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インド半導体製造プロジェクトの鍵を握る日印連携の重要性

文責:久保光太郎

インド政府は、インドにおける半導体およびディスプレイ製造のエコシステム開発のために「セミコン・インディア・プログラム(Semicon India Programme)」を立ち上げ、インド国内での半導体製造エコシステムの構築を強力に推進しています。


1.はじめに

インド政府は、インドにおける半導体およびディスプレイ製造のエコシステム開発のために「セミコン・インディア・プログラム(Semicon India Programme)」を立ち上げ、インド国内での半導体製造エコシステムの構築を強力に推進しています。

2.半導体製造プロジェクトの概要

以上のインド政府の動きに呼応し、2023年6月には米国の半導体大手、マイクロンがグジャラート州サナンドに半導体の組み立て・テスト工場を建設することを表明しました。さらに、直近では2024年2月、インド政府は以下の3件の半導体製造の計画を承認したことを発表しました。

【2024年2月に発表された半導体製造プロジェクトの概要】

上記から明らかなように、3つのプロジェクトはすべて、インド政府が提供する補助金に裏打ちされた形で、非常に大きな投資が予定されています。モディ政権は、過去10年間にわたって「メーク・イン・インディア(Make In India)」政策を標ぼうしてきましたが、具体的な成果は見えにくかったのが正直なところです。土地・労働法制改革など、掛け声は高らかでしたが、その後、尻すぼみとなった政策も多いのです。ところが、ここ数年、製造業を取り巻く風向きは明らかに変わってきました。今回の半導体製造のエコシステム構築に向けた取り組みを見ると、インド政府はいよいよ本気で製造業を国づくりの中心に据える方向に舵を切ったと見ていいでしょう。

特に注目が集まるのが、デリー・ムンバイ産業回廊の中心に位置する、インド西部のグジャラート州ドレラ特別投資地区(Dholera Special Investment Region:DSIR)です。DSIRはグジャラート州出身のモディ首相の肝いりで始まったプロジェクトと言われますが、今後は半導体関連産業の集積が期待されています。グジャラート州政府は同地に「ドレラ・セミコン・シティ」を設置し、半導体関連産業のために必要な共用施設を備えたエコシステムを開発するとしており、インド三大財閥の一つ、タタ・グループも同地に半導体の前工程工場を建設することを表明しました。

3.今後の課題と日印連携の重要性

以上の通り、順調な船出を飾ったインド半導体製造プロジェクトですが、課題は少なくありません。インドにおいて大量の水と電気を必要とする半導体の量産が本当に可能なのか、機器・素材の輸入・現地調達に関する物流サプライチェーンの構築が本当に可能なのか、人材面の教育・供給体制に問題はないのか、現地の州政府を含め、規制・税制面で足かせとなる要因がないのか等々、多くの課題が存在します。

このような課題をひとつひとつ解消し、インドにおいて半導体製造エコシステムを立ち上げる上で鍵を握るのは、日印連携の存在と考えられます。インド政府高官は、半導体プロジェクトのパートナーとして、米国・台湾などと並んで日本を名指ししており、その期待の大きさが窺われます。日本政府も、半導体サプライチェーンの強靱化を重視し、友好国との協働関係を深めているところ、2023年7月には西村経済産業大臣(当時)がヴァイシュナウ電子情報技術大臣と会談を行い、日印の協力強化を目的とした「半導体サプライチェーンパートナーシップ」に係る協力覚書に署名しました。そして、2023年11月には日印半導体政策対話が実施され、日印両国の関係者が顔をそろえ、半導体関連ビジネス促進のための環境整備について議論がなされました。2024年5月以降、2回目の政策対話の実施が予定されています。

4.最後に

以上の通り、半導体は日印協力の象徴的なテーマとなりつつあります。インドはIT人材の宝庫ですが、実は先端半導体設計の人材の供給源でもあり、世界の先端半導体の20%以上はインド人エンジニアが設計していると言われています。他方、日本は半導体素材・製造機器分野において世界的な競争優位性を維持しています。「ものづくり」の力でデジタルを支える半導体は、ハードに強い日本とソフトに強いインドが連携する格好のテーマと言えます。日本企業としても、インド側の熱い期待に応え、地政学リスクをチャンスに転換していくことが求められます。


執筆者

久保 光太郎
AsiaWise Legal Japan 代表パートナー
弁護士(日本)
<Career Summary>
米国、インド、シンガポールにおける9年に及ぶ経験をもとに、インド、東南アジア等のクロスボーダー案件(現地進出・M&A、コンプライアンス、紛争等)を専門とする。
<Contact>
kotaro.kubo@asiawise.legal


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