内藤哲也の存在

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なぜ、内藤哲也なのか。
久しぶりのプロレス観戦と決めていた私にとってそれは重要なテーマだった

武藤敬司引退試合。
直前まで相手が未発表だったため、SNS等で相手予想が過熱。
中でも私は、今やハリウッドのトップ俳優で元WWEのトップだったザ・ロックや武藤屈指のベストバウト・高田延彦に夢を見た。

そして発表された内藤哲也。
現役トップとはいえ、先の相手予想をしてた私からすると正直期待はずれだった。
しかし、プロレスとはなぞかけだ。
考え応えのあるテーマこの上ない。

そして出した答えが武藤からバトンをもらうこと。


武藤にとってプロレスはゴールのないマラソン。
しかし人工関節を埋め込んだヒザは限界を迎え、ゴールを設定した。
そこでこれからも続くプロレスの未来へとバトンをつなぐ。
その役として内藤は指名された。
武藤に憧れた内藤がその最後の相手になる。
その内藤をみてレスラーを志す子が―。
そんな将来を武藤は見据えている。

では、武藤からバトンを受け取るにはどうしたらいいか。
それは、内藤哲也という存在を見せつけることだと私は定義した。

元日のムタ中邑が好例だ。
WWEのスーパースターSHINSUKE NAKAMURAが武藤の悪の化身グレートムタとシングルマッチ。
ムタとNAKAMURA、二人の天才が紡いだ最高の試合となった。
試合後のバックステージでNAKAMURAは、「ムタは俺にとってのアイドルだった。」と語り、涙を流した。その姿はプロレス少年の真輔少年に映った。
そしてNAKAMURAはムタからバトンを受け取った。

武藤と内藤。
実は11年前に、二人は対決している。
場所は同じ東京ドーム。
試合は終始武藤がペースを握り、完全なる武藤敬司
の”作品”となった。
そこに内藤の存在はなかった。
いたのは”武藤好きのファン、武藤のコピー”だった。

そこから、内藤は”制御不能”になり、
唯一無二の内藤哲也として
新日本を代表するレスラーとなった。

その武藤に憧れた内藤が
”内藤哲也”として武藤からバトンを受け取ることに意味があるのだ。

そして迎えた2.21東京ドーム。
武藤引退試合、それは私にとって内藤哲也を見つけることでもあった。


まず、リング上で対峙する二人。
後はゴングを待つだけの武藤に対して、いつも通りゆっくり時間をかけてシャツを脱ぎ、コスチューム姿になる内藤。
まさに武藤相手に”トランキーロ”な姿勢を見せる内藤哲也がそこにいた。

そして肝心の試合。
私が強く内藤哲也の存在を感じたシーンがいくつかあった。

まず、足4の字をかけられたシーン。
武藤、10.9高田戦以降からの必殺技。
技の特性上、足を極めるときにお互いに顔を見合わせる体勢になる。
かけてる側は渾身の力で締め上げる表情、かけられてる方は痛がる顔。
氷上の格闘技がアイスホッケーなら、プロレスは表情の格闘技でもある。

締め上げる武藤に対しての内藤の表情。
私はこの場面に内藤が存在し、もっと言えば武藤に勝っていたと感じた。

悶絶する表情、目を見開き舌を出した表情から
痛みへのやせ我慢か、はたまたこんなもんじゃタップしないぞという強がりにも見えた。
また、ツバを吐きかけて挑発するムーヴからも
いつもの内藤で、武藤相手に怖気づかない姿勢が感じられた。


次に、内藤が笑みを見せたシーン。
11年前の初対戦でも内藤は笑っていた。
その時は憧れのレスラーと東京ドームという大舞台で戦えることへの喜びからくる笑顔だった。
それは、内藤がプロレスファンに戻った瞬間、いわばプロ意識の欠如だった。そして試合も武藤一色に染められた。
しかし、今回は違った。
引退の原因にもなったヒザへの攻撃、まさにベビーフェイスな武藤の顔面を踏みにじるムーヴ、ドームに響き渡るブーイングの中で内藤は不敵に笑った。
私はそこにプロに徹する”プロレスラー内藤哲也”を見た。


十分に自身の技を出した最終盤にドラゴンスクリュー、足4の字という武藤ムーヴを見せる内藤。
そこからバトンを受け取りに、いや奪いにかかった。
最後は自身の得意技デスティーノで3カウント。
試合後、拳を突き上げる内藤に武藤がプロレスLOVEポーズで返し、バトンは受け渡された。
武藤がロープをさばき、内藤がリングから降りたシーンからは
リング外が未来へのプロレス界が広がっていて、後は頼んだというメッセージも感じ取った。


確かに内藤は、内藤哲也という存在を見せた。
武藤引退試合の相手を立派にやり遂げた。
武藤からプロレスのバトンも受け取った。

しかし、興行後ファンの記憶から内藤の存在は消された。
最高のエゴイスト武藤敬司によって―。


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