紙に描くのが好きだった。何を描いたか、残すことができるから

私は絵を描くだけで楽しかった。
たまに寂しいときもあったが、そのときは絵を呼び出せばいい。
絵を描いて、絵と遊んで、私はやがて成人年齢になった。
正直、仕事は困っていない。
小さな商人として生活していた。
なんでも出せるのだから困らない。
でも目立ちすぎることが困るのは、さすがに大人になるまでに知ることができていた。

この家も出した。
どうやら、一度出したものは仕舞えないらしい。
出したたら出しっぱなし。
彼らは、もうこの世に存在してしまっている。なかったことにはできない。
罪悪感に悩む時期もあったが、そんなこと考えていては生きてはいけない。忘れることにした。

なので、私が出したこの家も小道具も一生消えない。邪魔になるだけだ。なので売ろう。そうすれば誰かの資産になり、みんな幸福だ。
昔、ふと疑問に思って、これらの品々は劣化するのかと考えたことがある。
正解は劣化はきちんとするらしい。
現れた時点で時間が始まる。
傷は付くし、強度は落ちるし生物は歳を取る。よかった。不老不死では違和感あるもんな。

そう、飽きたんだ。
わりともう、欲しいものは出し尽くした。
だから、この地を離れようかなって。
寝袋は持っていこう。寝る前にいちいち絵を描くことは面倒だ。

この小さい土地を離れて、ふと気がついたことがある。
いや、考えないようにしていたことがある。
私が想像する「世界」の絵を描いたら、一体何が出てくるのだろう。
そうだなあ。この旅に飽きたら、描いてみようか。


12月3日(日)コミティア146に出ます。
準備進まなすぎて息抜きの即興小説です。
今まで即興小説トレーニング様を使ってたのですが、サービス終了してしまい…。かなしい。
引き続き準備頑張ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?