軽やかに、次の場所へ[Footwork&Network vol.21 No.5]
カノムの言葉
このf&nを執筆するにあたり、「お互いのことを知る」と題してグループのメンバーと小さなインタビューを行った。リラックスした雰囲気の中、カノムがぽろりと口にした「一期一会じゃないけど、繋がりを持てた人との関係性は大切にしたいとより思うようになった」という言葉や、「場所に固執しなくなった」という言葉は、私の中で非常に印象的だった。
私自身の新たな気づき
特に、「場所に固執しなくなった」という言葉にはハッとさせられた。彼と私は偶然、同じ高知県出身なのだが、ともに共通の認識を持って上京していた。選択肢の少なさを感じながら、漂う高校を卒業したら県外に出るものという雰囲気の中、「ここ」で育ったことを自分のアイデンティティの一つという認識を持ちながらも、少し背を向けるような形で「外に出る」という選択をした。彼が、「場所に固執しなくなった」という感覚を共有してくれたことで、いわばずっと「場所」に囚われていたということを私自身がはっきり認識するきっかけとなった。
変えてくれたもの
彼の言葉について自分自身の中で昇華させると、「どこにいてもやっていける」という小さな自信が生まれていたことに気がついた。コロナの流行とともに上京することとなった私たちは、先が見えない不安感や閉塞感とともに、これまでの閉鎖的で小さなコミュニティーの中から動き出さなければいけなかった。私にとっては、少し背伸びが必要な負荷のかかる経験だったように思う。もちろん世界中の人にとっても、コロナ禍を経たオンラインの発達や浸透は、今の場所に固定されずに生きることを選択できる可能性を感じるものとなったと思うが、彼の言葉はこういった物理的な障壁からの解放以上のものがあった。場所に囚われていたことに気がつき、試行錯誤しながら重ねたここ数年の経験を省察できたことで、これから進む上で私にとっての小さな武器にする事ができるほどの気づきがあった。そしてこの「どこにいてもやっていける」という感覚に気がつかせてくれたことは、新たな出会いや少し手を伸ばす必要のある挑戦に臆する必要はないということを実感させてくれたように思う。
彼が「より繋がりを大切にしたいと思うようになった」と言うもの、どこにいる自分も想像できるようになった事が与えている影響は大きいと思う。生活を介して形成された共通の経験やアイデンティティによって繋がっていた意識も大きかったところから、場所という感覚から離れ、バックグラウンドも何もかも違う人と関係を築くなかで、個人を意識したより強固でしなやかな繋がりに重きを置くことに変化したのではなのだろうか。
次のステップへ
彼の言葉は心の奥の方でくすぶっていた私の感情を、引き出して考えるきっかけをくれた。気持ちの面で言えば、ようやくスタートラインに立てたような感じである。彼も私も、がむしゃらにではあるが行動を起こしたからこそ得られた感覚なのかもしれない。これを小さなバネに、新しい世界に足を踏み入れ、過去と未来における繋がりを積み上げていきたい。
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