月のいろ

夜。
ぼくは、月に憧れなんかなかった。ひとりでここで生きていけばいいと思っていた。友も少しずつ去っていったけれど、ゆっくりのんべんだらりんなのが、ぼくにはいいのだ。

真っ赤な月は、きらびやかで華やかだけど、炎の時。バチバチとはげしくてうるさくて、ぼくには合わない。それにカラダが焼けてこげてしまう。
見えないように家に入り、カーテンをしめて、見えないようにした。

蒼い月は冷たくかがやいていて、ぼくを拒否しているように沈黙している時。だれもぼくになんか興味を示さない。それに風もビュービューふいていて、外にいたら飛ばされてしまいそう。
ぼくは家のとびらをしめて、ガタガタいう窓を押さえる。

白い月は、すべてを無に帰してしまうような時の月。真っ白になって、なんにもなくなってしまう。それに雪が降ってきて、こごえて外にいられない。ぼくも真っ白になって何もなくなってしまう。家の中に入って、毛布の中にまるくなって過ごした。


そんななか、手紙が届いたんだ。
それは見たことない色の月からだった。
ぼくは、なんとなくだけれど、その月が見たくなって、家を出て、それを探して歩きはじめた。

ひとりぼっちでも…
いいのだけれど…

そうして歩いていくうちに、まちがえて、真っ暗な黒い月に入ってしまった。ここはだあれもいない、なにも見えない時、いちばんこわい時の月。
ぼくなんかでさえもひと口で食べてしまうようような、こわいおばけがいるって話だ。うなり声のようなもの、さけびごえのようなものも聞こえてきた。

こわくなって、足がすくんで前にも進めず、ぼくは座り込んでしまった。どうしたらいいのかわからなくなっちゃって、そのままふさぎ込んでしまった。

するとポケットからシールが落ちたんだ。
あの手紙に付いていたシール。月のシールだ。
なんとなくそうするべきだと思って、それをはがしてむねに貼ってみた。
そしたら、あたたかい光がぼくをつつんで、道がみえたんだ。
黒いお化けもすこし怖くなくなった。

進んでいくと、優しい手が、そっとさしのべられた。「きみをむかえにきたよ。」

「どうして?」

「きみは月の色が変わるたびに、ずっとさみしそうにしてただろう?
それにきみには、やさしさがあるからさ。」

だって、でも、
ぼくは月になんか興味はなかった。
ぼくはずっとひとりぼっちだった。
でも、でも…
ぼくがひとりぼっちだとおもってたのはつよがりだった。
ぼくから、ひとつぶの涙がこぼれた。
それが三日月の形になって、ひかりかがやいたんだ。

「ほら、これがきみのやさしささ。」

「これってなあに?」

「これは、黄色い月だよ。
やさしさでできているんだ。」

そう言うと、その人は手をつないでくれた。

「さあ、行こう」

そしてあたたかい、このやさしい、黄色という色の月の時にだけ開くというお店に入った。
そこには、これがまた、見たことのない、みどりといういろの、クリームソーダというあまいあまい飲み物もあって、とてもしあわせな気分になった。

ぼくは月になんか興味なんてなかった。
ひとりでいられると思っていた。
でも、こうして黄色い月のお店にこられたことが、すばらしく嬉しいことだおと思ったんだ。

もう、
ぼくは、
ひとりぼっちじゃないんだ。
また黄色い色の時はお店にいこう。

ありがとう。

ありがとう。

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