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データ・ドリブン・コンプライアンスのすすめ-コンプライアンス意識調査を実施する際の留意点―

文責:内藤雅子、張楚然

本稿では、海外子会社従業員向けのコンプライアンス意識調査を実施する際の留意点、 具体的には、匿名性の要否、言語の選択、質問設計の考え方及び自由記載欄の設計という 点について、実務上の経験に基づいて説明します。また、当グループが提供するサービスについても紹介します。

1. はじめに

以前の記事で、自社内のコンプライアンス・データの一つとして、コンプライアンス意識調査をご紹介しました。本稿では、海外子会社従業員向けのコンプライアンス意識調査を実施する際の留意点について解説します。

2. 匿名性の問題

コンプライアンス意識調査を実施するにあたって考慮すべき点として、まず挙げられるのが、匿名で実施するか否か、という論点です。

顕名(匿名性が担保されない方法も含みます)で実施する場合、たとえば不平不満を書き連ねるといった意識調査の目的外の記載は少なくなるという利点があります。しかし、回答者の評価に影響を与えかねない質問について、評価を意識した回答が寄せられることになるというのは留意する必要があります。

一方、匿名性が担保されている場合、意識調査の目的外の記載が増える可能性はありますが、回答者は自分の評価への影響を考えずに回答する可能性が高まります。したがって、たとえば社内ルールへの理解に対する質問に対して、自分への評価を気にせず正直に回答してもらえる可能性が高くなるでしょうし、また、自由記載欄に内部告発に近い情報を記載する場合の精神的ハードルも低くなることになります。

ただし、実施対象の部署の人数が非常に少ない場合などは、制度的に匿名性を担保したとしても、回答者としては匿名性に対する信頼を寄せるのは事実上難しくなりますので、顕名で実施した場合と同様の信ぴょう性であることを考慮すべきでしょう。

匿名にするかどうかについては、意識調査の実施目的に照らして決定するのが適切です。内部告発に類似した情報をできるだけ集めたい、そしてその情報に対して深く調査したいという場合は匿名で実施するべきでしょうし、全員から回答を寄せてもらうニーズが高い場合は後から催促できるように顕名で実施するのもよいでしょう。

3. 言語の選択

コンプライアンス意識調査の実施に当たっては言語の選択についても検討する必要があります。理想形は、回答者の母国語で実施し、回答結果については実施者の母国語にすべて翻訳することですが、コストとの関係で過大な負担になる可能性もあります。実施目的、回答者の言語能力、コストのバランスを図って、言語の選択をしましょう。

4. 分析結果から逆算した質問設計

「自社が独自にコンプライアンス意識調査を実施し、回答を集計したけれども、どのように対応をしてよいかわからない」というご相談が寄せられることがあります。このような場合には、質問設計の時点ですでに問題があるということが非常に多いです。というのも、社内における意識調査については、法務部門・コンプライアンス部門よりも、人事部門の方が経験を積んでいることが多いので、人事部門の質問を参考にしてしまった結果、「コンプライアンス違反が起きた場合に上司に相談できるか」といったような「上司への信頼度」、つまり、本来人事部門で聞くべき質問をコンプライアンス意識調査の中で質問してしまうということが多々あるのです。

意識調査における質問設計において、何よりも大切なことは、自部門の守備範囲を出発点に、分析結果を想定し、その結果への対応策を考慮したうえで質問を設計することです。先にあげた例で説明しますと、法務部門・コンプライアンス部門が実施する意識調査の中で「上司への信頼度が低い」という結果が出たとしても、それはむしろ人事部門の守備範囲であり、法務部門やコンプライアンス部門が対処することは非常に困難です。一方、コンプライアンスに関連する特定の社内ルール・社内制度の理解度について低い得点が出たというような場合には、法務部門・コンプライアンス部門が研修を充実させるなど、まさに自部門の守備範囲として対応することができるのです。そうであるとすれば、法務部門・コンプライアンス部門が設計するべき質問は後者の質問ということになるでしょう。

このように、質問設計にあたっては、自部門の守備範囲に対応した分析結果を想定したうえで、想定結果から逆算するという視点が必要不可欠なのです。

5. 自由記載欄の有無

AsiaWise Groupが対応してきた事例をみてみますと、自由記載欄によってコンプライアンス課題が浮き彫りになる事例が非常に多くあります。従業員自身が主体となって内部通報すること対しては精神的ハードルが高くても、コンプライアンス違反を告知する機会が会社の方から提供された場合には、その機会を利用して会社に伝えたいという従業員は想定以上に多く存在するようです。自由記載欄を設けると、集計の負担が増え、翻訳が必要な場合にはコストがかかるということになりますが、非常に貴重な情報が集まる機会なので、自由記載欄を設けることをお勧めしています。

自由記載欄の設計にあたっては、実施部門のニーズと回答者の負担のバランスを考慮する必要があります。回答者の負担をできるだけ減らすという観点から自由記載欄は最後に一つだけに絞るという設計もありますし、できるだけ情報を集めたいというニーズが高い場合には各設問のテーマごとに自由記載欄を設けるという設計もあります。

6. おわりに

本稿は、コンプライアンス意識調査を実施する際の留意点について解説しました。各実施部門の状況、コンプライアンス意識調査の目的に応じ、考慮するべき事項が異なってきます。したがって、コンプライアンス意識調査の実施にあたっては、必要に応じて専門家に相談することをお薦めします。

なお、AsiaWise Groupは、コンプライアンス意識調査の実施、結果分析、結果に基づくコンプライアンス体制構築から仕組みづくりまで、多くの日系企業をサポートしてきました。さらに、AsiaWise Groupが独自に設問設計した海外従業員コンプライアンス・サーベイ・サービス(CorpWell Ask)や海外拠点内部監査サービス(CorpWell Check Up)も提供しております。ご興味のある方は、お気軽にAsiaWise Groupまでご連絡ください。

以 上


執筆者

内藤 雅子
AsiaWise Technology株式会社 取締役
<Career Summary>
シンガポールの法律事務所勤務、金融機関出向勤務を経て日本へ帰国。IT企業の常勤監査役としてマザーズ上場を経験。日本企業の海外拠点におけるコンプライアンス向上に貢献すべく、AsiaWise Groupに加入。
<Contact>
masako.naito@awtec.co.jp

張 楚然
AsiaWise法律事務所 アソシエイト
<Career Summary>
2010年より来日し、2010-2014年南山大学総合政策学部、2016-2018年名古屋大学大学院法学研究科博士前期課程総合法政専攻(応用法政)、2018-2022年同研究科博士後期課程総合法政専攻(国際法政)、うち、2021-2022年大同大学にて非常勤講師(日本国憲法)、豊田工業高等専門学校にて非常勤講師(日本国憲法)として勤務。2022年5月にAsiaWise法律事務所入所。
<Contact>
churan.zhang@asiawise.legal


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