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メタバースで起業して1年で諦めた話

2023年6月30日をもって合同会社アシュトンラボは休眠・解散の手続きに入ります。メディアプロジェクト「メタカル最前線」は個人成りをし、サークル活動として規模を縮小し、継続することとなりました。といっても、実態としては何も変わりません。これまで通り、これからはより皆さんの力を借りて個人でできる範囲で自由に運営をしていければと考えています。

この1年間に、いや数年間に私に何があったのか。改めてここに経緯を記録しておきます。

VRChatを始めてすぐに思った「もっと知りたい・届けたい」

私は2020年10月からフリーランスのウェブライターとして活動を始め、主にVRメディア「PANORA」にてVTuber関連のニュースや配信レポート、イベントレポートなどを執筆していた。その流れで、VRゲームをレビューしたり、VRゴーグルを貸していただく機会もあり、以前から興味があった「VRChat」を始めたのが2021年3月。

初めてすぐに没入して、毎日数時間なんなら朝までログインするほどの熱狂的なプレイヤーになった。そもそもが、「VR系メディアのライター」として始めたVRChat。当時ちょうど、「ソーシャルVR」や「VRSNS」「メタバース」というワードが流行り始めていた時期だったこともあり、「このプラットフォームの面白さ、ここで生まれるユーザーカルチャーの現在を発信していきたい」という想いは早い頃からあった。

2021年4月末。「PANORA」にて、初のVRChat関連記事「その場で着替えが楽しめる! VRChatで4/26~5/5まで開催の「VRoid Fashion Mall」を体験レポート」を執筆する。

そこから、2021年6月には、NPO法人バーチャルライツ公認第0期VR文化アンバサダーの肩書を拝命し、「ソーシャルVRに広がるユーザーカルチャーの魅力をもっと知りたいし、もっと届けたい」と私の主な関心はVRChatに向かった。

その頃から「VR文化エヴァンジェリスト」計画といってみて、いちウェブライターという枠にとらわれず、VRChat内でのイベント活動や、個人でのブログ、YouTube発信などにも力を入れ、より幅広い発信活動を行おうと試行錯誤をしていた。

「文章を書くのは好きだけれど、個人だけではできない”面”の発信をしていきたい」

徐々に、個人発信というかソロプレイに限界を感じてきて、2021年末の「年越しメタバース」あたりから「チームでの発信」に可能性を感じていた。

ちなみに、今思い返すとこの頃はまだ「PANORA」でのライターの仕事や、2019年からのインターンアルバイトの貯蓄などもあり、お金にはさほど苦労せず、「好きなことに全力で」いれた時期だった。

Metaの大号令とメディア対応

2021年10月、Metaの大号令から「メタバース」がバズワードとして一気に注目を集めた。当時、私は「ようやく、メタバースが世間に浸透するチャンスが芽生えた」という想いと同時に『メタバースの土地が〇億円!NFT!まだ可能性の話!』という報道の論調に、「すでにここで生まれているユーザーカルチャーが脚光を浴びるべきだ」という想いがあり、PANORAにて以下の記事を寄稿した。

「週100時間メタバース」。このいかにも”マス受け”しそうなキャッチフレーズに、ABEMA Primeが食らいつき、その後「週刊SPA!」「サンデー・ジャポン」「報道ランナー」「チャント」……さまざまなマスメディアが取材をしにきた。

この時、私が思ったことは2つある。

  • これは、時代の最先端にたまたま自分がプレイヤーとして立ち会えている千載一遇のチャンスだ

  • 「週100時間メタバース」なんてたまたまキャッチ―に消費されているだけで、何か手を打たないとただ消費されるだけで終わってしまう

そして、以前から温めていたメディアプロジェクト「メタカル最前線」を始動した。

当初は、YouTubeのチーム運営から本格化しようと考えていたが、たまたま声をかけてくれた笑福さん、ほなふくさんのおかげで、Wordpressサイトが想定より早く立ち上げられる算段が付いたこと、やはり文字媒体出身のため、文字メディアの運営の方が馴染みやすかったこともあり、ウェブメディアからのスタートとなった。

