猫が拾ってきた出会い
うちの猫は、変なものを拾ってくる。
ゴキブリやネズミの死骸はふつうだが、ペットボトル、赤いビーズの腕飾り、そして今度はツバメのヒナ。
「ミケ、どうしろっていうの」
私は途方に暮れていた。ミケは無邪気な顔をして、ツバメのヒナを土間に置いている。 私はヒナにかがみ込んだ。ひどいケガだ。
「ママ、それってツバメのヒナ? うちで育てようよ」
部屋の奥から聡が近づき、のぞきこんだ。私は言葉をにごした。
「聡、このツバメのヒナは保健所に連れて行きますよ」
「ええーっ。飼えないの?」
聡がガッカリしたように言うので、私は息子の頭を撫でた。
「法律で決まってるの。それに、これだけ大けがをしていたら、うちで手当は出来ないわ」
「動物病院に連れて行けばいいじゃないの」
聡は駄々をこねたが、私はそれを無視して、猫とみんなで保健所へと向かっていった。
保健所は、動物の体臭と喧騒でいっぱいだった。担当の穂高さんは細身だったが、優しい瞳で声も穏やかだった。第一印象は「ハンサム」。彼は「応急処置が必要です」とケージの中にヒナを入れる。部屋を暗くし、さっそく手当だ。消毒液の匂いがした。そして冷静に診断を下した。
「これは、カラスにやられたケガですね」
人見知りしない聡は、すっかり穂高さんになついてしまった。
「お兄さん、パパは、ずっと前に死んじゃったの」
「そうなんだね。聡くんは、お母さんを守らなきゃだめだよ」
それから穂高さんは、手当の手をとめて、遠い目になった。そして呟くように言った。
「聡くんを見ていると、昔、救えなかったツバメの子のことを思い出します。今度のヒナは、ぜったいに救いますよ」
穂高さんの意外な過去を知って、私は胸が痛んだ。
「頑張ってください」
「有り難う。どんな状況でも動物たちは、精一杯生きている。僕たちも見倣わなくちゃね」
「穂高さんって、ちょっと堅苦しいですね。子どもを前にして、緊張してるのかな?」
「あはははは」
ミケは満足そうに喉を鳴らしていたが、また外へ駆け出した。
聡は言う。
「今度は、何を拾ってくるのかな」
「新しい出会いかも」
私の冗談にみなは噴き出した(了)。
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