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Withコロナ時代のアジアビジネス入門㊳「インドネシア・イスラムと日本人の宗教的心性」@小川忠氏ONLINE講座

「宗教的心性 」山崎正和氏の言説 

 劇作家・評論家である山崎正和氏の言説が3月26日の深掘りインドネシアONLINE講座で取りあげられ知的興奮を覚えました。山崎氏は中央公論2020年7月号で「近代を襲う見えない災禍と、日本人が養ってきた公徳心」と題して次のように書いています。
 <コロナ危機は、近代人の秘められた傲慢に冷や水を浴びせ、人類の過去の文明、都市文明発祥以来の歴史への復帰を促す>
 <自然との交渉の中で文明が勝つとの進歩主義イデオロギーはあきらめて、今回の経験が伝統的な日本の世界観、現実を無常と見る感受性の復活に繋がってほしい>
 日本人の宗教的心性ともいうべき<現実を無常と見る感受性の復活>は大いに共感する考え方です。その無常感は感傷的な虚無主義ではなく、国民の健全な思想であり、現実変革の具体的な知恵と技を発揮しつつもそれを無常の営みと見て諦める醒めた感受性である、と山崎氏は説明しています。
世界最多のイスラム人口、アセアン最多のコロナ感染
 こうした言説をONLINE講座で取り上げたのは元国際交流基金ジャカルタ日本文化センター所長の小川忠・跡見学園女子大教授です。講座のテーマは「新型コロナ・ウイルス危機が加速させるインドネシア社会のイスラム化」。インドネシアは世界最多である2億287万人のイスラム教徒を抱え、総人口の88.1%を占めています。新型コロナ・ウイルス感染者数は3月15日現在、1,419,455人(世界18位、アセアン1位)、死者数38,426人(世界17位、アセアン1位)で、アセアンでは2位のフィリピンを引き離して断トツのトップです。
ウイルスと戦う武器としてのイスラム
 小川氏は、新型コロナ・ウイルス危機に関するインドネシア・イスラムの見方として(1)新型コロナ・ウイルスは天罰(2)新型コロナ・ウイルスは自然災害の一部、宗教と無関係(3)新型コロナ・ウイルスは神が人類に与えた試練。理性と信仰を総動員して乗り越えないといけない――の3通りを示し、主流をなすのは(2)と(3)であると指摘しました。さらに、ウイルスと戦う武器としてのイスラム(パンデミック下、信仰を必要とする社会)の“理論”として(1)天罰論否定と社会、人類との連帯(2)相互扶助、利他精神(3)近代医学との共存=衛生観念ほか(4)祈りと弔い――をあげました。インドネシアで興った「イスラム本来に戻るべき」という近代イスラム改革運動であるムハマディヤ(Muhammadiyah)の2020年3月19日の金曜説教では、イスラム教徒がなすべきこととして、「神に対する信仰を深めよ」、「社会的距離を保ち、金曜礼拝を自粛せよ」、「支援を求める人をすくえ」と提唱されました。
ハラール・ワクチンと緊急事態下での見解
 当然ながら、インドネシア社会の「イスラム化」はパンデミック対応にも影響し、国民のハラール(イスラム法的に許されたもの)・ワクチンへのこだわりも顕著になります。
 小川氏によると、インドネシアでは中国シノバック社開発のワクチン接種が1月14日からスタートしました。2022年までに人口の7割以上、1億8千万人の接種完了を目標としています。ワクチン接種にあたっては中国製ワクチンの安全性チェックにイスラム組織が同行し、製造工程がハラールなのか確認しました。一方、政府幹部やイスラム幹部はパンデミックという緊急事態に「ワクチンがハラールであることを神は求めていない」との見解を示しています。インドネシアの国家食品医薬品監督庁(BPOM)は3月9日、英製薬アストラゼネカが開発したワクチンの緊急使用を承認しましたが、「同社のワクチンはハラーム(イスラム法的にやってはいけないもの)であるが、緊急事態に鑑みて許可した」(小川氏)ことはインドネシアの政治と宗教の関係を考えるうえで重要なポイントになると思います。

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