最初は「サークル団体としてスタートして軌道にのったら仕事にできれば」と考えていたメタカル最前線だったが、2022年初めころから私個人に「メタバースについて教えてほしい」みたいなふわっとしたアドバイザー案件、コンサルティング案件がぽつぽつと入ってきていたこともあり、「早く法人化したほうが良い」みたいな声が周りからも多かったのだ。

ちょうど、同じくプロジェクトを運営していた水瀬ゆずが自身の法人を建てると決心をしたこともあり、2022年7月に合同会社アシュトンラボとして法人を設立することとなった。

「法人設立は計画的に」

今思えば、これが選択ミスだった。

ぽつぽつと増えてきていたコンサルティング案件は、取引先のメタバース事業縮小などにより立ち消えに。「メタカル最前線」はまだ立ち上げ期で、マネタイズ手段を持たない。立ち上げ後すぐ、合同会社アシュトンラボは売上ゼロになった。とはいえ、そもそも「取引」がほぼ発生していない状況のため、収入もなければ支出もない。まずはお金のことは横において「メタカル最前線」の運営に注力しようという話になった。

そもそも私は絶望的なまでに経営に向いてなかった。私の前にあるすべてのことは「面白そう」か「面白そうではない」か、興味を引くか引かないかであり、儲かりそうかどうかの基準で考えられなかった。「面白そうだけどお金にはならなさそう」なことに精を出し、「お金にはなりそうだけど、面白くなさそう」なことはたくさん断ってきた。面白くなさそうなことを引き受けたところで、そもそも私はパフォーマンスを出せない。今でもその判断が間違っているとは思わない。

ただ、「経営」という点においては当然大間違いだ。2022年7月に立ち上げた合同会社アシュトンラボは、2023年6月一期目を終了するわけだが、売上といった売上はほぼ発生していない。当然その間の役員報酬はゼロだ。

そんなことをしていたら当然、個人のお財布事情も大変なことになるよね。その間、他の仕事やアルバイトなどは一切しておらず、まだらに訪れる個人請けの執筆案件など以外は無収入。貯金をジリジリ食いつぶしていたら、ついに首が回らなくなった。

マジの無一文。楽しみは生活の安定があってこそ

2023年2月。「このままでは新幹線代がなくなって京都に軟禁されてしまう……!」私は実家に戻ってきた。

2023年6月。口座残高が1000円になった。当然、この後入ってくる予定のお金はない。マジの無一文だ。

不思議なものでお金が無くなると漠然とした不安を抱える。これまでも、実家を出て一人暮らしを始めてから、口座残高が数百円程度になることなどザラにあった。ただ、来月の収入源は決まっていた。しかし、いまはそれがない。水道から水が出ることが分かっていたらコップの水なんて飲みほしても何の不安もないが、次いつ水道が使えるか分からないのだ。人生はお金ではないと思っていた私ですら、真綿で首を絞められるような閉塞感がある。

正直もう「失敗」を認めるべきだろう。
私は経営者の器ではない。私にお金の管理はできない。お金儲けのことは考えられない。好きなことをして生きていきたいだけの子供だ。私はただ自由に好きなことをしていたいだけなのだ。

メタカル最前線は、ずっと私の好きな活動だ。VRChatもclusterもNeosVRも、ソーシャルVRで生み出されるユーザーカルチャーはどれも面白いし、もっと知りたいしもっと届けたい。そして、それを支えてくれる仲間もできた。これからも続けていく。たとえお金にならなくても、楽しむだけの価値がある。

ただ同時に、それは安定した生活があってこそだろう。
安定した生活がなければ、楽しめるはずのものも楽しめない。お金が無くなり、失敗だと気付いた道を歩き続け、真綿で首を絞められるような閉塞感に苦しめ続けられると、どんどん「楽しむ余裕」がなくなってくる。最近は、昔なら楽しめた、心が動いたはずの出来事に出会っても、何も感じないのだ。メンタルがやられているのがよくわかる。

メタカル最前線を続けるためにも、楽しむべきことを楽しめる心に戻るためにも、自由に好きなことをして生きていくためにも、一旦は休憩を取り、アルバイトでも探して、また一人暮らしをできるくらいのライスワークを見つけてくる。また楽しむ余裕を見つけてくるまでは、少しの間隠居させていただきます。

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