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怒りについて - 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』とキップ・ハンラハン

先週末はアップリンク京都に2日続けて居た。映画史的に重要だとされる2作を観るために、2時間半を捧げてきた。(ちなみにもうひとつの映画は『ラストエンペラー』だが、これはまた別の投稿にする)

『ヴェルクマイスター・ハーモニー』を監督したのは、ハンガリーの名監督タル・ベーラである。7時間の叙事詩『サタンタンゴ』の次に撮った作品で、なんと2000年の作品である。全然見えない。もっと遥か昔の作品に見える。

作品について簡単に言ってしまえば、貧しい街と人に襲いかかる暴力(他所からやってくるので戦争のメタファーでもいいかもしれない)。この映画に関してのタルベーラ自身の言葉として、

スクリーンに映し出される登場人物たちを愛してほしい。
そして彼らが破滅していったように、あなたたちも破滅してほしい。
―タル・ベーラ

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とあった。
暴動が終わると確かに誰もいなくなった。でも破滅したわけではない。扇動したものだけが悪ではない。またどこかで平然と繰り返されるだろう。そんな世界に私たちは生きている。

パンフレットには「すべてアテレコにしたのは、私が現場で怒鳴り散らしていたからだ」という監督の言葉がある。今の時代にはありえない話だが、映画には必ず怒りが内包されていると思っているので、自然な話かもしれないとも思った。(とはいえそんな中で仕事はしたくないが)

これを見て思い出したのは、ニューヨークラテンの開祖キップ・ハンラハンである。彼もスタジオはおろかライブ中でさえも怒鳴り散らしていたらしい。調べてみたらなんと同じ年齢だ。感じてきた時代が一緒なのだろう。彼らに共通する怒りは強烈なエネルギーを伴い、作品に落とし込まれている。見れば、聴けば分かるはずだ。

キップ・ハンラハンの現時点での新作は『Crescent Moon Waning』。無人偵察機と凄惨な戦場の写真がジャケットになっている。欠けていく三日月を人類の未来になぞらえているかのような作品だった。

日本は怒りについてあまり口にしない。現代において暴動なんて起きない。パンクも流行らない。これもある種の漂白された怒りの歴史かもしれない。学生運動があったあの頃が良かったなんて全く思わないが、牙や毒が抜かれ、ぬるま湯につかったまま老成を迎えていることに少しだけ危機感は覚えている。

ハンガリーの、アイルランド移民の、ふたりの1955年生まれの怒れる老人は警鐘を鳴らし続ける。そして彼らが望まない方向へ世界は向かっている。


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